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第10話 初めまして

 翌朝。

 ギルバートは十名の精鋭を引き連れ、リナを捜索現場まで馬車で案内していた。


 調査対象の森は深く、視界も悪い。

 一行はマジックアイテムを適宜使用し、無用な戦闘を避けながら慎重に奥へ進んでいった。


「今日はこの辺りで休憩にしよう」


 木々がまばらな、見通しの良い広場に到着すると、ギルバートがそう指示を出す。

 精鋭たちは手際よくテントを張り、数名が周囲の警戒に回った。


「ありがとうございます、ギルバート様。

 私の願いのために、ここまで手厚い対応をしていただいて」


 腰を下ろしたギルバートに、リナは丁寧に頭を下げる。


「気にするな。儂は領主として当然のことをしたまでだ」


 余裕を滲ませた口調で、ギルバートは答えた。


「ですが、ギルバート様にばかりご負担をかけるのも心苦しいです。

 私にも何か出来ることがありましたら、遠慮なくお申し付けください」


「それなら――」


 ギルバートは、すぐ近くにある泉を指差した。


「万が一に備えて、あの泉の水を汲んできてくれんか。保存水として使いたい」


「はい。お任せください」


 リナは素直に頷き、バケツを手に泉へと向かう。


 ――その瞬間だった。


 リナが完全に視線を外した刹那、ギルバートは無言で合図を送った。

 精鋭たちが即座に動き、通路を塞ぐように配置につく。


(打ち合わせ通りだ。逃げ道も完璧に潰した)

(よそ者というのは、本当に扱いやすい。油断したところを、じっくり使ってやるか)


 口元を歪め、ギルバートは内心で嗤った。


「アンドレスの件は、実に残念だった。

 儂の力が及ばなかったばかりに、あのような結末を迎えるとはな」


 同情を装った声音で、リナに声をかける。


「……本当に、嘆かわしいですね」


 泉での作業を止め、リナがぽつりと呟いた。


「理不尽な環境に耐え切れず反乱を起こし、

 その結果、薄汚い領主に冤罪を着せられるなんて……」


「……ん?」


 ギルバートの眉が、わずかに動いた。


「私がもっと、あちらの事情を知り、側につくことが出来ていれば……

 鎖を付けられ、蹴りつけられ、ボロボロになって死ぬことなど、決してなかったはずです」


 リナの声は静かだった。

 だが、その一言一言が、確実に空気を凍らせていく。


「……ああ、本当に――不快です」


「ッ!?」


 ギルバートは反射的に武器を抜き、後退した。


(なぜだ……?)

(屋敷の内部で起きたことを知るのは、儂と、ごく一部の人間だけのはずだ……!)


「ギルバート様?」


「どうしたんですか、急に?」


 精鋭たちは事情を理解できず、戸惑いの声を上げる。


「貴様……何者だ!」

「どこの差し金だ! 他国のスパイか!?」


 怒鳴りつけるギルバートの前で、リナの黒髪が、風もないのにゆっくりと浮かび上がった。


「スパイ……ですか?」


 淡々とした声で、リナは立ち上がる。


「私が忠誠を誓うのは、ただ一人。

 ユーリ様のみです」


 その瞳が、冷たく細められる。


「我がメイドの掟を侮辱するおつもりなら――

 今ここで、ご自身の腑の色が何色か。確認させていただきますよ」


 リナが振り向いた瞬間、

 圧倒的な威圧が、ギルバートたちを押し潰した。


 精鋭たちは息を呑み、声を失う。

 足は地に縫い止められ、指一本すら動かせない。


 まるで、首元に見えない刃を突きつけられているかのようだった。

 動けば即死――誰もが本能で理解していた。


(ば、馬鹿な……!)

(相手はただの人族の女だぞ……!)

(それなのに……この殺気は……!)


 ギルバートの額から、冷や汗が止まらない。


(まずい……このままでは、本当に殺され――)


「リナ、駄目だよ」


 その時、背後から穏やかな声が響いた。


「まだ、彼らを殺してはいけない」


 全員が弾かれたように振り向く。


 通路の先。

 フードを被り、黒い杖を手にした少年が立っていた。


「特にギルバートには――

 きちんと、落とし前をつけてもらわないといけないからね」


「……はい」


 リナは即座に威圧を収め、一歩下がった。


「い、いつの間に……!」

「誰も、いなかったはずだぞ……!」

「油断するな! 仲間がいるかもしれん!」


 精鋭たちが動揺する中、ギルバートだけが言葉を失っていた。


「それにしても……」


 少年は淡々と続ける。


「リナが強いとはいえ、これだけの人数で襲おうとするなんて。

 本当に、聞いた通りの人ですね」


「き、貴様……何者だ!」


 斧を突きつけ、ギルバートが叫ぶ。


 少年は左手でフードに触れ、静かに外した。


 そこに現れたのは――優里だった。


「初めまして」


 穏やかな笑みを浮かべ、優里は左手首を軽く振る。


「依頼主との約束通り、今までの落とし前を付けに来ました。

――ギルバート男爵」

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