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第6話:類を見ない、珍しい、独特な、そして……

 資料作成を初めて早一時間。和夢達はまとめたプリントをひたすらホッチキス止めしている。作業にも慣れた頃、和夢は思ったことをそのまま口にした。


「そう言えば蓮先輩と明日香さんって生徒会だったんですね」


「私は正式には違うんだけどねー。でも半年ぐらい前からたまに生徒会のお手伝いをしてるんだ」


「えっ、でもお手伝いっていっても、明日香さんも当然入学したばかりですよね?」


「バロック関係で中等部の頃から二人とは知り合いだったんだ。それにね、実はいまホッチキス止めしてるこのプリント、私が制作したんだ~」


 そう言われて和夢は改めてプリントを見る。その内容は無駄なく、洗練されたレイアウトで見やすく整理されている。どう見てもプロの仕事そのものだった。


「それに見やすいだけじゃない。グラフや図表もあって凄く分かりやすい。こ、これを明日香さんが作ったんですか⁉」


「そのまさかなんだよね。お姉ちゃんの通販サイトも私がデザインしてて、こういうの結構慣れてるんだよね~」


 明日香が「ブイ!」とポーズを取ると、和夢は「おおぉー」と拍手をする。同時に、バロックの経営についての和夢の中にあった疑問が一つ解消された。


 明日香は照れ照れと自身の頭を触る。だがそれだけではないと、エレナと蓮の方を見た。


「でも私は本当に綺麗にレイアウトしてるだけなんだ。エレナさんが資料を細かくまとめて、蓮さんが完璧に計算して図にしてくれる。だからこそ私も自分の本領を出せるんだ」


「凄くいいチームなんですね」


 和夢がそう言うと明日香は二人の方を見る。その視線を感じエレナは「ええ、そうですわね」とにこやかな笑みを浮かべる。蓮は黙ったまま何も言わないが、彼女が否定しないということはそういうことなのだろう。


 そんな蓮をエレナと明日香がニヤニヤ見ていると、蓮は耳を赤くし無理やり話題を方向転換した。


「そう言えば和夢後輩はこれからデッキを組むんだよな。何のデッキを組むか決まってるのか? ちなみにあたしのおすすめはコントロールだ。和夢後輩はちょっとだけだが筋がある。あたしが直々に教えてやってもいいぞ」


「あら蓮、それにはおよびませんわ。和夢さんはわたくしとの戦いで強くカッコイイ大型モンスターを出すことに至福を覚えているはずですから」


「和夢君も一緒に可愛いモンスターを使おう! 盤面が可愛いで埋まったらすっごく最高だと思うんだよね‼」


 そう言って三人はバチバチと火花を散らす。そんな三人を見ながら、和夢は机の中に大切に閉まっている≪ブラックブレイズドラゴン≫のことを頭に浮かべた。


「実は僕、使いたいカードがあるんです」


 そう言うと三人は和夢に視線を向ける。三人は余計な茶々を入れることなく、次の言葉を待つ。和夢は三人の目を見ると話を続ける。


「でもその使いたいカードっていうのが結構古いもので……もしかしたら皆さんのように強いデッキにならないかもしれません。でも、それでも僕はそのカードが使いたいからLRをやりたくて、あの、えっと」


 自分でも何を言いたいのか分からなくなってしまと、困ったように俯いてしまう。だがそんな和夢にエレナが優しく囁いてくれた。


「大丈夫ですわ。ゆっくり落ち着いて、和夢さんの本心をお聞かせてください」


 その声に導かれるように和夢は顔を上げる。するとエレナだけではない。蓮も明日香も和夢のことを優しく見守ってくれていた。


 和夢は大きく深呼吸をすると心を落ち着かせる。そして自分の本当の心を口にした。


「例え古くて弱かったとしても僕はそのカードを使いたい。そのカードでデッキを組みたいんです。だから三人とも、どうか力を貸してもらえないでしょうか!」


 三人に向かって深々と頭を下げる。どれだけそうしていただろうか。和夢がゆっくりと顔を上げる。その時見た三人の顔を和夢はどう形容していいか分からなかった。


 嬉しさが籠っているような。やる気に満ちているような。好奇心に溢れているような。そんな様々な感情が混ざった顔を三人はしていた。


 それだけで十分に理解できる。三人は和夢の選択を心の底から歓迎しているのだと。


「やはりわたしくしの目に間違いはなかったようですわね」


「……またお前も難儀な道を選んだもんだな」


「やっぱりお姉ちゃんの店にはそういう人が集まるんですね~」


「み、皆さん?」


 和夢が疑問の声を上げる。エレナは三人に目配せすると、代表でそれに応える。


「わたしくしのクリアシャインドラゴン、蓮の女神パーミッション、明日香さんのカワケモビート、その三つは今のカードプールから作られる一般的な強さから外れています」


「三人ともあんなに強いのにですか⁉」


「ええ、そうですわね。見る人が見れば『ファンデッキ』または『エンジョイデッキ』などと言われるかもしれません」


 そういう概念があることは、小学三年の頃お姉さんから聞いていた。


(三人のあの強さで明確に強くない? じゃあ僕のブラックブレイズは……)


 自分の言葉の重みが遅れてのしかかってくる。そんな和夢を励ますように、エレナはその肩に優しく手を添えた。


「わたくしたちも和夢さんと同じですわ。好きなカードを使って戦いたい。そして好きなカードが活躍できるように振舞いたいと思っています」


 エレナはそう言うと自身の胸に拳を添える。そして力強く言葉を言い放つ。


「その気持ちは決してファンでもエンジョイでもありません。だからこそわたくしたちは自分のデッキを『ユニークデッキ』と呼んでいますわ」


「……ユニークデッキ」


「類を見ない、珍しい、独特な、そして…………素晴らしいデッキという意味ですわね」


 自信満々に言い放つエレナの姿が眩しくて、和夢は思わず顔を逸らしてしまう。だがそれでも自分の本心は違わなかった。


「僕にも、そんなデッキが作れるでしょうか」


「わたくし達がお手伝いしますわ。だってわたくし達はもう同じ志を持ったお友達なんですから」


 そうエレナに言われた瞬間、和夢の目にジワリと涙が浮かび上がる。そしてブラックブレイズと共に和夢をずっと支え続けたあの言葉が蘇った。


『少年なら絶対いい友達が出来るさ、お姉さんが保証してあげよう』


(お姉さん、僕……本当にいい友達が出来たよ)


 俯いていた心と視線が大きく仰向く。エレナはそんな和夢を見て親しみのこもった笑みを浮かべた。


「ようこそ和夢さん、ユニークビルドの世界へ」


「日曜日はよろしくお願いします!」


「はい、もちろんですわ」


 そう言って和夢は何度も頭を下げていくと、その回数だけエレナは頷いていった。


 こうして話の舞台は、プロローグへと戻っていく。




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