第11話 勝負①
「な、何だコイツ!?」
「同じ人族が……俺たちの背後に!?」
「…………」
精鋭たちの声には、隠しきれない動揺が混じっていた。
自分たちが完全に包囲していたはずの通路。
そこに――いつの間にか、一人の少年が立っている。
誰一人として、その接近に気付いた者はいなかった。
ギルバートは、声を出すことすらできずにいた。
喉が張り付いたように動かず、頭の中では理解を拒む思考だけが渦を巻いている。
(おかしい……)
(見張りは完璧だった。気配も、魔力も感じなかったはずだ……)
「ギルバート様! 一体どうなっているんですか!?」
精鋭の一人が、焦りを隠せない声で問いかける。
「クククッ……」
それに応えるように、ギルバートは低く笑い始めた。
だが、その笑みは余裕から来るものではない。
恐怖を誤魔化すための、歪んだ虚勢だった。
「落とし前だと? 貴様のような生意気な若造が、この儂に?」
優里は答えない。
ただ、感情の読めない瞳で、静かにギルバートを見据えていた。
その視線が、かえってギルバートの神経を逆撫でする。
「ガァハハハハハ!!」
不自然なほど派手な高笑いが、森に響き渡る。
「どこの誰かは知らんが、わざわざこの儂を敵に回すとはな!
これほど身の程を知らぬ小僧は、貴様が初めてだ!」
ギルバートは斧を舌で舐め、獣のように顔を歪めた。
「はぁ……」
優里は小さく息を吐き、淡々と言葉を紡ぐ。
「僕が、なぜここまで貴方を誘い込んだのか。
僕とリナが、どういう関係なのか。
……他にも、考えることはあると思いますけど?」
その落ち着きは異様だった。
命のやり取りを目前にしているとは思えないほど、静かで冷静。
「確かに、あの女は不気味だ。
どれほどの実力を持っているのかも分からん」
ギルバートは周囲の精鋭たちを見渡し、勝ち誇ったように続ける。
「だがな、数はこちらが圧倒的に上だ!
しかも、ここにいる精鋭どもは全員、レベル120を軽く超えている!」
精鋭たちは武器を構え、嘲笑するような視線を優里に向けた。
(――それでも、なぜだ?)
ギルバートの胸に、言い知れぬ違和感が広がる。
少年は、数を見ていない。
敵意すら、ほとんど感じられなかった。
「誰の差し金かは分からんが……
貴様、冒険者ではなさそうだな」
「うーん……間違ってはいませんね」
優里は少し俯き、素直に答えた。
「はっ! あの女と組めば、儂らを殺せると本気で思っているのか?
すぐに分からせてやる!」
ギルバートは声を荒げる。
「力の差というものをなぁ!」
そして背後を振り返り、精鋭たちに怒鳴り散らした。
「お前たち! 何をぼうっとしている!
さっさと、あのクソガキを殺せ!」
欲望に濁った視線が、精鋭たちを煽る。
「ガキを殺した者には!
貴族の仲間入りができるよう、儂が援助してやろう!」
その言葉に、精鋭たちの目の色が変わった。
「貴様らだって、良い思いをしたいだろう!
絶対に、奴らを逃すな!」
「わ、分かりました、ギルバート様!」
「おい、後ろに回れ!」
「了解!」
「行くぞ!」
二人の精鋭が前に出て馬に飛び乗り、地響きを立てて優里へ突進する。
「相手はヒューマンのガキだ!」
「ここで手柄を立てれば、俺たちも貴族だ!」
――だが。
次の瞬間。
乾いた破裂音と共に、二人の胸に風穴が穿たれた。
「……は?」
理解が追いつく前に、身体が宙を舞い、地面へと叩きつけられる。
「ヒヒィーン!」
主を失った馬たちは恐怖に駆られ、森の奥へと逃げ去っていった。
その場に残ったのは、
一瞬で戦闘不能となった精鋭二人と、凍り付いた空気だけ。
「ユーリ様に刃を向けるなどという愚行――
決して、見過ごせません」
白髪に赤い瞳。
完全な戦闘態勢へと移行したリナが、二本のレイピアを構えていた。
その姿を見た瞬間、
ギルバートはようやく理解する。
――自分は、とんでもない存在を敵に回したのだと。




