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第72話:紅月 梨央

 次の日の日曜日。


 和夢は朝から学校の予習復習を終えると、机の上のノートを閉じて伸びをした。時計を見ると、まだ午前中。時間はたっぷりあるのに、何をするべきかは決まらない。


「今日はみんな予定があるんだよな……」


 エレナ、蓮、明日香。それぞれが自分の用事で忙しいことを思い出し、和夢は軽く溜め息をついた。普段ならバロックで集まり、みんなとカードを楽しむ時間があった。だが、今日は一人だ。


 先週ほどデッキを回したいという衝動はない。それでも、このまま家で過ごすのもなんだかもったいない気がする。和夢はふと先週のことを思い出した。エレナの祖父、義道と出会いだ。


「……もしかしたらまた面白い出会いがあるかもしれないな。よし、とりあえずカードキャッスルに行ってみようかな」


 四つのデッキケースをカバンに詰め込み、肩にかけると和夢は家を出た。


 ◆


 駅から出ると六月の明るい空が広がり、じんわりとした日差しが照りつけている。店内に入ると休日とあって、入り口にはすでに子どもや大人が集まっていた。


(今日のLRの大会は一時からか……うん?)


 和夢は掲示板に貼られた大会の案内を見て目を細めた。そこには、今後開催される大会情報が書かれており、その中に「初心者向け大会」と記載されていた。どうやら店舗主催の非公式大会のようだ。


 大会の日程は二週間後で、参加条件は「カード歴一年以内のプレイヤー」という説明が加えられている。

「初心者向けか……」


 いつかあの三人のように大会に出たいと思っていた。だが今の自分の力量では対戦相手のほうに迷惑をかけてしまうと同時に思っていた。


(でも僕と同じ初心者ならその心配も減るかも)


 過去のプレイ時間を含めても、和夢のLR歴は五ヶ月。大会の資格は十分にあるはずだ。


「――これだ。これしかない」


 和夢は自分に言い聞かせるように呟く。だがその隣では対照的に誰かが大声をあげていた。


「うおおおおお、これはあーしにうってつけじゃねえか! 絶対参加してやるぜ‼」


 隣にいるのは蓮よりも少し背の高い少女だ。燃えるような赤い髪をショートに切り揃え、赤いジャケットにデニムショート、ミリタリーブーツというワイルドな格好がよく似合っている。


 声が大きく、自由奔放な雰囲気をまとった彼女は、周囲を気にせず自分の存在を主張していた。


 そんな彼女は突然、和夢の方を見て目を見開いた。


「おい、あんたも大会に出るのか?」


 和夢はその目線に少し驚き、動揺しながらこくこくと頷く。


「え、ああ、まあ……出てみようかなって思ってます……」


 彼女はくすりと笑い、肩をすくめた。


「いいじゃねえか、いいじゃねえか! あーしもまだカードを始めてから一年以内だし、難しいことなんて気にしないでやってみようぜ! あーしの名前は紅月こうづき 梨央りおだ、よろしくな!」


 梨央は手を差し出した。和夢は少し戸惑いながらも握手を交わす。


「高坂……和夢です」


「高坂和夢って、えっ、お前男なのか⁉ 可愛い顔してるから女とばかり思ってた! まっ、そんな細かいことはいいか」


 梨央は無邪気に笑いながら手を離す。和夢はその元気さに圧倒されつつも、どこか軽く振り回されている気分になった。


「よっし、ここで会ったのも何かの縁だしこれからバトルしようぜ!」


「ば、バトルですか」


「あーしの入ってるチームって年上の熟練者ばかりで、なかなか同じくらいの経験者がいなくてさ。なっ、大会前の腕試しってことで頼むよ!」


 そう言いながら、梨央は両手をパンと合わせて頼み込む。声が大きく、周囲の視線も気にしない様子だった。


 和夢はその勢いに押されて断りきれず、少し迷いながらも頷いた。


「えっと、じゃあ、お願いします……」


 和夢は言葉を繋げるのに少し戸惑いながらも、内心では緊張が募っていた。自信満々な梨央の態度に圧倒され、心臓が少し早くなるのを感じていた。


「よっしゃ! それじゃあ、こっちのテーブルに行こうぜ!」


 梨央はすぐに反応し、和夢の腕を引っ張るようにして近くのテーブルに向かった。和夢は戸惑いながらもついていくしかなかった。周囲の視線を感じつつ、胸に少しだけ緊張と期待が混じった。


 テーブルに着いた梨央はカードを取り出しながら楽しそうにデッキを見せた。


「あーしのデッキは燃え盛るフレイムファングビーストデッキだ! 高坂のはどんなデッキだ?」


「あっ、えっと、ブラックブレイズドラゴンです」


 和夢がそう答えると、梨央の表情はぱっと明るくなった。立ち上がり、和夢の背中を軽くバンバンと叩く。その力加減は遠慮なく、少し驚いた和夢はむせそうになったが、笑顔を見ると何も言えなかった。


「ブラックブレイズドラゴンって、何だよ何だよあーしと同じじゃねえか。いいよなブラックブレイズドラゴン‼ だけど手加減はしないぜ! どっちが真の燃え盛る炎か勝負だ‼」


 正直、梨央が言う「同じ」という意味はよくわからなかったが、理解が追いつく間もなく彼女はデッキを差し出してきた。


「じゃあシャッフルよろしくな!」


「よ、よろしくお願いします」


 和夢は声を震わせながら答え、梨央のデッキをシャッフルし始めた。



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