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第91話:それはきっとライクではなく(後編)

「ただ……自分でも、本当によくわかりませんの」


 そう言ってエレナは肩を落とし、かすかに笑った。


「あの日、わたくしは目標を、神崎美咲さんに勝ちたいということを和夢さんに伝えました」


 ぽつりと、エレナは呟くように続ける。


「和夢さんが……神崎美咲さんに勝つために力を貸してくれとおっしゃってくださったあの日のことを。本当に月が綺麗だったあの夜がずっと頭から離れませんの」


 明日香は静かに耳を傾ける。蓮は少し戸惑ったような顔をしながらも次の言葉を待った。


「この感情をぼんやりと意識したのは配信を見ていた時……いいえ、テスト期間を終えて久しぶりに和夢さんの顔を見た時だと思いますわ」


 エレナは胸元に手を当て、そっと押さえる。


「和夢さんの顔を見るたびに、どうしようもなく鼓動が早くなりますの。胸の奥がざわざわして、なんだか落ち着いていられない。大規模トーナメントの決勝だってこんなに心乱れたことはなかったはず……明日香さん、蓮、わたくしはどうしてしまったのでしょうか……」


 エレナの瞳には、混乱と戸惑いが色濃く浮かんでいる。だがそんなエレナと違い、明日香にはその感情の答えがハッキリ分かってしまう。蓮も薄々とながら遅れてハッとした顔をする。


「ひ、久しぶりに和夢後輩にあって浮かれちまったんじゃねえのか? ほら、エレナの言うようにテスト期間中、ずっと会えてなかったわけだし」


「そ、そうなのでしょうか……」


 エレナは蓮の言葉に納得がいっていないようだ。だがそれは当たり前だ。エレナの感情はそんな軽いものではないのだから。


「…………エレナさん」


 明日香はその感情の名前を口にしようとする。だが口を開こうとしたとき、まるで言葉が喉の奥に詰まって動かないような感覚が彼女を襲った。


(もしエレナさんがその感情を自覚しちゃったら、私は……)


 言葉が喉に引っかかり、どこか遠くの声のように響く。だがそれでは駄目だ。蓮と自分ではこの感情に対しての立場が違う。もしここで誤魔化してしまったら、自分はもうエレナと友達ではいられない。そんな気がした。


(エレナさんも蓮さんも、私にとっては本当にかけがえのない誰よりも大切な人……だからこそ)


 明日香はゆっくりと深呼吸をする。その表情には迷いや憂いはもうない。そして彼女は溢れ出しそうな感情を、ゆっくりと一つ一つ言葉にしていった。


「エレナさん大丈夫ですよ。だって……私もエレナさんの気持ちわかりますから」


「お、おい明日香‼」


「明日香さん……?」


「エレナさんはきっと…………和夢君のことが好きだって無意識に自覚しちゃったから、だから心が混乱しちゃってるんですよ」


「和夢さんのことが? で、ですがわたくしは元々和夢さんのことは大好きですわよ??」


 エレナの戸惑いに、明日香はふっと目を伏せ、小さく笑った。その笑みはどこか切なげで、けれど優しいものだ。もう蓮も止める気はないようだ。ゆっくりと明日香の行動を見守っていった。


 明日香は少し唇を噛んでから、ゆっくりと顔を上げる。その瞳は、迷いのないまっすぐな光を宿していた。


「えっと、言い方が少し悪かったですね。エレナさんは……和夢君に恋をしているんですよ。ライクではありません、ラブのほうです」


「ライクではなく、ら、ぶ――――⁉」


 エレナは明日香の言葉に驚き、顔を真っ赤に染めた。予想外の告白に、心臓が一気に早鐘のように打ち始め、顔が熱くなるのを感じる。


「え、ええっ⁉ わ、わたくしが……和夢さんに恋しているって、そんな、ええっ⁉」


 言葉がまとまらず、エレナは何度も口を閉じたり開いたりする。何とか落ち着こうとするが、恥ずかしさがエレナを支配し戸惑いが募るばかりだ。


「で、でで、ですが、明日香さんはどうして? わ、わたくし自分のことですのに、な、何も理解できていなくて」


 エレナは勢いのまま思った言葉で質問する。きっと普段の落ち着いたエレナなら、この質問はしなかっただろう。その先の答えなど考えるまでもないのだから。


「………………」

 蓮は見ていられないと両眼を閉じて口を紡ぐ。それはと逆に、明日香はエレナの目を見つめ静かに頷きながら言葉を続けた。


「エレナさんの気持ち分かりますよ。だって……私も和夢君に恋をしてるんですから」


 明日香の表情は決して困惑していない。むしろ落ち着いていて、どこか優しさが滲んでいる。


 エレナはその言葉を呆然と受け止め、しばらく頭の中で何度も反芻した。けれどそれが答えであると、そう伝える様にその言葉がふわりとエレナの中に染み込んでいくのを感じた。


 明日香は静かに首を振り言葉を続ける。


「エレナさん、まだこの後時間ありますか?」


「え、ええ、大丈夫ですわ」


 明日香はそこで一度言葉を止める。そして鞄の中からデッキケースを取り出し構えて見せた。


「今からバトルしませんか。そこで話しましょう、エレナさんのこと、私たちのこれからのこと」


 明日香の真剣な瞳は見れば、そのバトルが話を逸らすためのものでないと分かる。


 エレナはその提案に戸惑いながらも頷いていくのだった。



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