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第93話:限られた時間を、ずっと四人で

「私はコストを払い《カワケモの探検隊》を召喚。山札を一枚捲り、それがモンスター以外のカワケモカードなら手札に、それ以外なら墓地に送ります。私の引いたカードは――《カワケモの騎士》、このカードはそのまま墓地へ行きます」


 明日香は続けて手札のカードを発動する。


「私は手札の《カワケモの守り神ミミノン》の効果を発動! 墓地にカワケモモンスターが五枚以上ある場合、このカードはコストを払わず召喚できます! 私の墓地は先ほど落ちた騎士によりちょうど五枚です」


「なるほど、あの墓地肥やしはどちらに働いても仕事をするわけですね」


「さらに私はコストを払って《カワケモの騎士》を召喚! 効果により手札の救援隊を場に出します。救援隊の効果は使わず、私は手札からさらに魔術師を召喚します」


(墓地にも魔術師がいるのに、わざわざ手札からの召喚――これは何かありますわね!)


 明日香の展開を見てエレナは震えていた。けれど、それはもう初めての恋心からくる不安ではなかった。


 鼓動が跳ねる。胸の奥がざわめく。明日香の言葉、想い、そしてカードたちのひとつひとつが、確かな熱となってぶつかってくる。盤面に広がっていく“可愛い”の物語。それは単なる布陣ではなく、彼女の心そのもの。


 エレナの瞳がきらきらと輝き、どこか胸の奥から湧き上がるような高揚を隠しきれずにいる。


 その様子を見た明日香の口元が、にやりと緩んだ。まるで、次の遊びを思いついた子供のように。


 明日香は手札を整えながら、ふと視線を盤面から外す。柔らかく笑みを浮かべたその顔は、どこか遠くの記憶を思い出しているようだった。


「……遊園地とか、映画とか、美味しいもの食べに行くのとか、楽しいことって他にもいっぱいあると思います。きっと、私もそういう時間が大好きです」


 一度、手札に目を落とし、そしてゆっくりと顔を上げる。


「でも――カードゲームには、“勝ちたい”とか“うまくなりたい”とか、悔しいとか嬉しいとか、そういう気持ちが『相手』と一緒に生まれるんです。ちゃんと向き合わなきゃ届かない気持ちが、ここにはあるって思ってて」


 その言葉には、明日香が歩んできた葛藤と、それを越えた今がにじんでいた。


「それぞれが選び抜いたカードでデッキを組んで。いえ、例えそれが同じカードでも、初手の状態、ドローの揺らぎ、それぞれの戦い方がある……でも、だからこそ楽しい! それが大好きな相手とのバトルなら、何度だって心が動いて、何度だって笑えちゃうんです!」


 彼女はカードを掲げ、宣言するように言い切った。


「さあ行きますよエレナさん! 私は手札から《カワケモ・ハートリンク・ラストシンフォニー》発動! このカードは私の場にカワケモモンスターが五体以上いる場合、墓地のカワケモモンスターを五体デッキに戻すことにより発動できます!」


「それは発動条件のあまり、明日香さんが採用を見送っていた⁉」


「そうです! でもこのカードのイラスト、最高に可愛いんですよ‼」


 そう言って明日香はパチンとウインクしていく。エレナはそんな明日香から目を外すと自身の盤面を見つめる。


「うっ、わたくしはエターナルクリアシャインの効果でモンスター以外の効果の発動を無効にしたいところですが……」


「その通りです。《カワケモの守り神ミミノン》が召喚されたターン、私のカワケモモンスターは破壊されず、またカワケモカードの効果発動に対し相手はカードを発動できません! 《カワケモ・ハートリンク・ラストシンフォニー》の効果、このターン場のカワケモモンスターは【速攻】が付与され、攻撃力が倍になり、さらに相手にブロックされない! 響け、絆のメロディ! カワケモで総進撃します‼」


 明日香の指先が舞うようにカードに触れる。それはまるで、音もなく響く旋律を奏でる指揮者のタクトだ。並び立つカワケモたちはその合図に応えるように総攻撃を仕掛けた。


 エレナはゆっくりと手札をテーブルに伏せていく。そしてまるで何かを認めるように「まいりました」と瞳を閉じていった。明日香は「ありがとうございます!」と頭を下げると、愛おしそうにラストシンフォニーを手に取る。


「このカード、発動条件は難しいしからずっと採用せずにいたんです。でも和夢君を見てたら、私ももっと自分の可愛いが詰まったデッキを作りたい。そして私の大好きを思い出させてくれた和夢君をもっとワクワクさせてあげたいって、そう思ったんです」


「…………明日香さん」


 明日香の言葉を聞いてエレナはギュっと胸が締め付けられる。エレナは未だに自身の恋心を受け止められずにいる。だがもしこれが恋心だと認めてしまったら、それは同時に明日香の恋敵になることを意味する。それはあまりにも悲しかった。


 だが明日香の言葉はそれで終わらなかった。


「でもそれだけじゃないんです! 確かに和夢君は私に大好きを思い出させてくれました。でも初めに私に大好きを与えてくれたのは、誰でもない、エレナさんと蓮さんなんです‼ 確かに私は和夢君に恋をしています。でもその恋に負けないくらい、私は二人のことも本当に大好きなんです‼」


 明日香はその場から立ち上がると、力強い眼差しで二人を見て続ける。


「私は高校生活という限られた時間を、この四人で楽しく過ごしたい。例え途中で和夢君が誰かと恋仲になったとしても、それでもずっと笑って四人でカードゲームをしていたいんです!」


「それでは明日香さんはわたくしたちのことを考えて……」


「私達に限ってと甘く考えたくなかったんです。初等部の時も、中等部の時も、そうやってギクシャクしちゃった友達を何度も見て来てますから。やっぱりそれだけ恋って言うのは凄い物なんです……」


 その時のことを思い出しているのだろう。明日香は辛そうにギュッと目を閉じる。


「わたくし、わたくしは……」


 エレナも明日香と気持ちは同じだ。この四人でずっとカードゲームをしていたい。これからもこの四人で楽しいことをしていきたいと思っている。だがエレナはその言葉に素直に頷けなかった。


 それは、決して和夢を独り占めしたいというわけではない。自分の気持ちが恋なのかどうか――エレナにはまだ、はっきりと分かっていない。


 だからこそ、ここで軽々しく頷いてしまうのは、自分自身をごまかすようで嫌だったのだ。


(明日香さんはバトルを通して心の全てをさらけ出してくれました。ですがわたくしはまだ、伝えるべき言葉も想いもまだ……)


 重苦しい無言の空気を打ち消すように蓮が手を叩く。


「ほいほい、とりあえずそろそろ時間もやばいだろう。明日香の想いはエレナに伝わってるし、エレナがいま何を言い悩んでるのかは明日香も分かるよな」


「はい、何て言っても私の大好きな先輩たちですからね」


「じゃあ今日はここで一度解散だ。エレナも慌てることはねえぞ。ゆっくりゆっくり考えて、それでももし悩むようならあたしや明日香にその時の気持ちを話してくれ」


「………申し訳ありませんわ」


「いよっし、それじゃあ今日はこれにて解散。帰るぞ!」


 そう言って蓮はエレナのカードをしまうと、そのまま半強制的に起き上がらせる。その間に、蓮は明日香にアイコンタクトを送ると、明日香は「大丈夫ですよ」と柔らかい笑みを浮かべていくのだった。




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