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サフュネ討伐戦

 シルフ達を乗せた片側四輪の装甲輸送車両はラミタ国首都ラミタから北東の山岳地帯へと、ハファの町を横目に進んでいる所だった。偶然、視察用窓の側に座っていたシルフは、ハファの町を眺めながらそこに住む知人の事を思い出していた。彼は軍隊時代の特技兵仲間だった。

 部隊の先輩にあたる彼は、配属直後から彼女の面倒をなにくれとなく見てくれた。移民して間も無い、知りあいの一人も居なかったシルフにとって、彼は頼れる兄貴の様な存在だった。

 彼女より半年早く除隊した彼は今ハファに住んでいる筈だ、とシルフは懐かしい顔を思い出していた。


 ハファの町を過ぎると全行程の四分の三程を消化した事になる。シルフは改めて装備の点検を始めた。

 強化(Powered)外骨格(Skeleton)PSの動作確認。

 PSの胸にあるボタンを押し、インジケータを点灯。

 インジケータの目盛を見て、背嚢型高密度バッテリーの満充電を確認後インジケータを消灯。

 右肩に掛けた小銃型レールガン、レールライフルとバッテリーの接続確認、銃の電源投入。各部動作を確認後電源断。

 擲弾発射筒の装着確認。

 続けて短機関銃、大型戦闘用ナイフ、ニードル型実体弾、弾薬、擲弾と、どんどん手慣れた手つきで淡々と点検を進めていく。バーナードチームのメンバーも黙々と自身の装備を点検していった。


 サフュネ遺跡への登山口で装甲輸送車両を降りた警備部の一行は、遺跡への道程の半分程を獸の群れに遭遇する事なく踏破した。ここまでで二チームが夫々1/4の地点(1Q)と1/2の地点(2Q)で道の安全確保をする事になった。この先は二チームで3/4の地点(3Q)と遺跡を確保する事になる。

 アラン係長が、自身のチームを率いて登山口の確保していた時、その通信が届いた。

『こちらバーナード。アラン係長。3Qで群と遭遇、包囲された。これより戦闘行動に入る』

「こちらアラン。バーナード。2Qより増援を送る。それまで持ち堪えろ」

『バーナード了解』

「こちらアラン。2Qのダン。3Qでバーナードらが包囲された。増援四名を出せ」

『こちらダン。3Qへの増援四名了解』

「こちらアラン。1Qのエリク。2Qに四名増援を出させた。お前の所から2名2Qへまわせ」

『こちらエリク。2Qへ2名派遣します』

「くそっ、やられたな」

 一通りの指示を出し終え毒突くアランは続報がくるのを今か今かと待つのだった。


 バーナードは斥候から進行方向に十数頭の群が居るとの報告を受けた所だった。

 道は浅い谷底の様になっており左右の傾斜の比較的緩い。樹木が生い茂る斜面は、獸が隠れて近寄る為の遮蔽物をふんだんに用意してくれていた。

 包囲を恐れたバーナードは斥候以外のメンバーに左右の斜面の警戒を命じた。

「シルフ、前に来い」

 最後尾で後ろを警戒していたシルフがバーナードの下へ駆け付ける。

「俺達は左右の警戒に当る。お前は前方の群の注意を引き付けてくれ」

「了解です。幸い風上は此方です。忌避剤でも撒きましょうか」

「よし、それでいけ。全員、マスクとゴーグルを着用しろ。1班は右斜面を、2班は左斜面を警戒。動け」

 バーナードの命令とそれは同時に起きた。左右の斜面から数十頭の群が現れたのだ。その一部は後方へと回り込んで来た。バーナードはすかさずアラン係長へ報告する。

「……バーナード了解。バーナードチーム左右へ攻撃。チェスター、後方は任せる。2Qから増援が来る。それまで持ち堪えろ。

 シルフ、前方の群、任せたぞ」

「了解」


 シルフは、落ち着き払っていた。発射筒に忌避剤を詰め込んだ擲弾を装填し前方の群れへ近づいていった。チームから離れ過ぎない様注意しながら、擲弾の射程距離に獸の群が入るのを待つ。左右に広がった群の数は十五頭程だ。

 比較的ゆっくりと接近していた獸の群が全力失踪へと移るべく力を溜めた瞬間を狙ってシルフは擲弾を発射した。群の少し手前で炸裂した擲弾は、中身の忌避剤を獸達へとぶち撒けた。風に乗って拡散する忌避剤を浴びた中央の獸達8頭は、目と鼻を前足で何度も擦り続け、身悶え地面を転げ回った。

 シルフはその一団を確認しながらも、忌避剤の被害を逃がれた獸達へレールライフルの照準を合せた。

 連射の効かないレールライフルを有効に使用するため、シルフは右へ左へと走り周り獸達の気を引きながら徐々に後退し発砲を繰り返す。PSは彼女の動きを支援・強化し、獸達に追い付かせる事をしない。

 一秒に一発の発砲。ニードル型実体弾は寸分違わず獸の目を穿つ。

 七秒後には、忌避剤の被害を受けていない獸は、全て地に伏していた。シルフは残りの藻掻き苦しむ獸達に向けてトリモチ弾を見舞い身動きを封じたのだった。

「こちらシルフ。バーナード主任。前方の群、制圧完了」

「了解。進行方向九時の群に攻撃、頼む」

「了解」

 シルフは斜面を登り樹木の陰に身を潜めながら獸の群へと近づいて行き、短機関銃の掃射を開始したのだった。


『アラン係長。バーナードです。3Qでの戦闘終了しました。増援ありがとうございます』

 アランがその報告を受けたのは、増援を命令してから数十分後の事だった。内心安堵した彼は、それを声には出さず普段通りを取りを繕う。

「了解した。被害はどれ位だ。チェスターだけで3Qの確保は出来そうか」

『被害は軽微。チェスターに確保を任せて問題ありません。弾薬の補給だけお願いします』

「すぐ送ろう。補給後に遺跡確保に向え。後、増援には隊に戻るよう指示してくれ」

『バーナード了解』

 交信を終了したアランは、過ぐに弾薬の運搬を指示した。

「これ以上何も起こらなければ良いが」

 アランの懸念は残念ながら的中するのだった。


「俺の目はどうかしてしまったのか……」

 信じられないものを見る様な目でバーナードは目の前の光景を見詰めていた。シルフも同じ思いだった。

 戦闘が終了し補給を待つ間、射殺した獸を一箇所に纏めた時それは起った。射殺した筈の獸達が、一頭、また一頭と身を起し始めたのだ。四足で立ち上がった獸達は戦意もあらわにバーナード達警備員を睨みつけた。

「……これは、無理だ。2Qまで退却するしかない。シルフ、二人付ける。殿(しんがり)を頼めるか」

 確かに、この中での適任を考えたら自分が努める以外の選択肢は無いだろう、と考えたシルフは一つ頷いた。

「……了解」

 頷き返したバーナードは自身の短機関銃の弾薬をシルフに渡す。

「良し。退却だっ。2Qまで退却する。チェスター先頭に立て。そこの二人、シルフと共に殿を努めろ」

 頷いた二人にシルフは早口で自分の考えを告げながら弾薬を手渡す。

「自分が気を引く。足止めを頼む」

 弾薬を受け取りながら了承した二人を伴い、シルフはバーナード達と獸達の間に立った。

「全員、動け」

 バーナードの掛け声と共に退却が始まる。ちらりと後ろを振り返ったバーナードの目にはPSを巧みに操りスピードで獸達を翻弄するシルフと、短機関銃で足止めする二人の部下が見えた。

「頼む。無事、合流してくれ」


 シルフ未帰還。

 その報告をアラン聞いたのは1Q、2Qを放棄して全ての警備員が登山口に戻って来た後だった。

「弾薬の尽きた二人を先に退却させた様です。以降、連絡がありません」

「そうか」

 鎮痛な面持ちで報告するバーナードに対し、アランの口調も重いものだった。

「あいつらが生き返るなど今迄の報告書には無かった。今の装備では捜索もままならん。態勢を整え直すまでは無事でいる事を祈る事しか出来ん」

 登山口の向こうを見遣るアランと、額に拳を当て俯くバーナード。

 二人はしばらくの間、身動き一つせずシルフの無事を祈るのだった。

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