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第83話:照れて慌てる君が見たい

 平日の夜。ライソの同時通話に繋がる画面には、エレナ、蓮、明日香のアイコンが並んでいた。最初は他愛のない話をしていたが、やがて明日香がふと声の調子を変える。


「……ちょっと変なこと言ってもいいですか?」


 その真剣な口調に、蓮は嫌な予感しかしなかった。眉をひそめながらも、ため息混じりに「まあ、いいぞ」と返す。


「私……久しぶりに和夢先輩の照れて慌てふためいてる顔が見たいんですよね」


「………………はぁあ~~??」


 蓮は思わず声を漏らした。画面越しにも伝わるほど、あからさまに顔をしかめる。まるで突拍子もない発言を聞かされ、脳が一瞬フリーズしたかのようだった。


 もしかしたら聞き間違いかもしれない。そう思い、蓮は慎重に聞き返す。


「お前……今なんつった?」


「だから、久しぶりに和夢君の照れて慌てふためいてる姿が見たいなって言ったんです」


 明日香は、ふざけている様子もなく、ごく真面目にそう言った。


「………………」


 蓮は言葉を失った。これは冗談なのか? それとも本気なのか? どちらにせよ理解が追いつかない。困惑した蓮は、エレナに助けを求めるように振る。


「……おいエレナ、何か言ってやれよ」


 会話を振られたエレナは、一瞬考えるように沈黙する。だが、次の瞬間、まるで当然のように言い切った。


「わかりますわ」


「わかるのかよ⁉」


 蓮が勢いよく頭を抱える音が通話越しに響き渡る。


「いやいやいや、お前らちょっと待て。何でそんな発想になるんだよ?」


 蓮が苦悶の声をあげると、明日香が真剣な声で説明を始めた。


「何だか最近、和夢君が頼りになり過ぎると思うんですよ。私たちのピンチに颯爽と現れたり、この前の大会では全勝もしてましたし」


「……頼りになることは、いいことじゃねえのか?」


「それはそれ、これはこれなんですよ!」


「分かりますわよ、明日香さん」


 そこへエレナが優雅に同意する。


「最近の和夢さんは魅力的な面が多くなり、わたくし達とも仲を深めています。ですが、それは同時に、少しずつわたくし達に慣れているということでもありますわ……たまには和夢さんがわたくし達に囲まれて困っている顔を見たい。そういうことですわね?」


「流石エレナさん、分かってもらえて嬉しいです!」


 明日香とエレナが意気投合し、通話越しに笑い合う。


「………………あたしはもう通話切ってもいいか?」


「駄目ですよ!」


「駄目ですわよ!」


 ステレオ音声で制止され、蓮は深々とため息をついた。


「……で? 明日香はどうしたいっていうんだ」


「それはですね――和夢君に買い物に付き合ってもらうんですよ」


「買い物だぁ? それでどうやって和夢後輩の困り顔が見れるんだよ」


 ますます話が読めず、蓮は訝しむ。だが、明日香は何かを企んでいるように、不敵に笑った。


「ふっふっふ……絶対に見れますよ。ねぇ、エレナさん」


「――もしかして、以前話していた『あれ』のお話ですか?」


「あれの話ですね!」


 二人が含み笑いを交わすと、通話の空気が一変した。


「………………」


 嫌な予感しかしない。いや、ここまできたら確信レベルだ。蓮は震える指で通話を切るボタンに伸ばしかける。


 だが内容を聞けないというのも、それはそれで怖すぎて指が止まった。


 そして明かされる明日香の計画。


 それを聞いた蓮は、結局通話を切らなかったことを、心の底から後悔するのだった。



 ◆

「どうしても和夢君に手伝ってほしいことがあるんだよね!」


 金曜日の夜、ライソのグループ通話で明日香が言ったその声は、真剣そのものだった。これは、本当に困っているに違いない。そして、三人が困っているのなら、和夢に断る選択肢はない。


「皆さんにはずっとお世話になってばかりですし、全力でお手伝いしますよ!」


「流石和夢さん、頼りにしていますわね♪」


「…………はぁ」


 ノリノリで返事をしたエレナに対し、蓮は深いため息をつく。


 そして土曜日の昼。和夢はデパートの女性用水着コーナーの真ん中に立たされ、自分の発言を激しく後悔していた。


(な、何でも手伝うとは言ったけど……これは、ちょっと、かなり……)


 周囲には色とりどりの水着が並び、マネキンは堂々とビキニを着こなしている。すれ違う買い物客はほとんど女性ばかりで、男子高校生の自分がぽつんと立っていることが、居心地悪さのピークだった。


 そんな時、目の前の試着室から明日香の声が聞こえた。


「じゃあ、和夢君こっち、見てくれるかな!」


 明るい声で呼ばれた和夢は、重い足取りで彼女の元へ歩み寄る。明日香は試着室のカーテンを開ける。花柄のビキニとパレオを身にまとった姿で、モデルらしくポーズを決めてニッコリと和夢を見つめた。


「どう、和夢君? 似合ってるかな?」


 楽しげに尋ねる明日香に、和夢は目を逸らし、しばらく言葉を絞り出せずにいた。


 やがて視線を戻すと、明日香の水着姿が予想以上に映えて、顔が熱くなっていくのを感じた。


「か…可愛い…と思います……本当に、とても……」


 言葉を口にした瞬間、和夢は顔を赤くし、下を向いてしまう。明日香はその反応に満足そうにニコニコし、さらに和夢に近づいてきた。


「えぇ~、もっとちゃんと見ないと分からないんじゃない~」


 和夢は顔を真っ赤にしながらも、「あ、明日香さん、その、近すぎますよ」と必死に視線を外してしまう。


「う~~ん、これだよこれ。うん、ありがとね、和夢君!」


 そう言って明日香は満足そうに試着室に戻っていった。するとすぐ隣の試着室からエレナの声が聞こえてきた。


「か、和夢さん、そこにいらっしゃいますでしょうか?」


 少し気まずそうな声に、和夢は「あっ、大丈夫です。いますよ」と返事をする。


「で、でしたら……よろしくお願いしますわ……」


 その声に続いて、試着室のカーテンが引かれエレナが姿を現した。ここに来るまでの間、正直エレナは明日香同様ノリノリのテンションであった。だがいざその場面が来るとそうはいかなかったようだ。


 黒いビキニを身にまとったエレナは、普段の自信に満ちた態度とは裏腹に、恥ずかしそうに胸元を手で隠している。


 すらりとした体つきにもかかわらず、柔らかな曲線が際立ち、彼女の品のある美しさを引き立てていた。和夢はその仕草にドキッとし、顔が赤くなるのを感じた。


「ど、どうでしょうか?」


 エレナは少し視線を下に向け、恥ずかしそうにゆっくりと和夢を見る。和夢は驚きつつ、ぎこちなく答える。


「に、似合ってますよ…すごく綺麗です……」


 言葉を口にした瞬間、和夢は顔を赤くし、下を向いてしまう。エレナは顔を真っ赤にしながら、少し視線を上げて言う。


「あ、ありがとうございますわ。でも……やっぱり、ちょっと恥ずかしいですわね」


 小さくつぶやくように言い、エレナは再びカーテンを引いた。そして次の試着室からは、ガサガサと音がする。


「おーう、和夢後輩見せるぞ~」


 その瞬間、返事を待たず試着室のカーテンが開かれた。現れたのは、予想以上に落ち着いた雰囲気の水着を身にまとった蓮だった。ネイビーのワンピース水着、シンプルながら胸元と背中に繊細なレースが施され、大人っぽさを引き立てていた。


「ふぅ……まぁ~、あの二人を見た後じゃ、つまんねえだろ。別に感想はいいぞ~、うん?」


 蓮は少し不満そうに言いながら、和夢の方を見た。和夢は顔を真っ赤にして、視線を床に落とした。その反応の意味に蓮が気づかないわけがない。


「なっ、なぁっ――⁉」


 それが分かると蓮の顔も一気に赤くなっていく。蓮は「タンマ、タンマ」と口に出すが、和夢は恥ずかしさを堪えて声にあげる。


「蓮先輩の水着……大人っぽい蓮先輩に凄く合っていると思います!」


「ああ、分かった分かった。和夢後輩はそういう奴だよな! とりあえずありがとうな‼」


 と言って一気にカーテンを引いていった。三人の水着を立て続けに見せつけられ、和夢のキャパシティーは完全に限界を超えてしまう。


 和夢は「少し頭を冷やしてきます」と三人に声をかけて、水着売り場から離れていくのだった。



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