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第45話:試験明けは新弾と共に

 六月上旬。教室には中間試験結果が返却されたばかりの独特な空気が漂っていた。


 ざわざわとした声が飛び交い、重たい沈黙がところどころに点在する。机に突っ伏す者、友人と答案を見せ合う者、自信に満ち溢れる者。教室の温度は均一ではなく、場所によって冷たい沈黙と熱っぽい興奮が入り混じっていた。


「…………ふぅ」


 そんな中、和夢は可もなく不可もなくという顔をしていた。少なくとも両親に咎められる成績ではないのでそこは一安心だ。


(まあゴールデンウィークの様子を見たら、もう成績のことで口を挟んで来ることもなさそうだけどな)


 とにもかくにも、安心したカードゲームライフに戻れそうだ。和夢は席から立ち上がる。すると後ろの席を見てビクッと飛び上がってしまう。


「あ、明日香さん??」


 明日香は机に突っ伏しており、耳を澄ますとすすり泣く声も聞こえた。和夢は右往左往と戸惑いながらも彼女に声をかける。


「明日香さんどうしたんですか? 体調でも悪いんですか??」


「……うぅ~、和夢ぐん~~」


 明日香は涙をドバーっと流しながら顔を上げる。和夢は再び席に座ると彼女に視線を合わせた。


「もし体が辛いようでしたら今から保健室に――――」


「こ、高校の勉強って難しいよぉ~~」


「……えっ?」


「中学までは結構なんとなくで勉強できてたんだけど、今回は本当に危ながった~~」


 そう言って明日香は、机の上にテスト用紙を広げる。その点数を見て和夢は目を見開いた。


「え、えっと、と、とりあえず赤点は一個もありませんね!」


「全部ギリギリだったよぉ~~、うえぇ~~」


 明日香はそう言いながら、一枚ずつ確かめるように鞄の中に仕舞っていく。


(こ、こんなに弱ってる明日香さんを見るのは初めてだな)


 桜井明日香と言えば、このクラスのムードメイカーであり、包容力のある女子であり、LRでは自分の遥か先を行く先輩だ。和夢はそんな彼女にどう声をかけていいか戸惑ってしまう。


 そんな和夢よりも先に、涙を拭った明日香が声をかける。


「……ねぇ、和夢君」


「は、はい!」


「もし和夢君に余裕があって本当に大丈夫そうだったら……期末の時は勉強教えてもらえないかな。お礼は絶対にするからぁ~~」


「お、お礼になんて気にしなくて大丈夫ですよ! それにそんなこと言ったら、明日香さんには普段からいっぱいお世話になっています。どこまで力になれるか分かりませんが、その時は任せてください‼」


 そうは言って和夢は胸の前で両手をぎゅっと握りこむ。


 正直、教えることに関してあまり自信はない。それでも、普段から明るく励ましてくれる明日香のように、和夢は元気いっぱいに答えて見せた。


 和夢の心地いい反応見て、明日香はようやくいつもの笑顔を見せてくれた。


「ありがとうね和夢君」


「はい、どういたしまして」


「…………よーっし、それじゃあ試験も終わったことだし今日はたっくさん楽しもうね!」


 この切り替えの早さも、明日香の良いところであろう。明日香は「おーっ!」と手を上げる。和夢はそんな彼女を見て「えーっと」と声を漏らす。


「今日は可能なら全員集合のことでしたけど、中間試験のお疲れ様会ですか?」


「それももちろんだけど、今日はあれの発売日だよ!」


「あれですか??」


 和夢はまだうまく飲み込めずにいた。明日香は周囲をキョロキョロと見渡し、改めて誰もいないことを確認すると、ちょっと照れくさそうに和夢の耳元にそっと口を近づけた。


「今日はね、レジェンドレコードの新弾の発売日だよ」


 その声が耳のすぐそばで囁かれ、和夢はほんの少し背筋がゾクッとする。なんだかこそばゆい気持ちが胸の奥をくすぐった。



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