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第29話:楽しかった、そのあとに

 日曜日の夜。和夢は一人になった部屋の静けさに気づき、ふと息をついた。


「……そうか、友達を家に呼んだのって人生で初めてだったんだ」


 つい先ほどまで賑やかだった空間が急に広く感じられる。


 エレナ、蓮、明日香の三人が帰った後、彼の心にはまだ余韻が残っていた。彼女たちと過ごした時間の楽しさが、今も鮮明に思い出される。


「本当に楽しかったな……三人と出会ってから、本当に楽しいことだらけだ」


 和夢は思わず笑みを浮かべた。まさか自分が友達とこんなにも楽しい時間を過ごせる日が来るとは、想像もしていなかった。


 笑い声や軽口、バトル中の熱いやり取りが、まだ耳に残っている。そんな瞬間が、日常になるなんて――和夢の心にそんな感慨がわき上がる。


 しかし、その賑やかさが消えた今、部屋の静けさが逆に彼の胸にぽっかりと穴を開けたような気がして、物寂しさが押し寄せる。


「…………今日の分の予習でもするか」


 和夢はそんな気持ちを振り払うように、立ち上がって勉強机に向かった。しかし、引き出しから教科書を取り出そうとしたその時、ふと目に留まるものがあった。教科書の上に置かれた≪ブラックブレイズドラゴン≫を見て手がピタリと止まる。


「……結局、相談できなかったな」


 和夢はカードを手に取り、ケースの上からじっと見つめた。厚いケースに仕舞われたその姿が、まるで自分の心の奥底に秘められた秘密の象徴のように思える。


 エレナ、蓮、明日香は、和夢が初めからブラックブレイズを持っていることを知っても、おそらく何も言わないだろう。それでも、和夢はどこか恐れていた。


「エレナ先輩も蓮先輩も明日香さんも、別に僕が元々ブラックブレイズを持ってたって言っても、何も言わないと思うけど……やっぱり少しだけ怖いんだよな」


 和夢にとって、あの三人は特別な存在だ。七年前の『お姉さん』以外で、人生で初めてできた友達――それがエレナ、蓮、明日香だ。和夢は友達という存在との距離の取り方がまだわからず、戸惑っているのだ。


 彼女たちとの関係を壊したくない、嫌われたくない。そんな不安が、和夢の心に少しずつ影を落としていた。


「ごめんな、ブラックブレイズ……でも今はまだ、あともう少し、心の準備をする時間が欲しいんだ……」


 そうつぶやきながら、和夢はカードのケースにそっと手を触れた。それは、自分自身に対しての言い訳のようでもあり、まだ準備ができていない心をなだめるための言葉だった。


 和夢は静かにカードを机の端に置き、再び教科書を手に取る。そして、教科書のページを開きながら、休日明けの予習に取りかかる。


 頭の中は勉強に集中しようとするが、ふとした瞬間にまた三人との楽しい時間が思い出される。笑顔、真剣な表情、そして和夢に向けられた温かな視線。それらの思い出が頭から離れず、心が揺れ動く。


「……うん、次はちゃんと相談させてもらおう!」


 和夢は力強くつぶやくと胸の前で両手をぎゅっと握り締める。そうして教科書のページをめくっていくのだった。

 

 


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