第26話:三色の春風と煌めく装い
ゴールデンウィークのとある日のこと。和夢は駅からの道のり、あまりの現実味のなさに何度か頬を抓った。だがそうしたところで夢から覚めるわけではない。和夢はマンションまであと少しまで来ると、もう一度後ろを見た。
(あの時は何となく受け入れられたけど、やっぱりとんでもないことじゃないのだろうか?)
和夢の後ろには三者三様の魅力を持った女の子たちがいた。エレナは、和夢の視線に気づいたようだ。
「あら、どうしました和夢さん?」
エレナは白のブラウスにロングスカートという装いだ。シンプルでありながらも凛とした清潔感が漂い、彼女の気品を際立たせていた。彼女のまとう雰囲気は、穏やかで落ち着いた春の空気のように、そっと心に触れてくる。
その時、視界に明日香が飛び込んできた。いつもの明るい笑顔が、和夢の胸を軽く揺らす。
「荷物持ってくれてありがとうね和夢君、重かったよね?」
「いえいえ、全然大丈夫ですよ」
「本当かな? 何だか少しぼおっとしてる気がしたから」
明日香はふふっと笑って、和夢の顔を覗き込む。ニットにミニスカートという装いは、どこか素朴で可愛らしく、それでいて彼女の快活な性格にぴったりだった。柔らかいニットの質感と、元気よく揺れるスカートの対比が生き生きとした印象を与え、和夢の心をあたたかく照らしてくれる。
和夢は「本当に大丈夫です」と何度も頷き、落ち着こうとした。
そんな和夢の様子を見て、蓮が少し意地悪そうに口を開いた。
「そりゃこんな美少女たちが並んでるんだ。内心ドキドキしてぼおっとしてるのも無理はないだろ?」
ダボッとしたトレーナーにホットパンツ、黒タイツというラフな服装。着こなしはカジュアルそのものなのに、どこか隠しきれない洗練されたセンスがあった。
蓮は、和夢の動揺を面白がっているかのように、じっとこちらを見つめていた。
和夢はたじろぎながらも、慌てて否定しようとする。
「れ、蓮先輩、それはその……」
「和夢君、もしかして、私たちの服が似合ってて見とれてたとか?」
明日香が冗談っぽく笑いながら顔を覗き込んでくる。
「えっ……いや、その……似合ってるのは、たしかに……本当です」
言いながら、和夢の顔はどんどん赤くなる。言ってしまった、というように小さくうつむいた。
「三人とも、今日は……いえ、今日もすごく可愛いです。服もすごく似合ってて……はい……」
小さな声ながら、和夢の言葉には真剣さがあった。すると、三人とも一瞬驚いたように目を見開き、それから──
「ありがとう和夢君! 褒めてくれてすっごく嬉しいよ‼」
明日香が満面の笑みで答える。蓮はぷいとそっぽを向きながら、頬をほんのり赤く染めた。
「あ、あたしのことはいいっての……」
「和夢さんにそう言っていただけると、今日も頑張った甲斐がありましたわ」
エレナが優しく微笑む。三人の喜ぶ姿を見て、和夢は(言えてよかった)と、胸の奥でそっと息をついた。
◆
和夢の部屋は、学生の一人暮らしにしては驚くほど整っていて、シンプルながらも落ち着いた空間だ。しかし、そのコンパクトなスペースに収められたベッド、机、本棚の一角に、心地よい緊張感が漂っていた。
今日は、そのベッドに背を預けて、皆でアニメを鑑賞することになった。和夢が真ん中に座り、右隣には明日香、左隣にはエレナが並んでいる。
そして、和夢の上から身を乗り出すようにして、蓮が画面を覗き込んでいる。和夢は少し困ったように、肩をすくめながら手を挙げた。
「あ、あの、やっぱり僕、隅っこに移動しますよ……?」
すると、明日香が即座に反論する。
「今日は和夢君のための鑑賞会なんだから、絶対に一番良い席で見なきゃ駄目だよ!」
明日香は、和夢の肩に髪がほんのり触れるたびに、ちょっと意地悪くにっこりと微笑んだ。その髪の感触に、和夢の胸は早鐘のように打ち始める。明日香の気配が、ただその存在が和夢をドキドキさせる。
和夢はその心の乱れをどうにかしようと、再び助けを求めるように左隣のエレナに視線を向ける。エレナはふっと笑みを浮かべて、少しだけ顔を近づけてきた。優雅に髪を耳にかける仕草と共に、彼女は低めの声で言う。
「和夢さんがどんな反応をするのか、すごく楽しみですわ」
その言葉と共に、エレナの肩が和夢の腕に軽く触れ、心地よい温かさが伝わった。エレナの笑顔が、まるで和夢を意識しているかのように少しだけ柔らかく、微笑んでいる。和夢はその予期しない距離の近さに、うっすらと頬が赤くなった。
その時、蓮が軽くゲーム機のコントローラーを動かし、メニュー画面を開いてスタートボタンを押す準備を整えた。
「さて、和夢後輩、もう逃げ場はないぞ。準備はいいか?」
蓮は、少し悪戯っぽく、でもどこか優しさを感じさせる笑みを浮かべて和夢を見ていた。その目には、頼りにしている様子と、ちょっとしたからかいの気持ちが混じっている。
「オッケーでーす!」明日香が元気よく答え、蓮はさらに嬉しそうに笑みを深める。
「よろしくお願いしますわ」エレナは穏やかに微笑んで言い、彼女の目には好奇心と期待が輝いている。
「……は、はい、お願いします」和夢はやっとのことで口を開くと、深呼吸を一つ。四方からの注目が集まり、彼の心臓は激しく鼓動している。
蓮は少し意地悪に、「さあ、始めるぞ!」とアニメを再生する。スクリーンには色鮮やかな映像と力強い音楽が流れ、すぐに本編が始まった。
だが、和夢の体は相変わらず緊張で固まり、心の中で焦りを感じている。
(こんな状況で、アニメに集中できるのか、僕は……⁉)
和夢は顔を上げて画面を見つめるが、その視線はどこか落ち着かない。だが、周りの三人がそれぞれの場所で、まるで自分のために寄り添ってくれているような温かさを感じ、少しだけ胸の緊張が和らぐのだった。




