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第13話:和夢さんの青春はわたくし達の双肩に――――‼

 デッキケースについての誤解が解けた後も、和夢たちはずっとLRをプレイしていた。もうすぐ夕暮れ、そろそろ帰る時間になると和夢は三人に尋ねる。


「今週の平日は皆さんバロックに来る予定はあるでしょうか? あっ、もちろん今の段階での話ということで」


 和夢の言葉に明日香は思い出しように声をあげる。


「そうそう、それだよそれ! 和夢君とバトルしてると楽しくて、いつも忘れちゃうんだよね!」


「どういうことですか明日香さん?」


「連絡先だよ。和夢君ライムやってる? 連絡先交換しよう!」


 明日香がそう言うと、エレナと蓮もそれに続く。


「そうですわね。お互い突然の用事もありますし、交換しておいた方がいいかもしれませんわね」


「……まあ二度手間も面倒だしな。あたしも構わないぞ」


 そう言って三人はスマホを取り出す。和夢もそれに習いスマホを机に出すが、その表情は固まっていた。


「えっと、スマホはあるのですがライムって何でしょうか?」


「えっ、ライムだよライム! メッセージとかスタンプを送ったりするアプリだよ!」


「す、すみません。スマホって高校に入るまで持ってなくて、正直使い方全然分からないんですよね」


 と言って和夢はスマホに触れ画面をつける。ピンコードは設定されておらず、デフォルトの背景が表示された。そしてそのまま明日香に見やすいように、彼女の手元にスマホを置いていく。


「もし良かったらやり方を教えてもらってもいいでしょうか」


 和夢は申し訳なさそうに、上目遣いに尋ねた。そのシュンとした表情に、明日香は少し戸惑ったが、すぐに答える。


「それはもちろんだけど、えっと、私がスマホ見ちゃっても大丈夫なの?」


「はい大丈夫ですけど? あっ、もし何か問題があるんでしたら、全然大丈夫ですので⁉」


 と言葉にする和夢の目に濁りは一切なかった。明日香はそのあまりの無垢さが少しだけ不安になる。


「じゃ、じゃあ、ささっと設定させてもらうね」


 と出来るだけ早くライムの設定をする。さらにそのまま三人分の登録をすぐに終わらせと、和夢にスマホを返した。


「おぉー、明日香さんありがとうございます!」


 和夢は連絡先が表示されたスマホを嬉しそうに掲げ言葉を続ける。


「凄く嬉しいです。僕、友達の連絡先を聞いたの人生で初めてです!」


 和夢が本当に嬉しそうに言葉にすると、蓮は両手で頭を抱え項垂れる。


「……和夢後輩、お前って奴は」


「和夢さん、本当に良かったですわね」


 エレナは目に少しだけ涙を貯め小さく拍手した。


 何となくしんみりした空気になってしまうと、明日香はそれを吹き飛ばすように「そうだ!」と手を合わせる。


「和夢君、写真を撮ろう! 画面がデフォルトのままじゃ寂しいもんね!」


「写真ですか? でも何を撮ればいいんでしょうか?? あっ、ブラックブレイズのカードとかですか‼」


「こんなに可愛い女の子が三人もいるんだよ! そんなの決まってるよ‼」


 明日香はそう言うと鞄から自撮り棒を取り出し、和夢のスマホをセットする。次に三人をぐいぐいと押し寄せていく。突然の密着と撮影に蓮が非難の声をあげた。


「お、おい、あたし写真はあんまり」


「蓮さん、これも和夢君のためですよ!」


「そうですわよ。和夢さんの青春はわたくし達の双肩にかかっているといっても過言ではありませんわ」


「…………まあ今の話聞いちまったらな」


 蓮は諦めたように体の力を抜く。三人が納得していくなか、当の本人である和夢だけが何一つ理解が追い付いていなかった。席に座っている和夢は左右上から女子に詰め寄られると、耳まで真っ赤になってしまう。


「あ、あの明日香さん」


「ほら和夢君撮るよ! スマホの方見て‼」


「は、はい!」


 ピシャリと言われ、これ以上何も言えなかった。タイマーのスイッチが起動し、ピッ、ピッ、ピッという電子音が静かな空間に響き渡る。


「はい、笑って笑って~」


 明日香がそう言うと、瞬間的にライトが点滅する。そして「カシャッ」というシャッター音が響いた。


 明日香はスマホを取り外すとテーブルに置く。三人は和夢に体を密着しさせたまま写真に目を向けた。


 緊張でガチガチの和夢と不器用な笑みを浮かべる蓮、お淑やかな笑みのエレナとひまわりのような笑顔の明日香。統一感など皆無の四者四様の写真を見つめ、明日香は満足そうな顔をする。


「うん、味があって凄くいい写真になったと思うよ!」


 そう言って明日香はその写真をホーム画面に設定する。今までの味気のないデフォルトの画面が一気に華やかになると、和夢はそのスマホを嬉しそうに握り締めた。


「あ、ありがとうございます明日香さん」


「これくらい全然だよ。これからもいっぱい写真撮っていこうねー」


 そう言って明日香は「ブイ!」とピースを作っていく。そんな心強い明日香の姿を見ると、和夢は改めて三人に「ありがとうございました」と頭を下げていくのだった。



 その日の夜。和夢は教科書を閉じ今日の分の予習を終わらせる。勉強の間しまっていたスマホを机の上に置くと、ホーム画面を見てニコニコ笑顔を浮かべた。


「本当に……皆いい人だな」


 中学まででは考えられない幸せな時間を噛みしめる。そして机の上にあるかブラックブレイズのカードを見た。


「僕には勿体ないくらいの最高の友達が出来たって、いつかお姉さんにも伝えたいな」


 あの時の言葉があったから、自分は挫けずここまでやってくることが出来た。このブラックブレイズドラゴンが傍にいてくれたからLRを諦めなかった。


 和夢は厚めのケースに入ったブラックブレイズを見ると、ふと土曜日のことを思い出す。


「そう言えばカードキャッスルにはこの絵柄のブラックブレイズドラゴンはなかったな。まあ七年前のものだし、イラストもドンドン変わってるってことなんだろうな~」


 ゲーム機だって4になったり5になったりしているので、そこまで疑問には思わなかった。だがこれで余計に傷つけるわけにはいかないと、危機感が増していく。


「……さてそろそろ寝ようかな」


 と口にした瞬間、スマホからピコンと電子音が鳴る。画面を見るとライムの通知が入っていた。まだ慣れない操作に戸惑いながらも、メッセージを確認していく。するとそのすぐ後に画面に新しい通知が表示された。


【明日香がグループに貴方を招待しました】


「グループって……何だ……?」


 一対一で使うだけだと思っていたライムに、そんな機能があるとは思いもよらなかった。和夢は特に何も考えず画面をタップする。すると明日香、蓮、エレナの名前が並んだトークルーム≪チーム バロック≫が開かれた。


明日香『和夢君やっほー、これで色々話せるね~』


エレナ『これからはこちらでもよろしくお願いいたしますわ』


蓮『あたしはあんま反応良くないけど……まあよろしくな』


 和夢はそれらのメッセージを見て心を震わせる。そしてバロックの時のように、感謝の思いを込めて『こちらこそよろしくお願いします』と返信をしていくのだった。



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