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第2話:天城エレナと透明な輝き

 カードゲームを楽しんでいた、あの頃の記憶が蘇ると自然と笑みがこぼれる。


 先攻は和夢だ。七年ぶりの対戦と初めてのデッキでさっそくどう動いていいか分からなくなる。そんな和夢に対し、エレナは優しく笑みを浮かべた。


「大丈夫ですわ。ゆっくり感覚を思い出しながらやってきましょう」


「エレナ先輩……ありがとうございます!」


 和夢はじっくり考えながら、カードをプレイする。そんな彼に対して、エレナは手札を公開しながらプレイした。さらに和夢がカード効果に困惑すると後ろに回り、そのたびに適切なプレイを指導してくれた。


 エレナの手助けと心遣いもあり、数回戦う頃には和夢のプレイングから少しだけぎこちなさが抜けていく。


 そして六回目の対戦。依然としてエレナは手札を公開しているが、和夢のプレイングに助言はしていない。和夢はエレナの手札を見るとカードを構える。


「僕はコストを払って手札のギガントサイクロプスを召喚します」


 高コスト高ステータスのモンスターを召喚する。≪速攻≫を持たないサイクロプスはこのターン攻撃できない。


(……だけどあと一発攻撃が通れば僕の勝ちだ)


 エレナの手札には同じく高コストモンスター≪クリアシャインドラゴン≫がある。≪飛行≫を持つクリアシャインはサイクロプスではガードできない。


(でも万が一攻撃を食らってもクリアシャイン一体の攻撃ならギリギリライフは残る。さらに僕の手札には二体目のサイクロプスがある。次のターンこいつを召喚してエレナ先輩にターンを渡す。そこで追加のクリアシャインが来なければ、ガードに残したとしても二体で攻撃して僕の勝ちだ)


 エレナは手札を公開しているため、二体目のクリアシャインがいないのは確認済みだ。たとえドローで引かれたとしてもまだイーブンである。和夢は勝利の確信をもってターンを返す。


「これで僕のターンはエンドです」


「わたしくしのターンですわね」


 エレナの指がデッキに触れ、カードを引き上げる。その動作が妙にゆっくりと感じられ、和夢は無意識に息を飲んだ。


「ドローですわ!」


 エレナがカードを見た瞬間、その目が一瞬見開かれる。エレナのゾクリとしたような仕草を和夢は見逃すことが出来なかった。


「わたくしはコストを支払い手札の≪クリアシャインドラゴン≫を召喚しますわ」


 高コスト高攻撃力のクリアシャインドラゴンがエレナの場に召喚される。


「ですけどこの召喚でレコードを全て使い切ってターンエンドですよね?」


「うふふっ、それはどうかな、ですわ!」


 そう言ってエレナはこのターンドローしたカードを表替えした。


「手札の≪アルティメットクリアシャインドラゴン≫の能力発動。このカードは場に≪クリアシャインドラゴン≫がいる場合、クリアシャインドラゴンに重ねて≪進化≫させることで、コストを払わず場に出すことが出来ますわ」


「クリアシャイン以上の攻撃力のモンスターをノーコストで⁉」


 驚いている和夢を余所に、エレナは目を輝かせしばし息を整えた。その瞳には、勝利への揺るぎない情熱が宿っている。


「さあ、和夢さん。今こそ見せて差し上げますわ、わたくしのすべてを!」


 そして、力強く、だが優雅に彼女の声が響く。


「――透明な光が闇を切り裂き世界を照らす!」


「え……?」


 何かの効果の宣言だろうかと、一瞬耳を疑う。だがエレナの動きは止まらない。


「その輝きは無限に広がり、あらゆるものを浄化する! 今、天空から舞い降りるは、無比の力を持つ竜の姿――降臨せよアルティメットクリアシャインドラゴン!」


 アルティメットクリアシャインドラゴンが現れた瞬間、照明に照らされたそのカードはまるで本物のドラゴンのように輝きを放つ。


 もしエレナの詠唱に少しでも照れや棒読みが混じっていたら、和夢は困惑していたかもしれない。だが、エレナの詠唱は驚くほど自然で堂々としており、その行為がさも当然であると感じさせるほどの凄みがあった。


(か、かっこいい……‼)


 和夢は本気で目を輝かせていた。今、この瞬間だけは敗北への恐れよりも、純粋にエレナの格好良さに見惚れてしまっていた。エレナはさらに宣言を続ける。


「≪進化≫したモンスターは召喚したターンに攻撃が可能! さあ行きますわよ! ≪飛行≫持ちのアルティメットクリアシャインで直接攻撃、セレスティアル・グレアですわ‼」


 まるでアニメや漫画のキャラであるかのように、エレナはビシッと指を立てて攻撃宣言する。そんなふうに、本当に純粋無垢にこのカードゲームを楽しんでいるエレナを見て、和夢のワクワクはドンドン大きくなっていった。


「……す、すごい……あっ! ありがとうございました‼」


「ふふっ、とても楽しいバトルでしたわ」


 決着がつくと和夢はカードを手にする。そしてエレナとの対戦を通して、お姉さんとの三ヶ月に想いを馳せる。


「今のバトルすっごく楽しくてドキドキしました! カードゲームって凄く選択肢があって、どのカードを使うか、どう戦うかは自由で……それが楽しくて、何度戦っても新しい発見があって、そんなカードゲームが僕は本当に大好きです!」


 和夢は目を輝かせ、両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。その瞳は興奮でキラキラと輝き、頬もほんのり紅く染まっている。口元には嬉しそうな笑みを浮かべ、心の中で湧き上がる興奮をどう表現していいのか迷っている様子だった。そんな和夢にエレナは微笑んで答える。


「その通りですわ、和夢さん。カードゲームの魅力は楽しみ方の選択肢の広さにありますわ。カードのイラストや世界設定やキャラクターなどのなりきりプレイ。そんな無限の楽しみ方がこのレジェンドレコードにはありますの」


 和夢はその言葉に嬉しそうに頷いていった。


 エレナはアルティメットクリアシャインを手に取る。そのカードを和夢に見せながら、優しい陽だまりのような笑顔を見せた。


「このカードを拾ってくださったのが和夢さんで……本当に良かったですわ。さっ、次のバトルも楽しみましょう」


「――――はいっ!」


 エレナの心から楽しそうな微笑みを見て、和夢もまた満面の笑みでデッキをシャッフルしていくのだった。


 次の日。本格的に授業が始まるのは明日からなので、お昼には下校の時間になっていた。和夢は鞄に筆記用具を詰めながら、昨日のバトルのことを思い出していた。


(結局一度も勝てなかったけど……昨日は本当に楽しかったな)


 七年ぶりのバトルの余韻が未だに抜けきらず、和夢は昨日の盤面を思い出していた。


(圧倒的攻撃力と飛行能力を持った≪アルティメットクリアシャインドラゴン≫、あれに勝つには召喚させないのが一番だけど、それは難しそうだな。エレナ先輩は様々なルートでアルティメットクリアシャインを召喚してくる)


 昨日店から借りた赤いデッキは、エレナ同様大型モンスターを召喚するデッキだ。それ故に同種のデッキでは競り勝つのは難しく感じた。


(ならその前に小型で押し切るか、的確に召喚の補助カードを潰していくかかな。他にも貸しデッキがあるみたいだし、触ってみるのが楽しみだな~)


 エレナの口添えもありデッキの貸し出しは許可してもらった。ただし和夢がデッキを組む時はバロックでカードを揃えることを約束している。


 和夢はあれこれと考えながら、ふと気づくと、無意識に口元がふんわりと上がっているのを感じた。


「やっぱり……誰かとやるLRは面白いな」


 昨日はバトルが楽し過ぎて気が付いたら帰る時間になってしまった。だが次に会う時はデッキの相談に乗ってくれるとエレナは約束してくれた。初心者の和夢にとってそれは本当にありがたい申し出だった。


「でもエレナ先輩って何かどっかで見たことあったような? ん??」


 廊下の向こうが少し騒がしい。なんとなく気になって歩み寄ると、何人かの生徒が窓に張りついて外を眺めていた。自然と和夢もその輪に加わり、視線を外に向ける。


 その中心にいたのは、一人の女子生徒だった。


 金色の長い髪が春の光を受けてきらめいている。その光景は、妙に現実離れして見えた。


 彼女が軽く手を振ると、それだけで歓声があがった。一年生らしき女子たちが顔を赤らめ、男子たちはどこか照れくさそうに笑っている。


 その反応に一年生がどよめくなか、和夢だけが表情を固まらせていた。


「えっ、生徒会長ってまさか……」


 その日本人離れした金髪を見間違えるはずがない。


 注目の的である天城エレナも和夢のことを見つけたのだろう。真っすぐ和夢を見つめると、唇に指をあて「しぃー」と聞こえてきそうな表情をした。


 そんなエレナの可愛らしい行動に一年生達はさらに心を奪われていく。


 和夢はその行動が自分に向けられていると気づく。すると顔がみるみる赤くなり、まるで小動物のように目を伏せていくのだった。


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