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第20話:夢の狭間で揺れる想い

(……また、あの大会の夢だ。もうすぐ半年になるのに)


 夢の中で、明日香はすぐにこれは夢だと気づく。しかし、それが明晰夢だと理解していても、身体は思うように動かせない。ただ、あの日の自分を、俯瞰するように眺めるしかなかった。


「私は――――を召喚します!」


「……はぁ、もう負けでいいです」


 マストカウンターが完璧に決まった瞬間、対戦相手は手札を乱暴に投げ捨て、投了を宣言した。明日香は「ありがとうございました」と小さく頭を下げた。だがその瞬間、相手は苛立った様子で明日香を睨みつけ、吐き捨てるように言い放った。


「こんな気持ち悪いイラストのガチカード入れて、何が“可愛いデッキ”だよ。完全に騙されたじゃん、クソッ」


「えっ、あの……」


「盤外戦術までして、どれだけガチなんだよ。白けるわ」


 明日香が何か言おうとした瞬間、相手は乱暴にデッキを詰め込み、その場を足早に立ち去った。


(……そして、いつもこの夢のあと、私は汗びっしょりで目を覚ますんだよね)


 諦めにも似た心持ちで、夢から覚めるその時を待つ。だが、今日は違った。目が覚めることなく、夢はそのまま次の場面へと移り変わった。


 カードショップバロックの店内。エプロン姿の明日香の前に、一人の少年、高坂和夢が立っている。

「まあ、こうやって思いっきり話すのも初めてだしね。じゃあ、友好を深める意味も込めて、一戦やってみようか?」


 夢の中の明日香は、自然な笑顔を浮かべながらデッキケースを取り出していた。


(このときのことは、よく覚えてる。自分でも不思議だった。もうLRからは少しずつ距離を置いていたはずなのに、こんな言葉が出てくるなんて思いもしなかった)


 あのとき、なぜ自分がそんな提案をしたのか。和夢が初心者だったから? それとも、自分の過去を知らなかったから?


 明日香はしばらく考える。けれど、そのどちらでもないことを、心の奥底ではわかっていた。


(もし本当にLRをやめる気だったなら、エプロンにデッキなんて入れない。私は――やっぱり、どこかでバトルがしたかったんだ)



「わぁ〜、この子、やっぱり可愛いなぁ~。カワケモの騎士、可愛くて強いんだよね!」

「やっぱりカワケモの騎士、可愛いなぁ〜!」

「カワケモって、どれも本当に可愛いんだよね~。次々に出てくると愛らしくて堪らないよ!」



 あのときのバトルは、今見返すと自分でも恥ずかしくなるくらいテンションが高かった。


(それは、久しぶりのバトルだったから? ううん、それもきっとあるけど、和夢くんが純粋にバトルを楽しんでいる姿を見て、私も引き込まれちゃったんだ)


 その日から明日香は、エレナ、蓮、そして和夢とともに、LRを心から楽しんだ。過ぎてしまった時間を取り戻すように。


 可愛いモンスターたちでいっぱいのデッキと、再び向き合う中で、彼女は自分がどれほどこのゲームを――この“好き”を――大切に思っていたかを、少しずつ思い出していった。


(だけど……私のデッキは、あのときから時間が止まったまま。前に進めていない。でも、それでも……)


「こんな気持ち悪いイラストのガチカード入れて、何が可愛いデッキだよ。完全に騙されたじゃん、クソッ」


 あのとき浴びせられた言葉の棘は、今も胸の奥に刺さったままだ。傷はふさがらず、触れればまだ痛む。明日香は胸元をそっと押さえ、ただひたすらに祈る。


(お願いだから……早く、夢から覚めて――)



 ◆

 土曜日の午後、和夢と明日香は一緒に街を歩いていた。ショッピングモールに到着し、明日香は店のウィンドウを覗き込む。彼女は明るく賑わう周りのカップルたちの姿に少しだけ目をやった後、軽く微笑みながら和夢の方を振り返る。


「和夢君、これどう思う?」


 明日香はケースに並んだシンプルなペンダントを指さす。和夢は目を凝らしてそれを見る。


「……すみません、ちょっとオシャレには疎いもので物の良し悪しが分からなくて」


「私には似合いそうかな?」


「それは、はい! デザインも派手過ぎず、明るい明日香さんに凄く合うと思います」


 和夢の言葉を聞いて明日香はパッと顔を明るくする。明日香は嬉しそうに、「じゃああれはどうかな、あっちもどうかな」と和夢に意見を求めていく。和夢はそのたびに想いを巡らせ真剣に答えていった。


 ウィンドウショッピングを終えるとカフェに入る。明日香はストロベリーラテを、和夢はココアを注文した。


「一回入って見たかったんだよね~、あっ、飲み物が来たら写真撮っても大丈夫かな?」


「もちろん大丈夫ですよ」


「ありがとう! ここのふわっとした小熊のラテアート、可愛くてすっごく気になってたんだ。和夢君、今日は付き合ってくれてありがとうね」


 そう言って明日香は笑顔を浮かべる。だがそれはいつものひまわりのような明るいものではなく、どこか影があるように見えた。明日香はラテアートの撮影を終えると、和夢に視線を向ける。


「私さ、バイトやお姉ちゃんの店の手伝いがない時は、たまにこうやってお友達と遊びに行くんだ」


「明日香さん、クラスの皆と仲良しですもんね」


「うん。皆で洋服やアクセサリー見たり、流行のドラマの話をしたり、こうやってお洒落なカフェに入ったり。凄く、すっごく楽しいんだ」


 明日香はそこで言葉を切ると、ストロベリーラテを口に運ぶ。彼女はほっと一息つくと言葉を続ける。


「世の中にはこんなに楽しいことがたくさんあるのに、何で私はカードゲームなんだろうって思う時があるんだ。もちろんお姉ちゃんの影響もあると思う。でもそれだけじゃなかったはずなのに……」


 明日香はそう言ってラテアートにスプーンを加える。最初に、小熊の愛らしい目が少しずつ溶けていき、次に鼻と口もゆっくりと消えていった。最後には、アートの輪郭が溶け込み、カップの底に向かって美しい混ざり合いのパターンが広がっていく。


 明日香はその様子を見ながら「可愛いって何なんだろうね」と声を漏らす。和夢が何も言えないでいると、明日香は困ったように笑みを浮かべた。


「ねえ、和夢君はまだ時間大丈夫かな」


「はい、全然大丈夫です」


「だったらさ、この後バトルしようか」


 そう言って明日香はバッグの中にあるデッキケースをチラリと見せた。ついにこの時が来た。和夢は机の下でこぶしを握りこむと「もちろんです」と答えていった。



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