第84話:これからもずっと一緒に
水着売り場を離れた和夢は、しばらく歩きながら顔の熱さを冷ましていた。
(何だか頭の中がぐるぐるするな)
気分転換が必要だと思ったが、どこへ行けば良いか分からない。とりあえず、売り場を歩き回りながら、どこか落ち着ける場所を探していると、ふと目の前にアクセサリーコーナーが現れた。
(ここは……そうか、明日香さんと一緒に来た場所か)
血に飢えた白獣の件を思い出すと、何気なしに商品を見渡す。
「あの時はゆっくり見られなかったけど、結構いろんな物があるんだな」
ふと、目立たない場所に並んだ小物やレザー製のアイテムが和夢の視線を引きつける。その中でも、特にシンプルで落ち着いたデザインのアイテムに目が止まった。
「これは……これぐらいのがいいかもしれないな」
和夢は鞄の中にある茶封筒を確認する。いくつかの商品を手に取ってみる。
「す、すみません。少しお伺いしたいことがあるんですけど」
分からないことはプロに聞いた方がいい。カードゲームを通してそれが身に染みている和夢は、それらの商品について店員に尋ねていくのだった。
◆
フードコートのテーブルに座る和夢、明日香、エレナ、そして蓮。明るい昼下がり、買い物の後にちょうどいい場所で、お腹もすいてきたため、みんながそれぞれ注文した料理を前に並べていた。
三人とも水着はそれぞれ気に入ったものが選べたようで、後半役に立てなかった和夢もほっと安心する。
そして和夢は注文したラーメンをささっと食べ終えると、先ほど買ってきてそれに手を伸ばす。和夢は少し緊張しながらも、袋を手に持ち、三人に向かって差し出した。
「これ、皆さんにプレゼントです! バイト期間が短かったのであまり大したものではありませんが……」
三人は驚いた様子で和夢を見つめ、それぞれ袋を受け取る。袋を開けると、全員分の可愛いマスコットのついたレザータグが出てきた。タグはナチュラルな色合いのレザーに、「LOOP」という文字が刻まれており、シンプルでありながらも洗練されたデザインが目を引いた。
「店員さんに聞いたんですけど、『LOOP』の文字には、終わりのない繋がり――友情や関係が続くことや、何度も挑戦して成長することなどの比喩的表現があるそうなんです」
明日香がレザータグを手に取り、目を輝かせながらそっと指先でなぞった。
「すっごくいいね! ……これって、私たちがこれからもずっと繋がっていられるってことだよね‼」
その声は胸の奥にまで響くほどの純粋な喜びに満ちていた。
エレナは手元のタグを大事そうに両手で包み込み、にっこりと微笑む。
「本当に素敵な意味が込められていますわね。和夢さん……気持ちのこもった贈り物、本当に嬉しいですわ。わたくし……一生の宝物にしますわね」
蓮は少し照れくさそうに目を逸らしながらも、タグを胸元に重ねるようにして握りしめる。
「……こういうの、正直めちゃくちゃ照れるんだけどさ。でも……ありがとうな和夢後輩。大事にする」
その声音には、普段は見せない真っ直ぐな思いがにじんでいた。
三人の喜ぶ顔を見て、和夢は少し恥ずかしそうに肩をすくめながらも、どこか誇らしげに言葉をこぼす。
「皆さんに喜んでもらえてよかったです。……まあ、これがなくても『皆さん』の友情は永遠に不滅だとは思いますけどね」
和夢がそう口にした瞬間、三人はふと息をそろえたように顔を見合わせる。なぜか胸に引っかかる違和感が広がり、蓮が眉をひそめて尋ねる。
「ところでよ。このレザータグは和夢後輩の分も買ってるんだよな?」
「えっ、買ってませんよ。だってこれは三人への普段のお礼ですし?」
と言って不思議そうな顔をする和夢に、三人は一瞬だけ視線を交わす。そして次の瞬間、まるで示し合わせたかのように一斉に手を伸ばした。
カチャリと箸を構え、お昼ご飯へと向き直る。その動作には、どこか使命感すら漂っていた。
「……?」
状況が飲み込めず、和夢は目を瞬かせる。だが彼が何かを言い出す前に、三人は迷いなく、ご飯を一気にかき込みはじめた。
「ちょっ、ちょっと⁉ 皆さん、そんなに急いだら――」
和夢が慌てて止めようとするも、三人の箸は止まらない。明日香はもぐもぐと口いっぱいに頬張りながら、目だけでエレナと蓮にうなずく。エレナは気品すら纏った早食いを披露し、蓮はというと、どこか戦場に臨むような真剣な表情だ。
「の、喉に詰まらせないようにしてくださいね⁉ ゆっくり、ゆっくり!」
必死の呼びかけもどこ吹く風。やがて三人は見事なまでに同時に最後の一口を口に運び、音もなく箸を置いた。
完食。まさに鮮やかなコンボを見ているようだった。
その沈黙の数秒後、三人の間にふっと空気が緩み、誰からともなく、ぷっと小さな笑いがこぼれる。
「ふふ……もう、ほんとに和夢さんったら」
「こういうとこ、天然すぎなんだよな」
「だから放っておけないんですけどね~」
呆れ半分、愛しさ半分――そんな三人の視線を一身に浴びながら、和夢はますます困ったように頭をかくのだった。
明日香がそっと鞄の持ち手を広げ、先ほど買ってきたレザータグを丁寧に通す。それに続いてエレナは気品ある手つきで一つ一つを確かめ、蓮は少し照れくさそうにしながらも真剣に取り付けていく。
タグが揃って鞄に取り付けられると、ナチュラルな色合いのレザーに刻まれた「LOOP」の文字が、光の角度で微かに輝く。まるで絆を象徴しているかのようだった。
「それでは皆様いきましょうか」
「そうですね、エレナさん」
「ああ、そうだな」
三人は立ち上がると和夢の周りに集まる。そして両腕を拘束するとそのまま立ち上がらせていった。
「えっ、へっ、皆さんどこに??」
和夢が慌てて三人を見回すと、エレナが微笑みながら言った。
「もちろん、和夢さんの分のレザータグを買いにですわ。だって、和夢さんはわたくしたちの大切な仲間なんですから」
「えっ、でも、僕、皆さんにプレゼントする為に今日は――」
戸惑う和夢の言葉に被せるように明日香が声をあげる。
「私たちみんなでお揃いがいいの! 和夢君がいなかったら、こんな素敵な友情の証も意味なくなっちゃうんだから‼」
明日香の言葉に蓮は深く頷く。
「その通りだ。あたし達はもう大切な仲間同士だろ?」
蓮が少し照れくさそうに言ったが、口元には笑みが浮かんでいる。エレナが優しい声で蓮に続く。
「和夢さんの気持ち、本当に嬉しかったですわ。だからこそ、わたくしたちも和夢さんとその気持ちを共有したいんです」
「そうだよ、和夢君。私たちみんなで一緒に大事にしたいんだから!」
と明日香がうなずく。蓮はちょっと気恥ずかしそうに、でも真剣に続ける。
「そういうわけだ。あたし達三人でプレゼントするから、和夢後輩は今回もおとなしく恩を売られてればいいんだよ」
三人に口々に言われると、和夢は少し驚きながらも、胸が温かくなるのを感じていた。
「……ありがとうございます。エレナ先輩、明日香さん、蓮先輩」
「はい」
「うん!」
「おうよ」
三人は元気よく答えると和夢を引き連れて、再びアクセサリーコーナーに向かう。その途中、和夢は少し照れながらも、心から嬉しそうに笑っていくのだった。
◆あとがき
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
今回の物語をもちまして、『ようこそ、TCGユニークビルドの世界へ』は第二部の締めくくりとなります。
次回からは物語内の時を少し進め、新たな章が幕を開けます。物語もまた新しい展開を迎えていきますので、ぜひ楽しみにしていただけたら嬉しいです。
これからも変わらぬ応援をいただけましたら、とても励みになります。
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それでは――次の物語で、またお会いしましょう。




