第7話:三つの選択肢と一つの答え
そして物語はプロローグに戻る。今日は和夢のデッキについて相談会だ。
エレナは両手を握り締め天井を見上げると「やりますわよー‼」と目に炎を宿していたそんなエレナを蓮はやれやれと言った顔つきで見る。
「……和夢後輩、エレナはああ言ってるがそこまで本気にならなくても大丈夫だからな」
「どういうことですか?」
「もちろんあたしも負けるためにデッキを組んでるわけじゃない。でもエレナほど本気で勝ちにいってるかと言われるとどうだろうな」
そう言って蓮は自身のデッキケースを手に取り言葉を続ける。
「……あたしはあたしの好きなデッキ楽しく回せればそれで結構満足なんだよな。まああたしみたいな考え方もあるし、あんまりプレッシャーに思うなってことだ」
そう言葉にする蓮はどこか難しそうな顔をしていた。そんな空気を感じ取ったのか、明日香が和夢に椅子を寄せる。
「私は可愛いカードを見せるために戦ってる感じかな。私のデッキを見て他のプレイヤーも可愛いモンスターを使うようになってくれたら嬉しいなってね」
「スリーブもデッキケースもカワケモ一色ですもんね。僕に届いたように明日香さんの好きはきっと伝わると思いますよ」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいかな」
明日香は照れくさそうに頬を掻く。そうしていると、天を仰ぎ見ていたエレナが和夢に向き直った。
「そ・れ・で・ですわ。和夢さんの使いたいカードは確か≪ブラックブレイズドラゴン≫でしたわよね」
「はい、かなり古いカードだとは思いますけど皆さんは知ってるでしょうか?」
和夢がそう言うと三人は不思議そうに目を合わせる。エレナは少し困惑したように質問した。
「和夢さんはレジェンドレコードのアニメは見ていませんこと?」
「あっ、はい……中学卒業までアニメも漫画もほとんど禁止だったので」
「なるほど、そういうことでしたのね。えーっと、そうなりますとどこから説明したらいいでしょうか?」
エレナが口に手を添え考え出すと、代わりに蓮が説明を始める。
「情報が多いから端的に説明するぞ……レジェンドレコードはアニメ化と同時にカードゲームとしての販売も決まった作品だ。アニメの第一シーズンから第四シーズンまでを無印と呼んでる。ブラックブレイズの初登場はその第一シーズンだな」
「なるほど、そうなんですね」
「第一シーズン放映時のブラックブレイズの人気は……正直凄く高かったと思う。それこそ主人公グループを食っちまうくらいにな」
「ということは、ブラックブレイズは主人公グループのカードではないんですね?」
「その通りだ。ブラックブレイズを使うのは主人公のライバルの部下である四天王の最後の一人だ」
「そ、そう聞くと近いような遠いような微妙な距離ですね」
「ああ、その通りだ。これが第一シーズンならまだ強敵として登場していた。だが第二シーズンに入り、ライバルが主人公の仲間になるとその影はドンドンと薄くなっていった。第二シーズンもしばらくすると、新しい敵の強さを見せるための負けキャラクターにまで落ちていくな」
「……それでカードゲームの世界からもブラックブレイズは消えたんですね」
和夢がそう言うと蓮は首を横に振る。
「他の四天王のモンスターは確かに消えた。だがブラックブレイズはその見た目と人気故に消えることはなかった。同時に主人公でもライバルでもボスのカードでもないブラックブレイズが日の目を見ることもなかった」
「それでもブラックブレイズは……」
「ああ、本当に細々とだが強化をもらってる。いや、新しい能力の実験材料にされてるってほうが正しいか…………まあこれ以上は能力の説明と環境の歴史も必要になるから、とりあえずはこんなところだな」
「ありがとうございます蓮先輩」
「……おう」
蓮は「あー、疲れた」とペットボトルのお茶を飲む。
蓮が説明を終えると、対面にいるエレナは嬉しそう≪クリアシャインドラゴン≫のカードを見せた。
「ちなみにわたくしのクリアシャインドラゴンやアルティメットクリアシャインは無印のライバルのカードですわ」
「私のカワケモは無印のヒロインのカードで、蓮先輩の女神は無印の第三シーズンのボスが使ってたカードだね」
エレナと明日香はそう説明すると、示し合わせるように互いに目を合わせる。そして「うんうん」と頷き合っていった。
「しかし和夢さんがLRのアニメを見ていらっしゃらないとは」
「これはそのうち鑑賞会が必要かもしれませんねエレナさん」
「そうですわね。初めてお目にかかる方からしかいただけない新鮮なひめ……ご感想をお聞きたいですものね」
今一瞬悲鳴と言ったような気がするが、多分聞き間違えだろう。和夢はとりあえず今聞いたことを横に置いてくと、現状を噛み締めていく。
(……ブラックブレイズはまだちゃんと頑張れるカードなんだ)
無論、運営から見放されていようとブラックブレイズを手放すという選択肢はない。だがそうだとしても、ブラックブレイズが今でも続いているという事実は素直に嬉しかった。
和夢は鞄の中に入れてきたブラックブレイズのことを思うと胸が熱くなるのを感じる。
(そうだ。せっかくだから三人にも見てもらおう)
そう思い鞄を開けようとする。だがその前に三人に動きがあった。
エレナ、蓮、明日香の三人は和夢にスリーブに入ったカードを差し出してきた。和夢は三者三様の絵柄のカードを見ると首を傾げた。
「これは?」
「これからLRを始める和夢さんにプレゼントですわ。わたくしからは五周年シークレットのブラックブレイズを」
「……あたしからはイラスト違いのアニバーサリー版のブラックブレイズやるよ」
「私は安いのでごめんだけど、三年前にコンビニでお菓子を三つ買うと貰えたSD版の可愛いブラックブレイズをプレゼントするね」
三人からカードを受け取ると和夢は目を輝かせる。そして噛み締めるようにイラストと三人を見つめていった。
「皆さん、ありがとうございます! 大切に使わせてもらいますね!」
「ふふっ、どういたしましてですわ……さて」
エレナはそう言うと鞄から一枚の紙を取り出す。その紙にはデッキの展開についての文章がびっしり書かれていた。エレナは机から身を乗り出すと和夢に顔を近づける。
「ブラックブレイズのレシピをわたくしなりに考えてきましたの。ブラックブレイズと言えば、第一シーズンではクリアシャインと双璧を張る看板ドラゴン! ここはやはり力強い進化体≪ネオブラックブレイズドラゴン≫を主体にするデッキがいいと思いますわ」
「ネオブラックブレイズ⁉ それってエレナ先輩のアルティメットクリアシャインみたいに、カードに重ねて進化させる奴ですか⁉」
「ええ、そうですわ! ささ、和夢さん、お店で必要なカードを買いましょう‼」
エレナは後ろに回り込むと急かすように和夢の背中を押す。だが和夢本人はその肩を蓮と明日香に捕まれているため、その場から動くことは出来なかった。
「どうしたんですか二人共?」
「……ったく、エレナは本当に油断ならないな」
「エレナさーん、抜け駆けは良くないと思いますよ~」
「あ、あら、何のことでしょうか」
エレナは「おほほほほ」と口元に手を当て笑みを浮かべる。だがその目はびっくりするぐらい泳いでいた。
和夢はそのまま引っ張られると席に戻される。次に蓮も紙を取り出した。
「……必要なカードはレアリティ別に値段を書いておいた。何がどの弾にあるかもこれで分かるから一切手間はないぞ」
「蓮先輩、これらのカードは?」
「ブラックブレイズと言えば、場にブラックブレイズがいる時に使える専用の除去と妨害が優秀だ。展開の速度は天使に劣るが、その分ドラゴンは打点が高い。やっぱりブラックブレイズで組むならコントロールが良いと思うぞ」
「す、凄い! コントロールも出来るんですね!」
それに驚いていると隣で明日香が紙芝居のような厚紙を取り出す。そこにはブラックブレイズによく似た可愛らしいキャラクターが、カワケモ共に描かれていた。
「ブラックブレイズには≪ミニブラックブレイズ≫と≪ベビーブラックブレイズ≫って言う可愛い小型モンスターがいるんだよね。そこからさらに≪ブラックブレイズ飛空隊≫を使えば名称ブラックブレイズが全部強化されるんだよ。やっぱり和夢君は私と一緒に可愛いを広めるべきだと思うんだよね!」
「あらあら、お二人共。男の人はやはりカッコイイカードがお好きだと思いますわよ」
「……素のブラックブレイズを主体に使うならあたしのプランが一番だと思うけどな」
「やっぱり可愛いです! 盤面を埋め尽くす可愛いは正義ですよ‼」
「わっ、わわわわっ」
和夢は三者三様の意見にもみくちゃにされながらそれぞれの構築に目を通す。どのレシピも≪ブラックブレイズドラゴン≫を主体にしていることには変わりない。だがそれ以外は数種類を除き、ほぼ別物のデッキと言っても過言ではなかった。
和夢は蓮のあの時の言葉を思い出す。
「さっき蓮先輩が言ってた、新しい能力の実験材料って言うのはもしかして……」
和夢がそう口にすると三人は口論を辞めると、物凄い勢いで詰め寄って来る。まず蓮が声を上げる。
「……確かにブラックブレイズは公式の新能力のテストによく使われて、アニメではやられ役が多かった!」
「お姉ちゃんの店でもカード評価的に関連カードは安い物が多いのも知ってるよ!」
「器用貧乏なカードだとも呼ばれてもいますわ。ですがそれは同時に可能性の原石であるとわたくしたちは思っています。大丈夫ですわ、和夢さんの選んだ大好きなブラックブレイズドラゴンは」
そこで一呼吸置き三人は声を合わせる。
「かっこよくて素晴らしいカードですわ」「戦術的に戦えるカードだ」「可愛い仲間もいる凄く良いカードだよ」
三人は『何かに言い聞かせるように』和夢を激励していく。無論、それが何かは和夢には分からない。だがこの三人はデッキレシピを用意し、心の底から和夢を支えようとしているのは間違いなかった。
そんな三人の想いに答えたかった。和夢は机に置かれたデッキレシピを三枚とも手に取ると、明日香に話しかける。
「蓮さんの紙を見るにカードにはレアリティがあるんですよね。バロックにもいろいろあるんですか?」
「うん、もちろんだよ。昨日お姉ちゃんに聞いたけど、ブラックブレイズ関連のカードは探さなくちゃいけないのものあるけど、どのレアリティもだいたい揃ってるって言ってたよ」
「なら、良かったです」
そう言って和夢はデッキレシピの紙を全て明日香に渡す。明日香は「えっ?」と驚いた顔をするが、和夢は確かな覚悟を持って言葉を続けた。
「一番レアリティの低いもので、この三つのデッキレシピのカードを全部揃えてください!」
その言葉を聞いて、蓮が勢いよく立ち上がる。
「お、おい、和夢後輩! 確かにブラックブレイズ関連は値段が安いものが多い。だが往年の人気カードであることは間違いないんだぞ」
「そ、そうですわ和夢さん。確かそこまで金銭にも余裕がないと言ってらっしゃいましたわよね」
「そうだよ和夢君! こんなに買ったらもう他のデッキを組めなく……あっ」
明日香がそこまで言うと、他の二人も同じ考えに行きついたようだ。和夢は答え合わせをするかのように三人に視線を向ける。
「まあ三人のご心配の通りではあるんですけど……でも僕、三人が頑張って考えてくれたこのレシピを全部回してみたいんです。それで色んなブラックブレイズの姿を見てみたいんです。だから」
そこで言葉を切ると、和夢は無邪気で曇りのない少年のような笑みを浮かべる。
「――――三人ともこれからよろしくお願いします」
そう言って深々と頭を下げる。だがすぐに何かを思ったように和夢は顔を上げた。
「あっ、でも、デッキの相談に乗ってもらうっていう約束は果たしてもらったわけですし、もし無理でなかったらと言いますか、三人にも都合はあるでしょうし、あと僕だけ男ですし、もしかしなくても図々しかったりしていたかもで……」
和夢はあれやこれやとネガティブな言葉を並べていく。三人はそんな和夢を見て肩の力が抜けたのだろう。互いに顔を合わせると微笑み合った。そんな三人を和夢は未だ不安そうに見つめる。三人は安心していいと笑顔で答えて見せた。
「迷惑だなんて……頼ってもらえて、わたくしは心の底から嬉しいと思っていますわ」
「……あたしが教えるからにはビシビシいくからな」
「これからは四人で頑張っていこうねー‼」
「――――はいっ!」
三人に受け入れられた和夢は子供のように目を輝かせる。
こうして和夢とブラックブレイズドラゴン、そしてエレナ、蓮、明日香とのカードゲームライフが本格化していくのだった。




