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第67話:全てを打ち消す透明な輝き

 また別の平日の放課後。和夢はエレナと、今日九度目になるバトルをしていた。


(……凄い、やっぱりエレナ先輩は本当に凄い‼)


 ここまでの戦績は、和夢の三勝六敗。数字だけを見ればそこまで大きな差ではないが、和夢は三戦ごとにデッキを切り替えている。


 『エデングリーン』と『機神結界』はいずれも一勝二敗で負け越し、唯一勝ち越のみえた『ルミナスルート』も、展開を抑えられて苦戦を強いられていた。


(ルミナスルートも最初の一勝は取れた。でも……あのカードが出てきてからコンボが通せる気がしない)


 和夢はレコードをセットし、ドローしたカードを迷いなく場に出した。


「僕は≪未来への羅針盤≫を発動します!」


 弱気を悟られないよう、声に力を込める。だがエレナは一瞬だけ思考を巡らせると、すぐに静かに答えた。


「通りますわ」


(やっぱり、ブラフに全く引っかかってくれない……)


 淡々と効果処理を進めると、和夢はそっと手札に構えていたカードへ指を伸ばした。


 これが通らないことは、もう分かっている。だが、何もせずにいれば次のターンで敗北は確実。ならば、万が一――億が一でも可能性に賭けて、カードを出す。


「僕は≪黎明の道標≫を発動します」


 カードを丁寧にテーブルへ置く。そのカードを咎めるようにエレナと、彼女の《エターナルクリアシャインドラゴン》が見つめた。


 張り詰めた空気の中、エレナが凛とした声を響かせた。


「それに対応してわたくしは≪エターナルクリアシャインドラゴン≫の効果を発動。一ターンに一度、モンスター以外の効果の発動を無効にし破壊しますわ。クリア・レゾナンス‼」


 その瞬間、時間が止まったように思えた。光が集い、解き放たれる。エレナの瞳に宿る決意と冷徹な美しさは、まるでカードの意志そのものだった。


「ぐっ、これで僕のターンはエンドです」


「それではわたくしのターン――――≪エターナルクリアシャインドラゴン≫で攻撃、レイ・オブ・イグゼキューション!」


 宣言とともにタップされたカードが、眩い光を放つ。その閃光はエレナの意志を背負い、和夢のライフポイントを鋭く切り裂いていった。


「……対応はありません。ありがとうございました」


「ありがとうございますわ」


 これで和夢の三勝六敗。マッチ戦の結果はすべて、エレナに軍配が上がった。


(この9戦、ずっと緊迫して緊張しっぱなしだったけど……すっごく楽しかった!)


 深く息を吐くと、緊張で固まっていた肩を軽く回す。そしてゆっくりと視線を上げ、正面の相手――エレナを見つめた。彼女もまた息を吐き、静かにデッキをカードケースへと収めている。


「やっぱりエレナ先輩は本当にすごいですね」


 思わず口をついて出た言葉だった。まだ胸に熱が残っていた。和夢は、そのまま勢いのままに言葉を重ねる。


「『エデングリーン』でも『機神結界』でも負け越して、唯一『ルミナスルート』の最速コンボで押し切れるかと思いましたけど……まだまだ全然僕では力不足です」


 悔しさを滲ませながら、眉を下げる。だがエレナは静かに、優しく首を振った。


「いいえ、本当に凄いのは和夢さんのほうですわ」


「えっ? どういうことですか??」


 突然の返答に和夢は戸惑う。何かの冗談かと思ったが、エレナの目は真剣だった。


「こういうことを言ってしまうと、和夢さんに不快な思いをさせてしまうかもしれません。それでもわたくしの話を聞いてもらえますか」


「は、はい! もちろんです‼」


 エレナの不安そうな表情を感じ取り、和夢は明るく応じた。その声に励まされたように、エレナは少し躊躇いながらも話し始める。


「先日の日曜日に和夢さんはルミナスルートを使いましたわよね。あの時、わたくしは結果だけ見れば手を抜いて戦っていました」


「手を抜いてですか?」


「正確には和夢さんがルミナスルートを回す過程で、どこかでミスをすると思っていました。それだけルミナスルートの展開は複雑なものですので」


「でもそれでどうしてエレナ先輩が手を抜くことになるんですか? 僕のために手加減をした……ってことじゃないですよね?」


 和夢の問いに、エレナは少しだけ息をつき、静かに視線を落とした。


「ええ、そうですわね――先の環境三デッキ、その中でもコンボ主体のルミナスルートはわたくしのデッキにとってかなり不利対面です。その為、対ルミナスルート戦では一か八かの展開も多く存在しますわ」


 そこまで説明されると、和夢はポンと手を叩いた。


「――なるほど! 僕のミスを前提に、より盤石な形でエレナ先輩は展開をしようとしていたんですね‼」


「……ええ、その通りですわ」


 和夢の理解の早さに、エレナの微笑みがふわりと緩む。その表情には、どこか意外そうな色が混じっていた。


「でも驚きましたわ。和夢さんがここまで瞬時にわたくしの意図を読み取るなんて……その思考の早さ、そして状況の判断力、わたくしが思っていた以上ですわね」


「い、いやいや、エレナ先輩褒めすぎですって」


 手を振りながら照れた笑みを浮かべる。だがエレナは、ゆっくりと首を横に振る。


「だからもう一度言いますわね……本当に凄いのは和夢さんのほうですわ。先ほどのルミナスルートの展開――あれは大会で戦う相手と同じだけの正確さがありました。それに、短期間で三つの異なるデッキをここまで高い完成度で使いこなすなんて……和夢さんにはいつも驚かされてばかりですわね」


 その声はまっすぐで、少しだけ楽しげだった。心から、そう思ってくれているのがわかる。


「きっと和夢さんも協力してくれたらわたくしは……」


「協力、ですか?」


 聞き返した瞬間、エレナははっとしたように口元を押さえた。そして少し俯き、言葉を飲み込むように沈黙する。


 その横顔を、和夢はじっと見つめ、思わず身を乗り出してしまう。続きを聞きたいという気持ちが、胸に高まっていた。




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