第48話:好きでできたカード山
金曜日の開封大会を終えた次の日。
和夢たち四人はバロックで、それぞれの思いをデッキに込めてLRに興じていた。
対面に座る蓮との試合、和夢はドローしたカードを一目見て、わかりやすく顔をしかめる。
「僕はレコードをセットして……ターンエンドです……」
「ほい、じゃああたしのターン。そのまま女神二体でアタック、対応はあるか?」
「あ、ありません。ありがとうございました」
「ありがとうございましたっと」
試合を終えると、和夢は肩を落としながらも、ふわっとした笑みを浮かべる。
「いや〜、全然勝てないですね〜」
負けたはずの和夢だが、その顔は笑みで満ちていた。隣で見ていた明日香は思わず口元を押さえて吹き出す。
「和夢君、勝てないって言う割には凄く楽しそうだね」
「それはもちろんですよ。だってこれは僕の好きと夢と希望と詰め込んだ最高のデッキですからね」
和夢は誇らしげに胸を張ってカードをまとめる。その束は見るからに分厚く、デッキの最低枚数に二十枚は上乗せされているようだった。
やがて和夢は机に顎を乗せ、自分のデッキをじっと見つめながらぽつりと呟く。
「でも好きと夢と希望を詰め込んで、大きくなり過ぎちゃってるんですよね~」
その言葉に、向かいの蓮が腕を組みながら「ふむ」と声を漏らす。
「和夢後輩は、どうしてあたし達のデッキが四十枚キッチリか分かってはいるか?」
「枚数が少ない方が初動やキーカードを引きやすいからですよね?」
「その通りだ。枚数が増えれば増えるほど再現性は低くなる。特にLRは山札から直接特定の一枚を持ってくるカードが少ない。大体はデッキトップを捲って行われるものばかりだからな」
論理的な説明に、和夢は「うーん」と唸りつつも納得の表情を浮かべる。
「そうですよね~、そうでなくてもブラックブレイズはサーチ系カードが少ないですし……う~ん、エレナ先輩はどうやって四十枚に収めてますか?」
問いかけられたエレナは、美しく整えられたデッキの中から一枚のカードを取り上げた。それは彼女の魂の象徴とも言える《クリアシャインドラゴン》だ。
「わたくしのデッキはクリアシャインドラゴンを輝かすために構築していますわ。その為クリアシャインと引けなければ、その展開力は大きく削がれます」
「なるほどクリアシャインを引くための前提条件として、まずデッキ枚数は最低限ってことですね」
「そうなりますわね」
理にかなったエレナの答えに、隣の明日香が「うんうん」と勢いよく頷く。
「私も可愛いカードをいっぱい詰め込みたいし、和夢君の気持ちよく分かるよ」
「ちなみに明日香さんはどうやって構築している感じですか?」
「よくぞ聞いてくれました!」
胸を張った明日香は、勢いのままに和夢の肩に身体をぐいっと寄せた。そのまま密着しつつ、デッキを広げて見せる。
「私の場合、デッキの半分はカワケモカードでほぼ固定。で、残りは私の可愛いセンサーに反応したものから、環境に合わせて決めてく感じかな」
「環境、ですか?」
「この間の大会がそうだったんだけど、あの時は低コストの速攻型が環境的に強かったんだよね。その点、私のカワケモは少し有利だったの。でも当然ながら相手も速攻デッキが多い。そこで私は獣族の≪血に飢えた白獣≫をカウンターカードとして入れてたんだよね」
和夢は目を輝かせながら頷き、勢いよく言葉を返す。
「なるほど、そしたら僕も環境を見て低コストのカードに寄せていけば――――」
が、そこまで言ったところで、隣の蓮が「ちっちっち」と小さく舌を鳴らし、指を左右に振った。
「明日香がわざわざ強調してくれただろ。それが通用したのは『この間の大会』で『あの時』だけだ。その理由は和夢後輩もちゃんと分かるだろ」
「――――そうか、昨日新弾が発売したから環境が変わったんですね!」
「その通りだ。新弾で新たに強力なテーマが現れたし、既存のデッキもいくつも強化されてる。明日香の考えは環境後期だからこその決め打ちだ。それにデッキ選定はそんな単純じゃない」
そう言って蓮は、隣に座るエレナの方へと指をくいっと向けた。
「見ろ。そこにいるクリアシャイン大好きお嬢様は、高コストモンスターで見事全勝を果たしてるんだぞ」
「た、確かにそうです……!」
感嘆の声を漏らしつつ、和夢はまじまじとエレナの顔を見つめる。その視線に気づいたエレナは最初こそ見返していたが、次第に視線を泳がせ、頬を染めながら髪をくるくると指でいじり始める。
「か、和夢さん。その、あまりじっと見られると……恥ずかしいですわ」
「えっ、あっ、ああ、すみません⁉」
二人の間に流れる甘酸っぱい空気に、蓮は呆れたように「やれやれ」と肩をすくめる。
「まあそんな感じで構築なんて人それぞれだ。それでもまあ環境を勉強しておくのはいいと思うぞ。環境を勉強しておけば、相手のデッキのマストカウンターを見極めやすくもなる」
「それに環境デッキは分母が多いから、僕みたいな初心者がカード確認に割く時間を減らせますしね」
「おっ、そこまで分かっていれば上等だな。よしよし」
蓮は自然な流れで和夢の頭に手を伸ばし、柔らかく撫でる。和夢は目を丸くしつつも抵抗せず、されるがままにしていたが――ハッとしたように蓮の手が離れる。
「わ、わりぃ、妹を褒める感じでつい」
「いえいえ、前にもありましたしちゃんと分かってますよ」
和夢は穏やかに微笑み、気にしていないことを伝える。だがそのやり取りを聞いていたエレナと明日香が、にこやかなジト目で蓮を挟み込むように詰め寄った。
「あら蓮、以前にも和夢さんの頭を撫でたことがあるのですわね~」
「蓮先輩っていつもちゃっかり美味しいところを持っていきますよね~」
ふふっと笑いながら顔を見合わせる二人に、蓮は両腕をばたばたと振って必死に抗議する。
「う、うるさい、うるさい! だからわざとじゃねえって言ってるだろう‼」
その叫びが響いた瞬間、また笑いが弾ける。
カードだけじゃない、友情とやり取りの一つ一つも、彼女らの「好き」が詰まった時間なのだった。




