第47話:少年の瞳と輝きのカード
和夢は目の前に置かれたBOXに視線を落とす。人生で初めて手にする未開封のBOXは、その存在だけで和夢の胸を高鳴らせるのに十分すぎるほどだった。
「これが……BOX……」
和夢の声は緊張と興奮で微かに震える。和夢はゴクリと息を飲み込むと、震える手でBOXを持ち上げる。カリカリカリとフィルムに爪を立てる。だが梱包はなかなか剝がれなかった。
「和夢君これ、ハサミを使って」
「あ、ありがとうございます」
明日香からハサミを受け取ると和夢は再びBOXに向き直り慎重に刃を入れる。その動作は、まるで貴重な宝箱を開ける鍵を回すかのように、細心の注意を払っていた。
BOXの蓋を開けるとパックを一つ手に取る。そして和夢は人生初めてのパックを開封していった。
和夢は中からカードをそっと取り出し、慎重に一枚ずつ確認していく。そして、ある一枚のカードに目を留めた。そのカードは、文字通りほかのどれよりも輝きを放っていた。
「≪双影の鏡≫、これ凄く綺麗です……!」
和夢は子供のように目を輝かせそのカードを上へと掲げた。そのカードを見てエレナは微笑みながら拍手を送る。
「おめでとうございます、和夢さん。それはOARといって数ボックスに一枚の最高レアリティのカードですわ」
「そ、そうなんですか⁉ エレナ先輩、本当にありがとうございます‼」
和夢は無邪気な笑みを浮かべると≪双影の鏡≫のカードをいろんな角度から眺めていく。そんなふうに夢の世界に入り込んだ子供のような和夢を見ると、エレナ、蓮、明日香はどこか微妙な表情をしヒソヒソ声を上げる。
「なあ……確かあのカードって?」
蓮が声を低くして明日香に問いかける。
「双影の鏡、ですよね……能力的には、ちょっと扱いが難しいカードですよね」
明日香も声を潜めて答える。その表情には少しの困惑が含まれていた。
カード名≪双影の鏡≫。発動コストは中コストであり、能力は相手の墓地にあるモンスター以外のカードのコピー、並びに発動であるが、これがなかなか難しい。
LRのカードはブラックブレイズやカワケモのようにカードの≪名称≫や、天使やドラゴンのように≪種族≫を指定するものが多い。その為相手の墓地依存である≪双影の鏡≫は打ち所が難しいどころか、相手によっては発動すらままならないカードだ。
事前評価ではこのカードのOARが当たるくらいなら、箱一の一つ下のレアリティで汎用カードが当たった方がずっとマシ。つまり外れカードとして扱われていた。
エレナは少しだけ苦い顔をしながら言葉を絞り出す。
「一番上の物を渡すのではなく、和夢さんにBOXを選んでもらうべきでしたわ」
と言いながら、エレナは和夢の方へと目を向けた。
和夢は≪双影の鏡≫を両手で大事そうに持ち、光の角度を変えながら何度も眺めている。その目はまるで宝物を見つけた子供のように輝いていた。
「……やっぱり綺麗だなぁ」
小さくこぼれたその声に、エレナは思わず微笑む。
「あんなに嬉しそうな顔をされては、もう何も言うことなんてありませんわね」
そう思った瞬間、エレナの胸にあった小さな不安は、そっとほどけていった。
エレナの言葉に明日香と蓮が同意する。
「そうですよね! それに和夢君だったらどんなカードが当たったって素直に喜んでくれたと思いますよ」
「まっ、そうだよな。和夢後輩だって今までいくつものカードを見てきたんだ。テキストはしっかり理解しているだろうし、あたしたちが変に気にし過ぎだって……あの笑顔を見るとそう思っちまうよな」
三人は和夢に視線を向ける。その先には、『双影の鏡』を大事そうに手に持ち、その美しい加工を見つめ続ける和夢の姿があった。
「よーし、これは早速デッキで使っていくぞ!」
三人の視線の先では、和夢が『双影の鏡』をそっとスリーブへ収め、大切そうに自分のデッキへと添えていく。
その一つ一つの動作には、手に入れたカードへの敬意と、これから共に戦う仲間としての想いがにじんでいた。
そんな姿を見ていたエレナは、ふと表情を緩め、頬にかすかな赤みを浮かべながら、さらに小さな声で呟く。
「あ、あのわたくしこれから少しおかしなことを話すのですが…………時々和夢さんが凄く可愛らしく見えるのですが。いえ、もともと可愛らしい殿方だとは思っていたのですが、それとは違うと言いますか…………蓮と明日香さんはいかかでしょうか?」
エレナの言葉に明日香は力いっぱい頷いていく。
「分かりますよ~エレナさん。和夢君は本当に可愛い男の子ですからね~」
思い当たる節があるように、明日香はうんうんと頷いていく。逆に蓮は同意しきれないように眉をひそめた。
「あたし、あたしは……うーん、言われてみればそう思うような、そうでもないような??」
三人の視線が自然と和夢に集まる。きらきらとした瞳でパックを開けていく和夢の姿は、まるで少年そのもの。胸の奥がくすぐられるような可愛らしさに、気づけば三人とも小さく顔を赤らめていた。
「ね、ね、わたくしの気持ち、わかりますでしょう!」
エレナが勢いよく身を乗り出す。
「わ、わかるような……なんとなく、な」
蓮が気まずそうに視線をそらすと、明日香が笑顔で続けた。
「ああいう、純粋無垢なところが、和夢君の魅力ですよね~」
「……………? あれ、三人ともどうしたんですか?」
和夢がその視線に気づき、不思議そうに首をかしげた瞬間、三人は揃ってハッと息をのみ、慌てて視線をそらした。
「な、何でもございませんわ。さ、さあ、わたくしも開封を始めますわ」
エレナが少し震える声で話し出す。
「そ、そうですね。私もそろそろ開けちゃおうかな~」
明日香も照れ笑いを浮かべながら答える。
「お、おう、そうだな」
蓮もなんとか平静を装うが、その顔には微かな赤みが残っている。
「うん??」
その不自然すぎる三人の様子に、和夢はますます首をかしげた。
三人は和夢の純粋な疑問の視線を正面から受け止められず、顔をそらして頬を染めつつ、慌ててパックの開封に没頭していったのだった。




