第78話:貴方に伝える、大切なこと
生徒会室で二週間後の大会に向けた話を交わしてから、すでに数日が経過した。
毎日のように集まっては特訓を繰り返し、和夢はそのたびに少しずつ成長を実感していた。しかし、その一方で、三人の実力に圧倒される日々が続いていた。
「和夢さんの攻撃に対して、わたくしは≪ティタノス・アンリーシュ≫を発動。モンスターを一体のみ召喚しますわ。≪空守≫持ちの大巨人でそのままブラックブレイズの攻撃を受け止めますわ!」
「アンリーシュをこちらのターンで! くっ、相打ちでターンエンドです」
「わたくしのターンドロー! ≪コロッサス・ドミニオン≫を発動し、大巨人モンスターを展開しますわ」
「僕のターン……うっ、解決札が引けなかったです。負けました。ありがとうございます」
「ありがとうございましたわ」
和夢がしっかりと頭を下げると、エレナに代わり、次は蓮が席に着いた。
「おい、休んでる暇はねえぞ。次は『ヴォイドパージデッキ』だ」
「その次は、私の『ネクロヴェール・リザレクション』だよ、和夢君」
「――はい、皆さん、よろしくお願いします」
今日の特訓は大会本番を想定したシングルマッチの連続バトル。和夢は次々と繰り出される環境デッキに、必死に対応していた。カードを引く手に、次第に汗がにじみ出す。
(それにしても……やっぱり三人とも強い、強すぎる!)
昨日までとは違い、今日、三人はそれぞれ自身のプレイスタイルに合わせた環境デッキを使っている。するとどうだろうか。デッキを上手に回すこと以上に、言葉では表せない力強さを和夢はプレイから感じ取っていた。
(エレナ先輩の大型モンスターを展開するタイミング、蓮先輩の計算し尽くされた妨害、明日香さんの小型モンスターによるライフの詰め方。どれも、僕が最も嫌だと感じるタイミングで、完璧に差し込んでくる。本当に三人とも――凄すぎます‼)
だが和夢も気持ちだけは負けていない。どれだけ実力の差を見せつけられようとも、笑って楽しく、一歩も引かず立ち向かっていった。
そうして初心向け大会を想定したバトルを終える。和夢は深呼吸を一つして、肩を軽くすくめた。連続した真剣勝負に緊張しっぱなしだったが、ようやくその硬さがほぐれたのが自分でもわかった。
「うーん、まだまだですね」
和夢は小さく呟き、頭を掻きながら周りを見回した。エレナがそれを見て、にっこりと微笑む。
「そんなことありませんわ。確かに結果だけを見たらそう見えるかもしれません。ですが和夢さんはしっかりと相手のデッキを理解し、それに対し最善の動きをしていましたわ」
「それにだ和夢後輩。少なくとも和夢後輩は凡ミスをほとんど起こしてない。それは同時に、それだけ自分のデッキを理解してるってことだ」
蓮の言葉を聞いて和夢は「うん?」と首をひねる。
「それはまあ、自分のデッキですし理解は出来てると思いますけど??」
和夢がそう言うと、明日香がその隣に「どーん!」と座り込み、話を繋げる。
「それが自分のデッキを理解するって、特に初心者の子はなかなか難しいんだよね」
「そうなんですか??」
「初心者ってもちろんカード知識がほとんどないでしょう。それに和夢君みたいに『使いたいカード』が決まってない場合も多いの。その場合どうやってデッキを構築すると思う?」
「それは…………そうか、三人が僕にしてくれたみたいに誰かのレシピを参考にするんですね」
「うん、正解! 和夢君の場合、私たちがいろいろと教えてあげられるけど、初心者の場合はとりあえずネットにあるレシピを真似してみるしかないんだよね。でもレシピを見ただけだと、どのカードがどうシナジーしてるかを完璧に理解するのが難しいんだよね」
「そうか、このブラックブレイズドラゴンデッキは皆さんの知識をお借りしていますけど、僕が組んだデッキ。だからこそデッキに対しての理解度あるってことなのか」
「うん! 和夢君大正解だよ‼」
明日香は「ぱちぱちぱち」と言いながら手を叩く。和夢はまたしても、自分があまりにも恵まれた環境にいるのだと実感せざるを得なかった。
明日香の話が終わると、続いて蓮が疑問を投げかける。
「さて、色々な環境デッキを回しつつ、ブラックブレイズでそれらと対戦した和夢後輩に問題だ。どうしてあたし達はブラックブレイズのバーンデッキをお勧めしなかったと思う?」
和夢は少し考え込むように視線を落とした。
「レシピを見て確かにバーン型は独自の強みがあると思いました。ですがこの環境は物量で押すデッキが多くゲームスピードが早いです。さらに全体除去が飛んできます。するとブラックブレイズを指定して放つバーンでは速度も強度も不足していると感じました」
和夢は頭の中で、過去の対戦の様子やデッキ内容を思い返す。カードを出すタイミングや、相手の除去に対する自分の判断……そのすべてを整理するようにゆっくり息をついた。
「例えばティタノス・アセンションのように、出したターン相手のライフを削り切るデッキなら別です。けれどブラックブレイズのバーンはその性質上ブラックブレイズドラゴンを維持し続ける必要があります。こういう言い方あっているかわかりませんが、勝てる時には勝てるけど、勝てないときにはどう足掻いても勝ちようがない。それが僕の感想でしたね」
「概ね正解だ。だが和夢後輩の推測には少しだけ間違いがある」
蓮はそこで言葉を止めると、エレナと明日香を見る。そして少しだけ困ったような顔をして話を続けた。
「あたしのブラックブレイズコントロール、明日香のブラックブレイズ飛空隊ビートダウン、エレナのネオブラックブレイズドラゴン、それらは全て――あたし達の趣味の押し付けだ」
蓮の両隣にエレナと明日香が立つ。そして申し訳なさそうに頭を下げた。
「申し訳ありませんでしたわ、和夢さん。本当は……もっと和夢さん自身が楽しめるように考えるべきでしたのに」
「ごめんね和夢君。気づいたら、自分の好きなことばっかり押しつけちゃって……」
「だからまあ……あたし達もその紅月って中学生とあんまり大差ないんだよな。和夢後輩の気持ちを一番に考えられなかった。そこは、本当に悪かった」
三人はそう言うとシュンとしてしまう。だが和夢はそうではないと優しく首を振った。
「押し付けなんかじゃありませんよ。紅月さんもそうでしたけど、蓮先輩も、明日香さんも、エレナ先輩も、自分が一番楽しいって思うことを考えて、僕に手ほどきしてくれたんです」
そこで一度言葉を切り、和夢は小さく息を整える。
「その“大好き”って気持ちが伝わってきたから、僕も三つともデッキを組もうと思ったんです。そのおかげでブラックブレイズドラゴンの色んな可能性に気付けました」
三人の視線を受け止めながら、和夢は照れくさそうに笑った。
「だから顔を上げてください。大丈夫です、三人の気持ちはちゃんと伝わっていますし……僕は三人のこと、本当に大切に思っています。だから何も心配することはありません」
「「「~~っ!!!」」」
和夢の言葉に三人は顔を真っ赤にする。エレナは恥ずかしそうに目を伏せ、明日香は耳を真っ赤にして下を向き、蓮も頬をほんのり赤らめながら、恥じらいを隠せない様子だった。
分かっている。和夢の声色と表情からそれがそういう意味でないと言うことは重々承知している。だがそれでも三人は大いに心が乱された。
その中で、エレナが一番早く正気に戻っていく。エレナは和夢を真剣な顔つきで見つめる。
「わたくしは……和夢さんに伝えたいことがありますわ」
「え、エレナさん!」
「おい、エレナ!」
「えっ? ち、違いますわよ! そう言うことでなくて、わたくしの目標についてですわ‼」
エレナが顔を真っ赤にして否定すると、明日香と蓮はホッと息を吐き、少し肩の力が抜けたようだった。
和夢は少し驚き、エレナの顔をじっと見つめる。その瞳の奥に、何か言いたいことがあるのだろうと感じ取った。しかし、エレナはそのまま黙り込み、一瞬だけ目を伏せた。
「……その、でも今はまだ言えませんわ」
その言葉に和夢は目を丸くして、何が言いたいのかと考え込む。しかし、エレナはまっすぐに和夢の目を見つめながら、言葉を続けた。
「ただ、和夢さん、貴方に伝えなければならないことが……ありますの」
その言葉には、何か重要な意味があることを予感させるものがあった。エレナは短く息を吸い、まるで決意を新たにしたかのように目を細める。
「大会が終わった後、その時が来たら、必ず伝えますから。よろしくお願いいたしますわ」
微笑みを浮かべながらも、その表情はどこか厳しく、そして覚悟を決めたような雰囲気を漂わせていた。和夢はその瞳の奥に、今まで見たことのない真剣な光を見つけた気がした。
エレナはそのまま、少しだけ遠くを見つめた。その眼差しには、まるで未来に向かって進む決意が込められているかのようだった。




