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第27話:少年のような無垢な瞳で

 何度か休憩を挟みながらの約五時間の視聴が終わろうとしていた。


 今日見る予定の最後の一話が終わり、画面がゆっくりとフェードアウトしていく。続いて流れ始める荘厳なエンディングテーマ。その間、和夢はその場で一切の動きを止めた。


 しばし、部屋には静寂が訪れる。しかしその沈黙の裏で、和夢の頭の中は『レジェンドレコード』の壮大な世界観に完全に包まれ、熱く燃え上がっていた。


「……す、すご……えっ? これ、え? 本当に⁉」


 まるで夢から醒めた直後のように、和夢はぽかんと画面を見つめた。その目はキラキラと輝き、言葉にならない感動が溢れている。


 次の瞬間、心の奥からこみ上げてきた熱が、全身に走った。


「ぼ、僕、アニメって……日曜の夕方にやってるような、なんとなく家で流れてるのくらいしか見たことなかったんですけど……こんなに、こんなに楽しいものだったなんて……っ」


 両手をぎゅっと握りしめたまま、和夢は感情の波に飲み込まれるように、思いついたままを口にする。


「主人公の相棒の黒騎士、すごく格好良かったですし……戦うたびに進化していく姿、あれ、胸にぐっときました。それに、動いてるカワケモ……あれはもう……反則です、あんな可愛さ……! 何ですかあれ、本当に反則です!」


 どこか震える声で、しかし嬉しそうに続ける。


「ライバルとの激突で助けに来た仮面の男の正体も気になりますし、あと……最後に出てきたあの黒い影……! あれって絶対ブラックブレイズですよね⁉ 絶対そうだと思いますっ! うわあ……続きが、続きがすごく気になります……!」


 そこまで言い切った瞬間、和夢はふと我に返った。


 視線を横に向けると、そこには微笑ましげにこちらを見つめる三人の姿があった。


 明日香、エレナ、そして蓮。三人ともそれぞれ違う笑みを浮かべている。


 明日香は声を殺してクスクスと笑いながら。エレナは優雅に口元を手で隠しながら。蓮は少し上から、隠すことなく意地の悪い笑みを浮かべている。


 その視線が一斉に自分へと注がれていることに気づいた和夢の顔が、みるみる赤く染まっていく。


「……あ、あの、す、すみません。ちょっと……興奮しすぎました、僕……」


 恥ずかしさのあまり、和夢は身体を小さくして目を逸らす。だが、三人に囲まれている今、その視線の逃げ場はどこにもなかった。


「和夢さんが偶にお見せになる少年みたいなお姿、わたくしは好きですわよ」


 そう言って微笑んだのはエレナだった。


 その言葉は柔らかく、包み込むように和夢の胸に届いた。ますます頬が熱くなる。和夢は目を逸らしながら、小さく呟く。


「……え、エレナ先輩」


 そんなやり取りを楽しむように、明日香が元気よく声をあげた。


「和夢君の気持ち、すっごく分かるよ! 私も久しぶりにアニメのカワケモを見て、テンションがすごく上がっちゃったもん!」


 明日香は目を輝かせながら、何度も頷く。


「――明日香さん!」


 和夢がほっとしたように名前を呼ぶ。すると明日香は悪戯っぽく笑って付け加えた。


「それはそれとして、子供っぽい和夢君も見れて凄く楽しかったけどね!」


「――あ、明日香さん⁉」


 突然の裏切りに和夢は驚愕の声をあげてしまう。すると、そのやり取りを黙って見ていた蓮が、和夢の頭上からぼそりと一言。


「二人とも、和夢後輩が楽しんでくれて良かったって言ってるんだよ」


「そ、それなら良いんですけど……」


 その言葉に、和夢は少しだけ目を見開き、窺う様に二人を見る。


「蓮の言う通りですわ」


 エレナが優雅に頷きながら言葉を続ける。


「わたくしたちの大好きが、和夢さんにもちゃんと伝わって……本当に嬉しく思っています。それに……久しぶりに生の『それはどうかな』を聞けて、正直、心が高揚しておりますわ」


 その目には本物の喜びと、少しの照れが宿っていた。エレナはそのまま、そっとバッグからデッキケースを取り出す。


 それを合図にするかのように、蓮と明日香も同じようにデッキケースを構えた。誰が言い出すでもなく、三人の間に自然と笑みが浮かぶ。


「それじゃあ、アニメの感想戦も兼ねて、二次会やっていくか」


 蓮が腰を上げ、真っ直ぐに三人を見る。


「私もそう思ってました。いっぱいお喋りしながら、盤面を私の可愛いでいっぱいにしますね」


 明日香はニコニコしながらも、その目には勝負への意志がきらめいている。


 和夢は、羞恥心がようやく静まり、胸の奥に残った熱をそのままに、鞄から自分のデッキケースを取り出した。三人の視線が自然と自分に向けられる。


「……僕も、そのつもりでした。三人とも……よろしくお願いします!」


 静かに、けれど力強く言った。そして、アニメの興奮はそのままカードバトルへと受け継がれた。


 手札を握りしめたその瞬間から、部屋の空気は再び熱を帯びていく。


 想いがぶつかり合う、最高の二次会が、今始まりを告げるのだった。



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