第1話 クラス転移
クラスごと異世界へ召喚された高校生・羽澄優里。
何の特別さもない日常は、
ある日突然、説明もなく切り捨てられる。
第一話は、
彼が「選ばれる前」にいた場所と、
「選別される瞬間」を描いた物語です。
ここから始まるのは、
英雄譚ではありません。
――ただ一人、
不要と判断された少年の物語です。
――その日は、何の変哲もない平日だった。
昼休み明けの教室。
ざわつく声、黒板に残るチョークの粉、窓から差し込む午後の光。
優里は、机に肘をつきながら、ぼんやりと外を眺めていた。
(……今日も、特に何もないな)
それが、正直な感想だった。
特別目立つこともなく、
特別評価されることもなく、
ただ“そこにいる”だけの存在。
クラスの中心では、伊沢昭一が相変わらず騒いでいる。
「なあ聞いたか!? 最近また“異世界召喚もの”流行ってるらしいぞ!」
「はいはい、またその話?」
「いや今回はマジで来るって! 直感がそう言ってる!」
(……直感で人生が変わるなら、苦労しないんだけど)
優里は苦笑し、視線を戻した。
その瞬間だった。
――世界が、音を失った。
キィン、と高い耳鳴りが走り、
視界が一瞬、真っ白に染まる。
「……え?」
机も、壁も、窓も――
すべてが、溶けるように崩れた。
足元から感覚が消え、身体が宙に浮く。
「な、なにこれ……!?」
悲鳴が上がる。
誰かが泣き、誰かが叫ぶ。
だが、その声さえ、途中で引き裂かれた。
光。
圧倒的な光に包まれ、
優里の意識は、強制的に引き剥がされる。
――そして。
次に目を開いた時、
そこは教室ではなかった。
白亜の神殿。
高い天井、円柱、床一面に刻まれた巨大な紋様。
空気は澄み切っているのに、どこか息苦しい。
「……ここ……どこ……?」
クラスメイトたちが、混乱した様子で立ち尽くしている。
「夢……?」
「いや、痛い……現実だ……」
優里は、胸の奥に奇妙な感覚を覚えていた。
(……見られている)
視線ではない。
もっと広く、冷たい“観測”。
空間そのものが、こちらを測っているような感覚。
そのとき――
神殿の奥から、足音が響いた。
白銀の外套を纏った男が、静かに歩み出る。
年齢は分からない。
感情の起伏が、一切読み取れない顔。
男は一同を見渡し、淡々と告げた。
「ようこそ、異界からの来訪者たちよ――」
その声は、歓迎ではなかった。
説明でも、慈悲でもない。
まるで、
“処理の開始”を告げる宣言のように。
優里は、なぜか確信していた。
(……ここから先で、何かが決まる)
それが、
自分にとって“良い結果ではない”ことも。
こうして――
彼らの運命は、静かに動き出した。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
次話では、
彼らがこの世界で
どのように「扱われる存在」なのかが明らかになります。
羽澄優里に下される評価と選択が、
この物語の出発点です。
引き続き、お付き合いいただければ幸いです。




