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第59話:流石は自慢の孫娘だ

 決着がついた。


 静かにカードを伏せた和夢は深く頭を下げる。


(アルティメットクリアシャインだって、あそこから一気にライフを削れない。完全に僕の勉強不足だな)


 そうして反省の意味も込めて、そっと手札を見直した。


(僕の手札には高速ビート対策の全体除去が一枚。前のターン、コストを残していれば対応できた。……でも、それなら義道さんも展開ルートを変えていただろう。そう、きっとそうだ。だったら僕がするべきはもう少しコツコツライフを削ることで――)


 状況の読み合い、デッキの構成、細やかなプレイング。それらの全てで上回られていたことを、和夢は静かに受け止める。


(でもこれでギガノタイラントへの知見を深めることが出来た。これは……確実な一歩だな)


 敗北には違いなかったが、どこか晴れやかな気持ちでもあった。


 和夢はぐっと腕を伸ばして全身の力を抜く。大きく背伸びをして、顔を上げた。


「いやー、それにしても義道さんのデッキ、すごかったです! カードをどんどん展開していくあの感じ、見てるだけでワクワクしちゃいました‼」


 それは決して、負け惜しみではない。心からの称賛と、ゲームを純粋に楽しんだ気持ちの表れだった。


 そのまっすぐな目と、素直な笑顔を見て、義道は目を細めるとふっと微笑んだ。


「そうか、そうか。その“楽しかった”という気持ちを忘れなければ、高坂君、君はまだまだ強くなれるぞ」


「はいっ! 僕、もっともっと頑張りたいです‼」


 和夢の声には迷いがなかった。その意欲に感心しつつ、義道はふむと頷いてから尋ねた。


「高坂君はLRを始めてまだ日が浅いと言っていたな。具体的にはどれくらいになるんだ?」


「もう少ししたら、二ヶ月です! あ、でも……昔にもちょっとだけやってたんですけどね」


「何年くらい前の話なんだ?」


「七年前ですね。その時に三ヶ月間だけプレイしてました。なので、実際にはもう半年弱はプレイしていますね」


「七年前……?」


 和夢の言葉を聞くと、義道はその言葉に驚き眉を上げた。


「……高坂君、君はいったいどんな環境でカードをプレイしていたんだ? さっきの堂の入ったプレイング――とてもではないが、たかが数ヶ月で身につくような代物ではないぞ」


「それはきっと、僕が周りに恵まれているおかげです! 初心者の僕に優しくしてくれる人たちがいて、毎日教えてもらったり、対戦してもらったり……みんなのおかげで、僕もどんどん成長できてるんです!」


 和夢は自分が恵まれた環境にいるのだと、誇らしげに義道に伝えた。その言葉に、義道は思わず笑った。


 純粋で前向きで、どこまでも真っ直ぐな少年――高坂和夢という人物を見て、義道は上機嫌に声を上げる。


「ガッハッハッハッ‼ なるほどなるほど! そうか、そうか。高坂君、君はまだ知識や経験は少ないかもしれんが……その姿勢があれば、時間が必ず君を強くする。わしが保証しよう!」


「――――ありがとうございます‼」


 和夢は立ち上がって、勢いよく頭を下げた。その姿に満足げに頷いた義道は、冗談めかして言葉を続けた。


「しかし君は本当に気持ちのいい男だなあ。どうだ? もしよければ、わしの孫娘の婿として迎え入れても構わんぞ?」


「えっ……い、いやいやいや⁉」


 思わぬ提案に、和夢は両手をぶんぶんと振って全力で否定する。


「そんなこと勝手に言ったら、お孫さんに怒られちゃいますよ‼」


「そうかのう? わしとしては、君と孫娘はかなり相性がいいと思うのだが……」


「……いやいやいやいや‼」


「――――おじい様‼ やっと見つけましたわ‼」


 その瞬間、凛とした芯のある声がデュエルスペースに響いた。その女性は金色の長髪を優雅に揺らしながら、勢いよく駆け寄ってくる。


 彼女は真っ直ぐ義道に向かって進み、そのままがばっと服の袖を掴んだ。


「おじい様~~、夕食の予約がありますのに、どうしてカードショップにいるんですの~~!?」


「ん? まだ予約の時間には余裕があるはずだが?」


 義道はとぼけたように笑いながら返すが、彼女の視線は鋭い。


「わたくしもそう思っていましたのに……待ち合わせの二時間も前に出かけるなんて、聞いておりませんでしたわ! せめてわたくしには話を通しておいてください。役員の方に問い詰められた時、おじい様の時間の為に、必死に言い訳を考えたわたくしの心労が分かりますか⁉」


「……おお、それは……それは本当に助かった。さすがはわしの自慢の孫娘じゃ。いつも本当に感謝しておるぞ」


「感謝はいいですから、これからは勢いに任せず、計画的にしてください~~」


 彼女はぴしゃりと言い放つと、やや怒ったように頬を膨らませた。


 その微笑ましいやり取りに、和夢はあっけに取られて言葉を失っていた。


 目の前の彼女は、義道の言う通り「孫娘」で間違いなのだろう。――その顔は、和夢にとってあまりにも見慣れたものだった。


 義道は和夢の存在を思い出したように、二人の間に手をかざして紹介を始めた。


「高坂君、こちらがさっき話していた――わしの自慢の孫娘で――」


「え、エレナ先輩……?」


「か、和夢さん⁉」


 目が合った瞬間、二人の声が重なった。それはまるで、夢か幻でも見ているかのような驚きと戸惑いが入り混じった声だった。


「そう、エレナだ……ん? ……うん??」


 義道はキョトンとした顔で交互に二人を見比べる。


 一方、和夢とエレナは、完全に頭が追いついておらず、口をパクパクと魚のように動かしていた。


「……えっ? どうして和夢さんがおじい様と一緒に??」


「ど、どういうことでしょう、これ……?」


 まさかの事実に、何がどうなっているのか分からず、三人の空気は一瞬で混線していくのだった。



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