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第89話:胸の高鳴りを誤魔化すように

 毎日数話ずつ見てていたアニメ版レジェンドレコード。その視聴もあと数話で第二シーズンの終わりを迎える。それを和夢は三人に伝えると、和夢のマンションでの『第二回 レジェンドコード鑑賞会』が決定した。


 和夢は前回と同じく待ち合わせの駅前へと向かう。するとそこにはすでに三人の姿があった。


「和夢くーん、こっちこっちー!」


 一番に手を振ってくれたのは明日香だ。今日は涼しげなノースリーブのブラウスに、淡いミントグリーンのスカート姿だ。揺れるスカートと軽やかなスニーカー姿が、夏の日差しの中でキラキラしていた。


「おっ、来たな和夢後輩」


 蓮は淡いグレーのTシャツに、ロングスカート姿。肩に薄手のカーディガンを羽織っていて、前よりもずっとラフで柔らかい雰囲気だ。いつも猫背気味な蓮も今日は少しだけ背筋も伸びてる気がした。


「ごきげんよう、和夢さん」


 エレナは、真っ白なワンピースに金色の髪をふわりと下ろしていた。手にはつばの広いストローハットを持っていて、控えめに微笑むその姿はまるで映画のワンシーンのようだ。


 三人の夏の装いに思わず目を奪われていると、蓮がニヤニヤと顔を歪ませる。


「ほれほれ、前みたいにあたし達に何か言うことはないのか~?」


 蓮がニヤニヤ笑いながら、和夢の脇腹に肘を当てていく。その圧に押されつつも、和夢は三人を改めて見渡し、少し照れたように口を開いた。


「えっと……凄く似合ってます。明日香さんのスカート凄く爽やかで可愛いしですし。蓮先輩も柔らかい雰囲気で大人っぽいです。エレナ先輩は、その……なんかもう絵になり過ぎて映画のワンシーンかと思いました」


 言い終えた瞬間、三人ともぱっと表情をほころばせた。


「ふふっ! ありがと、和夢くん!」


 明日香が嬉しそうに笑って、スカートの裾を軽く摘まんでくるっと回る。


「ねっ、これ、いいでしょ! お店で見つけた時、夏に絶対着たかったんだ〜!」


「おー、言う様になったな和夢後輩。ふふん、まあ褒められるのも悪くないな」


 蓮は肩に掛けたカーディガンをちょいと直して、ちょっと得意げな顔をする。そんなふうに明日香と蓮は和夢の言葉を素直に喜んでいた。だがエレナの反応は少しだけ違った。


「……わ、わたくしもそう言っていただけて選んだ甲斐がありましたわ」


 エレナはそう言って帽子を胸元で軽く抱える。その頬にほんのり赤みがさしていて、普段の落ち着いた様子とは違って見えた。


「だ、大丈夫ですかエレナ先輩、何だか顔が真っ赤ですけど」


「も、もも、問題ありませんわ。ささ、早速和夢さんのマンションに向かいましょう」


「って、エレナ先輩そっちは逆ですよ!」


 和夢がすぐに指摘すると、エレナは軽く目を丸くして立ち止まり、顔を赤くしながら自分の歩いていた方向を確認する。


「あっ……本当ですわ……すみません、わたくし、少し焦っておりましたのね」


 エレナはすぐに反対方向へと歩き直し、顔をさらに赤くして、照れ隠しのように小さく笑う。


 その様子を見ていた明日香と蓮は思わず顔を合わせてしまう。


「エレナさんどうしたんでしょうか?」


「さあな?」


 今日のエレナは何かが違う。いや、正確には配信の視聴中からその兆候はあっただろうか。


 明日香と蓮はガチガチのエレナをしっかり見守りながら、和夢のマンションへと向かうのだった。



 和夢の部屋に到着すると、みんなで飲み物を用意し、軽くお菓子を並べて、すぐにアニメ鑑賞会の準備を始めた。画面の前には、いつものように三人と並んで座ることになる。


 和夢は床に座り、背中をベッドの縁に預ける。右隣には明日香、左隣にはエレナが、それぞれ同じように背中を預けて座っていた。


 明日香はお気に入りのスカートの裾を整えながら、楽しげに画面を見つめていた。エレナは姿勢を正しつつも、どこか落ち着かない様子で、時折和夢の方をちらりと見る。そのすぐ後ろ、ベッドの上には蓮がいた。


「ほい、和夢後輩、ちょっと失礼な」


 蓮はひょいとベッドに腰を下ろすと、和夢の背中側、ベッドの端に両足を投げ出し、和夢の両肩の上に太ももを乗せるような形で、まるで肩車のような体勢を取った。


「うわっ⁉ 蓮先輩、な、なにしてるんですかっ⁉」


 和夢は思わず肩をすくめ、慌てて振り返ろうとするが、蓮はその頭をがっしりと抑えた。


「おっと、今振り返られるとさすがにあたしも恥ずかしいぞ」


「いや、それじゃどうしてこんな体勢を?」


「実はな、前回アニメ見てる時もずっと脚を伸ばしたいって思ってたんだよな。こりゃ楽だし、むしろちょうどいいわ」


「れ、蓮先輩……」


「それに和夢後輩は、あたし達が嫌がるようなことはしないだろ? 安心安全、これでも和夢後輩のこと、すごく信用してるんだぞ~」


 蓮はにやりと笑い、ケタケタと軽やかな笑い声をあげる。ここ数週間で、蓮との距離はかなり縮まったように思える。


 和夢との関係が、ある種のチキンレースのように感じられることもあるが、それは蓮が和夢を心から信用しているからこそ成り立つものだろう。蓮は鼻歌交じりに、和夢の頭に腕を乗せる。


「あっ、いいな蓮さん。それじゃあ私も――――どーんっ!」


 明日香が和夢のほうに軽く寄りかかりながら、声を上げた。


「あ、ああ、明日香さん⁉」


「えへへ、私も和夢君のこと信用してるから大丈夫だよ~」


 明日香は和夢の腕に頬をスリスリと押し当て、そのまま軽く甘えるような仕草を見せた。


(こ、この流れは…………)


 和夢は恐る恐るエレナの方を見る。すると、エレナはにこりと微笑みながら、穏やかな表情を浮かべていた。


「では、そろそろ鑑賞会を始めましょうか」


「えっ、あ、はい」


「どうかしましたか、和夢さん?」


「い、いえいえ、何でもないです」


 和夢は少し焦りながらも、エレナに対応する。今までの流れを考えれば、エレナも何かしらのアクションをしてくるかもしれないと思っていたが、思いがけず虚を突かれ、少しだけ気が抜けた。


 それは蓮と明日香も同じようで、先ほどまでのテンションが少しだけ落ち着いたようだった。蓮はコントローラーを手に取る。


「よし、それじゃあ第二シーズンの残り六話、視聴していくぞ!」


 蓮は決定ボタンを押し、アニメ鑑賞会が再び始まる。見慣れたOPが流れる。すると和夢は左手の小指の爪が何かにカリっと引っ掛かれる。


(うんっ?)


 違和感の方向を見て見ると、和夢の小指がエレナの小指に引っ掛かれていた。エレナはカリカリと和夢の小指の爪を何度も引っ掻く。そのむずがゆさに思わず声をあげそうになるが、くすぐったい程度で我慢は出来る。


「………………」


 エレナは今度は自身の小指を和夢の小指をすり合わせていく。和夢はエレナの指の感触を小指に感じながら、小声をあげる。


「あ、あの……エレナ先輩?」


「どうかなさいましたか、和夢さん」


「い、いえ……その、なんでもないです」


 確かに何でもないと言えば何でもないのだ。何でもあると言えば、肩に太ももを乗せている蓮や、体を預けている明日香の方がよほど距離の近い行為だ。


 しかしエレナの静かな触れ方は、なぜか胸の奥が妙にざわついた。


「………………」


 オープニングが終わると、エレナは小指を絡めるように重ねてきた。指切りげんまんを交わすような、大したことのない接触。そのはずなのに、なぜか和夢の心は大きく揺れていた。


(何だろう……何か今までで一番恥ずかしい気がする……)


 こみ上げる羞恥心を振り払うように、和夢は小さく首を振り、アニメに意識を集中させようとする。それはまるで胸の鼓動の高鳴りをごまかすような行為だった。



●あとがき

皆さんの高評価とブックマークのおかげで、本当に久しぶりにランキングに載ることが出来ました。

とても嬉しいです。本当にありがとうございます。

これからも応援していただけたら幸いです。

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