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第15話:和夢さんってよく見ると

  放課後のバロック、今日はエレナとバトルしていた。勝敗は一勝五敗、そして和夢は初めて巡ってきた連勝のチャンスに思考をフル回転していた。


「……僕は≪ブラックブレイズドラゴン≫で攻撃します」


「……ライフで受けますわ」


「僕のターンはエンドです」


 これでエレナのライフは一撃圏内に入る。だがそれは和夢も同じだ。クリアシャインの圧倒的攻撃力の前ではこちらも一撃圏内だ。


(状況はこちらの方が劣勢だな。だけど僕の手札には万能無効カード≪ブラックブレイズカウンター≫がある。コストは重いけど、これならクリアシャインもアルティメットも召喚を無効にできる)


 和夢は手札に目を向けずに思考を続ける。


(だが落ち着け、慌てるな。僕の負け筋は何かしらの方法でこのターンクリアシャインに殴られること。どこを止めるかちゃんと見極めるんだ)


 緊張が走る和夢の顔を見て、エレナは微かに笑みを浮かべる。それはまるでかつてのエレナ自身を思い出すかのように、初心者特有の熱意と緊張がビシビシ伝わってきていた。エレナは嬉し気にデッキに指を添える。


「行きますわよ和夢さん! わたくしのターンドロー‼ レコードをセット、コストを払って≪クリアシャインドラゴン≫を召喚しますわ!」


 エースの召喚に反射的に体が動きそうになる。だがまだだ。クリアシャインドラゴンは≪速攻≫を持たない。


(まだ、まだだ。一番最悪なのは妨害を使った後に、コスト軽減カードで二枚目のクリアシャインを呼ばれて、そこからアルティメットに繋げられることだ)


 無論二体のクリアシャインが並べば盤面はかなりきつくなる。だがドローがあれば逆転の目はある。和夢は裏目を恐れずにクリアシャインの召喚を通す。エレナは和夢の成長を感じると静かに頷いた。


「見事な判断ですわ和夢さん。ですが、まだ連勝はさせませんわよ」


 エレナは手札にあるカードを表にする。


「わたくしは手札の≪パーフェクトクリアシャインドラゴン≫の効果を発動。このカードは場に≪クリアシャインドラゴン≫がいる場合、重ねることで≪進化≫が出来ますわ」


「――――僕の知らないカード⁉ でもやることは変わりません。手札の≪ブラックブレイズカウンター≫を発動、効果を無効に破壊します!」


「それはどうかな、ですわ! ≪パーフェクトクリアシャインドラゴン≫の効果、このカードの効果の発動に対し、相手はカードを発動することは出来ませんわ!」


「えっ、ええっ――⁉」


「透明な光よ、暗闇を裂き彼方の地から無限の輝きを放て。その力はどんな束縛にも縛られず、無敵の煌きが全てを超越する! 降臨せよ≪パーフェクトクリアシャインドラゴン≫」


 カードがテーブルの上で静かに、しかし力強く場に出る。その光景は、まるで時が止まったかのように感じられ、周囲の空気が一瞬にして張り詰めた。


「さらに場に出た≪パーフェクトクリアシャインドラゴン≫は他のカードの効果を受けませんわ!」


「完全耐性のクリアシャインドラゴンですか‼」


「さあ行きますわよ! ≪飛行≫持ちのパーフェクトクリアシャインで攻撃! クリア・レイディアンス‼」


 エレナは丁寧にカードへ指を添え、静かにタップしていく。その所作はまるで舞踏会の招待状を差し出す貴婦人のように洗練されていた。だがその眼差しには確かな勝利への信念が宿っていた。


 場に置かれた≪パーフェクトクリアシャインドラゴン≫のイラストが照明を受けて微かに煌めく。まるでそのカードが本当に光を放ち、戦場に降臨したかのような神々しさがあった。


 そうして、クリアシャインドラゴンと同等の攻撃力の一撃で勝敗は決した。


 バトルを終えると和夢はエレナの手札を見せてもらう。


「どちらにしてもコスト軽減とクリアシャインはあったんですね。うーんこれは完敗ですね」


「それでも見事な読みでしたわ。成長しましたわね和夢さん」


「そう言ってもらえると嬉しいです。あっ、そう言えばパーフェクトクリアシャインって初めて見ましたけど、凄くかっこいいカードですね‼ もし良ければじっくり見させてもらってもいいですか?」


「ええ、和夢さんならもちろんですわ」


 と言ってエレナはパーフェクトクリアシャインを渡してくれる。ビカビカに光っているカードを和夢は慎重に丁寧に受け取ると、そのイラストを見てパーッと笑みを浮かべる。


「やっぱり何度見てもクリアシャイン系列のカードって神々しくて気品があってカッコいいですね。でもこれが出てきた時は驚きましたよ。まさかカード効果を受けないなんて」


「先ほど負けた時にサイドから入れさせてもらいましたわ。クリアシャインの二つ目の進化、相手の効果に対して無類の強さを誇るのがこのパーフェクトクリアシャインですわ」


「二つ目と言うことは、もしかして他にも進化カードが?」


「そうですわね。クリアシャインデッキは≪飛行≫持ちのアルティメットによるワンショットキルが基本ですわ。ですがそれで対応できないデッキ相手にはサイドデッキの他のクリアシャインを使っていきますわね」


「なるほど~~、ちなみにブラックブレイズにはネオ以外に進化はあるんですか?」


「残念ですが進化カードはネオブラックブレイズのみですわね」


「まあサイドデッキにないんですからそうですよねー、うーんなるほど」


 そう言って和夢は両手を頭の後ろに組むと、体を少し伸ばすように反らした。そんな和夢を見てエレナは少し不安そうに声を漏らす。


「和夢さんは怒ってはいませんか?」


「えっ、何をですか⁉」


「和夢さんのデッキに対応して、わたくしはデッキにパーフェクト入れました。このカードはコントロールブラックブレイズに対して明らかに有利に立ち回れるカードと分かっているのに……」


 そう言ってエレナは少し難しい顔をして視線を逸らしてしまう。そんなエレナの姿を見て、和夢は頭に疑問符を浮かべた。


「でもサイドデッキってその為にあるんですよね。僕だってバトルの度に色んなカードやデッキを試させてもらってますし、全然問題ないと思いますけど??」


「ですが和夢さんはまだLRを始めたばかりですのにわたくしは……」


「僕はむしろエレナ先輩がサイドデッキを使ってくれて嬉しかったですよ。カードゲームって対戦相手がいることで成立するゲームですし、エレナ先輩が僕とのバトルを楽しんでくれてるんだなーって伝わってきた気がして」


 そこまで言うと和夢はパーフェクトクリアシャインをエレナに返す。エレナがそれを受け取ったのを見ると、和夢は屈託のない笑みを浮かべる。


「それにパーフェクトクリアシャインを使ってるときのエレナ先輩、すっごく嬉しそうで楽しそうで、見ているだけでこっちも凄くワクワクしました」


「わたくしが……楽しそうに……ですか?」


「はい! クリアシャインで戦ってるときのエレナ先輩はいつだって幸せそうですよ‼」


 和夢にそう言われると、エレナは改めてパーフェクトクリアシャインを見る。


「……そう、ですわね。確かにそうに決まってますわよね」


「エレナ先輩?」


「いえ、何でもありませんわ。和夢さん、次はネオブラックブレイズのデッキを使っていただいても?」


「はい、もちろんです! エレナ先輩を見て僕も進化カードを使いたくなってたんですよね」


「せっかくの二人きりです。この後はネオブラックブレイズで戦いながら、わたくしなりの戦術や展開タイミングをお伝えしていきますね」


「はい、よろしくお願いします!」


 そう言って和夢は無邪気な笑みを浮かべた。すると、そんな和夢の顔をエレナはじっと、どこか熱のこもった目で見つめてくる。


「和夢さんって、よく見ると──」


「よく見ると?」


「…………可愛らしいですわね」


「えっ⁉ ぼ、僕がですか? えーと……ありがとうございます……?」


 思わぬ言葉に和夢は思わず声を裏返し、曖昧に礼を述べる。面と向かってそんなふうに言われたのは、たぶん初めてだった。どうリアクションすればいいのか分からず、少しだけ困惑してしまう。


「そ、そういう意味じゃなくて……いえ、初めてお会いした時も可愛らしい殿方だとは思っていましたけど、それとはまた違うと申しますか……何と言いますか……」


 エレナの方も、何やら言葉に詰まり気味だ。視線を逸らし、ほんのりと頬を染めている。


「と、とにかく一戦やりましょう! 改めてネオブラックブレイズの戦い方、教えてください!」


「えっ、ええ。わかりましたわ」


 エレナは少しぎこちなく頷き、デッキを手に取る。


 一方、和夢は自分のデッキをシャッフルしながら、心の中で「う~ん」と唸っていた。


(先輩からしたら、やっぱり僕って子供っぽく見えるのかな。でも……だからこそ、ちゃんと頼ってもらえるようにならなきゃ)


 自分にできることを増やしていこう。カードのことも、生徒会のことも。そんなふうに気持ちを新たにする和夢を、エレナは横目でそっと見つめる。


(男の人がこんなに可愛らしく見えるなんて……初めてですわ)


 心の中でそっとそう呟きながら、自分の胸の奥がわずかに熱を帯びていくのをエレナは不思議に思っていた。


 そしてそのまま、ほんの少しだけ──頬を赤らめたのだった。

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