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第28話:忘れかけてた大切なこと

 和夢の部屋で明日香と蓮はバトルを繰り広げていた。蓮の攻撃宣言時、明日香が待ってましたとばかりに動く。


「私は蓮さんの攻撃宣言時、手札の≪血に飢えた白獣≫の効果発動! 獣モンスターを三体墓地に送り、レコードを払い即時召喚! 蓮さんの女神を全て破壊します‼」


「……さっき妨害したカワケモの城はブラフか。感情豊かな演技派だな」


「えへへ、私は演技なんかしてませんよ。だって私、このデッキの一枚一枚が大好きなんです! 見てください、このイラスト! 可愛くて、かっこよくて、強いなんて最高ですよね! 可愛すぎて出すたびにテンション上がっちゃいますよ!」


 明日香は自分の場に並ぶカードを愛おしそうに見つめ、指でそっとなぞるような仕草をする。その目はまるで、自分の子たちを誇らしく見つめる親のようだった。


「私の大好きな子たちを出せば出すほど、愛らしくて仕方ないんです! だから私の気持ちに嘘はありませんし、それが蓮さんの完璧なポーカーフェイスに対抗する手段なんです!」


 確かに蓮は感情を隠すのがでたらめに上手い。だからこそ明日香はその逆を目指した。明日香はむしろ感情を隠さないことで、戦略を組み立てていたのだ。


 明日香は誰よりも一枚一枚のカード採用にこだわっている。それ故にドローするたびに「可愛い」が手札に入り、そのたびに表情が輝いた。それが明日香の強みであり、同時に相手に疑心と警戒を植え付ける武器にもなっていた。


「……あたしのターンはエンドだ」


「私のターンです!」


 明日香はカードをドローする。ぱっと表情が花開くように明るくなり、満面の笑みを浮かべた。


「引きましたよ! 手札から≪カワケモの救援隊≫を召喚! 救援隊の効果で≪カワケモの騎士≫を墓地から蘇生! さらに騎士の効果で魔術師の召喚です‼」


 次々と盤面に並ぶカワケモたち。そのたびに明日香のテンションもどんどん上がっていく。


「はぁ〜、もうみんな本当に可愛くて最高だよ! さらに私はレコードを払って≪カワケモ突撃≫発動! 場のカワケモ全員に≪速攻≫を付与! さあ、みんな! フルアタックだよ‼」


 攻撃宣言後、明日香の視線が蓮へと向く。最後の最後まで油断はできない。


 静かな湖のような蓮の表情は崩れず、じっと盤面を見つめている。まだ何か隠しているのではないか──そんな疑念がよぎる。明日香はわずかに息を呑み、蓮の言葉を待った。


「……対応なし、あたしの負けだな」


 明日香は勢いよく両手を上げて、心からの喜びを爆発させた。彼女の瞳の中には、愛するカワケモたちの姿がキラキラと輝いていた。


「やった、やったやった、やったー‼ 蓮さんに勝ち越せたー‼」


 ここが外ならそのまま走り回ってしまいそうなほど明日香は喜びの声をあげる。対して、蓮は小さくため息をつきながら、困ったように微笑んだ。


「あたしに勝ち越しって、そこまで大袈裟に喜ぶほどのことじゃないだろ」


「だってデッキ相性は私の方がいいのに、勝ち越せたことなんてほとんどなかったんですよ。本当に嬉しいんですよ~」


「はは、そう言うもんかね」


 そう言う蓮は表情こそ落ち着いていたが、その目には優しさが宿っていた。これまでとは明らかに違う、明日香の成長を感じ取っていたのだ。


 隣で試合を観戦していた和夢は、パチパチと拍手を送る。明日香は体ごと和夢の方に向くと両手を高く掲げ勢いよく伸ばしていった。


「イェーイ! ほら、和夢君もイェーイ‼」


「い、いぇーい」


 和夢は固い笑みのまま明日香と同じく両手を掲げる。明日香は弾けるような笑顔を見せ、勢いよく和夢の手にタッチする。二人の手がぱちんと軽くぶつかり、明日香の喜びが部屋中に広がっていくようだった。


「これも和夢君のおかげだよ~」


「だから僕は本当に何もしてませんよ。それにしても明日香さんのデッキ、今まで見たことないカードがかなり増えてましたね」


「うんっ! 気になってた可愛いカードがたっくさんあったから、いろんなカードを入れていっぱい試してたんだよね。あー、次はあのカードも試したいし、あっちのカードも試したいかなー」


「それでしたら……いくらでもお供しますよ」


「――――うん、よろしくね和夢君!」


 そう言って明日香はデッキを構え、和夢とバトルを始める。


 和夢にテーブルを譲った蓮は「よっこいしょ」とわざとらしく言うと、ベッドに座っているにいるエレナの横に行く。蓮は二人に聞こえないように、小さな声でエレナに話しかける。


「明日香のやつ、いい構築をするようになったな」


「ええ、それに本当に楽しそうにカードをプレイしていて、出会ったばかりの頃を思い出しますわ」


「……出会ったばかりって言うと、お前は随分とお堅いお嬢様だったよな」


「も、もぅ、そんなこと言ったら蓮だって……あの頃は抜き身のナイフみたいにぎらついていましたわよね」


 そう言うと二人は居心地の悪い顔でお互いを見る。


「……やめるか、この話は」


「ええ、そうしておきましょう」


 蓮とエレナは視線をそらし、軽く笑いながらもその場の会話を切り上げた。二人の間には穏やかな沈黙が流れ、部屋には明日香と和夢のカードバトルが繰り広げられる音が響く。


 カードを引く音や、ターンごとの声が交差する中、エレナが蓮にそっと言葉をかけた。


「和夢さんのおかげでわたくしたちみんな、少しずつ変わっている気がしますわ」


「和夢後輩のカードを楽しむ姿は、何か大切なことを思い出させてくれるって感じでもあるしな」


 蓮の言葉を聞くと、エレナは目を細めながら和夢の方を見つめた。和夢は真剣にカードをプレイしながらも、明日香の笑顔に応えるように笑みを浮かべていた。


「和夢君、次はどう出るかな!」


「そう簡単には負けませんよ明日香さん!」


 和夢と明日香の元気な声が部屋中に響き、エレナと蓮はそのやり取りに微笑みを浮かべる。蓮は軽く肩をすくめると、エレナに向かって小さく言った。


「……だからこそ和夢後輩のことはしっかり見守ってやらねえとな」


「ええ、そうですわね。和夢さんにはもっともっとLRの楽しさを伝えていきたいですわ」


 蓮とエレナは、和夢と明日香のバトルを静かに見守りながら、互いに微笑み合った。時間がゆっくりと流れる中、四人の間に温かく穏やかな空気が満ちていくのだった。

 


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