第22話:優しさの距離
日曜日のバロック。明日香は目に涙を浮かべ、エレナと蓮に深々と頭を下げていく。
「本当にごめんなさい、二人とも……」
その声は震え、心からの謝罪が込められていた。明日香は一度、言葉を詰まらせてから、続けた。
「本当に我儘でした。二人に相談せず、私は私が受け止めたい言葉だけを二人に要求して、それで勝手に落ち込んで……本当にごめんなさい」
彼女の言葉には、悔しさと反省が滲んでいた。深く頭を下げたその姿から、明日香がどれほど自分を責めているのかが伝わってきた。
そんな明日香を、エレナと蓮は優しく受け止める。
「そんなことありませんわ」
エレナは落ち着いた声で言いながら、そっと明日香の背中を撫でた。
「誰だって自分の好きが否定されるのは辛いものです。それに大会でそんなことがあっては、明日香さんが言い出せないのも仕方ないことですわ」
「むしろあたし達のほうこそ、明日香の考えにもっと寄り添ってやるべきだったよな」
蓮も、苦笑しながらぽんぽんと明日香の頭を撫でる。
「配慮が足りなかった。すまないな、明日香」
二人の言葉を聞くと、明日香は大粒の涙を流しながら顔を上げる。
「え~~~ん、二人共優しすぎるよぉ~~!!」
涙声のまま、今度はさらに力を込めてぎゅうぅっと二人を抱きしめる。
(うんうん。一件落着みたいで良かった、良かった)
和夢は一歩引いたところから三人の姿を眺め、小さく頷く。
明日香はそんな和夢に気づくと、すぐにエレナと蓮から離れ、勢いよく駆け寄った。
「和夢君も本当にありがとうね!」
「いえいえ、僕は別に何もしてませんし。これは明日香さんが頑張って勇気を出して、思いを打ち明けられた結果ですよ」
和夢がそう返すと、明日香は一瞬ぽかんとした顔をした。しかし、すぐに目を細め、柔らかく優しい笑みを浮かべる。
「あーあ、そんなこと言ってくれちゃうんだ」
「そんなことって?」
「ううん、なんでもないよー!」
明日香はぱっと顔を輝かせると、和夢の腕を掴んでぐいっと引っ張った。
「ほらほら、和夢君もそんな端っこにいないで、こっち座ろう!」
「えっ、ちょ、明日香さん?」
「私ね、飛空隊ビートの改造案考えてきたんだ!」
「本当ですか! 是非ともお願いします‼」
勢いのままに和夢を隣の席に座らせると、明日香は満足げに頷く。
そんな二人の様子を見ていた蓮が、戸惑い混じりの声を上げた。
「な、なあ、明日香。流石にその距離は近すぎるんじゃねえか?」
「そうですか?」
明日香はきょとんとしながら、小首をかしげる。そして、にこっと笑って和夢の肩にすり寄った。
「私たち同級生ですし、これくらいの距離、普通だと思いますけど?」
その言葉に、蓮は思わず口をぱくぱくとさせる。
「な、何だその謎理論は……」
「あらあら、お二人はさらに仲良しさんですわね」
エレナは嬉しそうに微笑んで見せた。
一方で、和夢は明日香がぴったりと寄り添っていることに気づき、慌てて身を引こうとする。
「あ、明日香さん。流石に近すぎて、その……」
「大丈夫、大丈夫! 近くにいたほうがもっといいアイデアが浮かぶって!」
「そ、そうなんですかね?」
「うん、絶対にそうだよ!」
ひまわりみたいな笑顔で、力強く断言されてしまうと、和夢にはもう反論の余地がなかった。
そんな二人を、エレナと蓮は呆れながらも微笑ましく見ている。和夢は「ははは……」と硬い笑みを浮かべながら、三人の優しい空気に包まれていく。
すると、明日香は突如として立ち上がり、天に向かってこぶしを突き上げた。
「それじゃあ今日もみんなで頑張っていこうねー‼」
その眩しい笑顔に、バロックの空気はさらに温かくなっていくのだった。




