表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/184

第33話:ただ一緒に、ただ楽しく

 部屋に入ると、二人はベッドの背もたれに寄りかかるように、横並びで座っていた。和夢は少し戸惑いながら声をかける。


「あ、あの、この状態は……」


 蓮は軽く笑みを浮かべて答えた。


「多分目を合わさない方が話しやすいんじゃないかと思ってな」


「でも僕、特に話すことなんて……」


「それならそれでいいんだ。たまにはこうやってボーっとしてる時間があってもいいんじゃねえか」


 蓮はそう言うと、何かを話すでもなく、ただ隣に座り続けた。時間がゆっくりと流れていく。五分、十…十五分が過ぎ、和夢の緊張の糸は少しずつほぐれていった。


 そして、和夢は恐る恐る口を開く。


「正直、僕にもよくわかってないんです。だから話そうと思っても、何をどこからどう話していっていいか分からなくて」


「思ったことを口にすればいいんだよ。声に出して言語化することで、悩みって案外整理されていくもんだ。それにどんなに支離滅裂でもあたしがしっかり整えてやるよ」


「…………蓮先輩」


 蓮の声色には、どこか包み込むような安心感があった。やはり彼女は年上であり、頼れる先輩なのだと和夢は改めて実感した。


 蓮の言った通り、和夢は視線を合わせることなく、何も映っていないテレビ画面をぼんやり見つめたまま、言葉を紡いだ。


「大会に出るって言うエレナ先輩の話を聞いて、僕本当に凄いと思ったんです。しかもそれがただ大会に出るだけじゃない。自分の大好きなカードで勝つって言い切ったエレナ先輩を本当にカッコいいと思いました」


「ああ、そうだな。エレナはそういうカッコいい奴だ」


「でもエレナ先輩がカッコよければカッコいいほど…………僕は何のためにカードゲームをしてるのか分からなくなってしまって……」


 言葉を吐き出した瞬間、和夢は深く息を吐いた。しかし、一度口にした言葉は止まらなかった。目をギュッと閉じて、さらに続ける。


「高校に入ってずっと夢だったLRを始められました。ずっと使いたかったブラックブレイズドラゴンも使えました。蓮先輩、エレナ先輩、明日香さんが僕の手を引っ張ってくれたおかげで、僕はこんなにも楽しくカードゲームライフを送れているんです」


 その言葉を言い終えると、和夢は思わず肩を落とした。


「三人は僕にこんなにもたくさんの物を与えてくれたのに、僕はそんな三人に何も返すことが出来ない。それどころか大会の話を聞いて『三人みたいに本気になれるかな』って少しだけ怖くなっちゃったんです」


 そこで一度、言葉を止めてから、和夢は喉の奥からゆっくりと絞り出すように呟いた。


「もし僕が皆と同じ気持ちでいられないなら、僕は皆と一緒にいる資格がないんじゃないかって。そんなことを一回考え始めたら、頭の中がグルグルして、何だか訳が分からなくなっちゃって……」


 沈み込むような声を聞くと、隣の蓮がいつの間にか動いていた。和夢が顔を上げようとしたその瞬間、両手が彼の頬にそっと触れた。


「――――えっ? ブフッ⁉」


 蓮は和夢の頬をふわっと、軽く押しつぶす。突然の行動に和夢は目を大きく見開く。ようやく目が合うと、蓮は少し微笑みながら続けた。


「……お前はちょっと考え過ぎだ」


「え、ちょ、蓮先輩、な、何やって……」


「なーに、難しく考えすぎてから、ちょっとリセットしてやろうと思っただけだ」


 蓮の手は和夢の頬を優しく揉みほぐすように動いている。和夢は混乱しながらも、触れられた手の温かさに、ほんの少し心が和らいでいくのを感じていた。


「何かを返すとか、皆と同じにならなくちゃとか……そういうの、別に誰も求めてないと思うぞ」


 蓮は和夢の顔をじっと見つめ、ふっと手の力を緩めた。


「なあ、和夢後輩――――あたし達とやるLRは楽しいか?」


「も、もちろんですよ! 皆さんとやるLRはいつも凄く楽しいです!」


「なら楽しいだけでいいじゃねえか。エレナみたいな目標がなくても、明日香みたいにやりたいことがなくても、ただ楽しむだけで十分だろ? それが一番大事なことだと思うぞ」


 蓮の言葉が和夢の胸に深く響いた。手が頬から離れた後も、その温もりが残っているように感じられた。


「でも、蓮先輩……」


 少し躊躇いながら、和夢は声を紡ぐ。


「僕、やっぱりみんなの足を引っ張ってるんじゃないかって……僕だけが何も返せてないような気がして……」


 蓮は言葉を遮るように、ふっと声をあげた。


「和夢後輩、お前さ、自分を評価するのに何で『返す』なんて言葉を使うんだ? そんなの、勝手に決めつけてるだけだろ」


「でも、三人に何も返せてないのは事実で……」


 蓮は一瞬黙り込み、柔らかい笑みを浮かべて和夢を見つめる。


「じゃあさ、逆に聞くけど、あたしらにお前が返すべき『何か』って、一体何だと思ってんだ?」


 その問いに和夢は言葉に詰まり、しばらく答えを探した。 「えっと……」と唇を震わせるが、明確な言葉は浮かんでこなかった。蓮はそのまま続ける。


「和夢後輩が楽しくカードゲームをプレイしている。それだけであたし達には十分なんだよ」


「え……?」


「エレナだって、明日香だって、あたしだってさ。みんなが同じ気持ちでいなきゃ一緒にいられないなんて、そんなことは全然思ってないぞ。むしろ、違うからこそ一緒にいられるんだよ」


 和夢は蓮の言葉がじわじわと心に染み入っていくのを感じた。


「違うからこそ……?」


「そうだよ。和夢後輩は和夢後輩のままでいればいい。和夢後輩があたしたちと一緒に楽しんでる、それが一番の価値なんだ。そしてそんなお前の姿にあたし達は全員救われてる」


 そう言い切ると、蓮はふっと気を抜いた声で言葉を続けた。


「それとよ~、もうあたし達はカードゲームだけで繋がってるわけじゃねえだろ。カード以外だって一緒にいて楽しいって思えること、たくさんあるんじゃねえか?」


 蓮の言葉を聞いて、和夢の頭にこの一ヶ月の思い出が一気に蘇ってくる。確かにLRカードゲームが始まりだったかもしれない。しかし彼女たちとの思い出は、それだけにとどまらなかった。


「お昼を食べたり、生徒会の仕事をしたり、写真を撮ったり、アニメ鑑賞したり……蓮先輩、エレナ先輩、明日香さんとなら何だって心の底から楽しいです」


「ああ、そう言うことだよ」


 和夢の胸にぽっと熱いものが込み上げてきた。


 カードゲームだけではない。思い返せば、笑い合い、時には真剣に語り合い、何気ない時間を共有してきた──その一つひとつが、まるで宝物のように輝いている。


 孤独だった自分が、こんなにも自然に笑い、居場所を見つけられたことに、心が震えた。


 和夢の瞳には、言葉にできない感謝と愛おしさが溢れていた。


 蓮は和夢の表情を見ると、ふっと息を漏らしていく。


「じゃあそれが分かったところでよ」


 蓮は言葉を切ると、鞄からデッキケースを取り出した。


「これから一戦やろうぜ」


「今の話をしてですか?」


「ああ、そうだ。今までの話は和夢後輩の悩みを言語化し、それに寄り添ったあたしなりの答えだ。そしてここから先は――エレナと明日香の心の代弁だ」


 そう言って蓮は女神デッキをテーブルの上に置く。


「あたしのデッキにはサイドのカードが入れてある。和夢後輩は、あたしのデッキに挑むことを前提に、一番有利な構築に組み替えてくれ」


「…………分かりました」


 正直なところ、先ほどの蓮との会話で心の中のモヤモヤはすでに晴れていた。だからこそ、このバトルの意味が和夢にはよく理解できなかった。


(でも蓮先輩がやるって言ってるってことは、きっと意味があることなんだ。だったら僕は……‼)


 使うデッキは≪ブラックブレイズ飛空隊≫。和夢はそのデッキから≪ブラックブレイズ飛空隊≫を全て抜き、関連カードも外した。代わりに、低コストのモンスターとその強化カードを入れた。コストの重い妨害カードに対し、カード一枚一枚の優先度を下げていったのだ。


「……よろしくお願いします!」


 互いにデッキを交換し、シャッフルする。そうしてバトルが始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ