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僕の父さまと先生は同じ師匠の元で学んだんだけど、同じ師匠から柳生宗矩さまも学んでいるんだよね。
柳生宗矩さまとは剣士として物凄く有名な人なんだけど、先の戦で負傷をした柳生巌勝さまのお父さまということになる。つまり巌勝さまは先生の兄弟子の息子ということになるんだよ。
僕らが思うよりも兄弟弟子の繋がりというものは強いみたいで、同じ師匠から学んだとなると家族と言っても良いほどの太い繋がりが出来るみたい。
だからこそ先生は辰市城の戦いに参戦しているし、傷ついた兄弟子の息子を助け出してもいるわけさ。
本人が言うところの『負け戦専門』で腕を磨いている先生だけど、負け戦を選んで戦っているから名があがるなんてこともない。ほぼ無名だというのに、この地域を統括する守護代様が先生の訪問を受け入れたのは、一枚の書状が先生の懐の中にはあったから。
先の戦で柳生巌勝さまの命を助けた先生は、
「是非とも持って行ってください」
ということで、柳生家が後見人となり身元保証をしているという内容を記した書状を、渡されることになったんだよね。
この書状を拝見された守護代さまは、すぐさま先生との面会を決定しました。
ここから柳生の里はまあまあ近いし、柳生宗矩さま(今の当主さま)のご高明は各所に轟いているような状態ですしね。
「自分の弟弟子が守護代さまの管轄内で無惨な死を迎えることになったことに対して、柳生さまは相当なお怒りの状態でして」
そこで先生が守護代さま相手にカマをかけたところ、
「も・・も・・申し訳ございません〜!」
と、守護代さまは這いつくばるようにして頭を下げながら言い出したみたい。
父さまが護衛をしていた守護代さまは、すでに引退をして代替わりをした後だったんだけど、息子の方はかなりのボンクラだったみたい。
ある時、とっても偉い人からの依頼で山の中にある集落から女を一人、誘拐するのを手伝ってくれと言われることになったんだけど、
「ふむ、女を一人を誘拐する手筈を整えろか・・」
誘拐しなければならない女性が、父の護衛を度々していた徳一(僕の父さま)の妻だということで、
「無事に女の身柄を拘束できるようにお前が手伝え」
後ろ暗いことは何でもやるという郷士米原兼蔵という奴を呼び付けて、守護代様は丸投げしちゃったというわけさ。
この米原兼蔵という奴は、
「熊キチの女房を攫うというけれど・・だったら集落の女は連れ出し、熊キチも含めた男どもは全員、皆殺しにしてやろう」
と、考えた。母さまの誘拐には、お偉い人から派遣された人々が関わることになっているけれど、一番邪魔になる父さまを排除するには周囲の無頼者が必要になる。この無頼者の中には土蜘蛛の一味も混ざっていたのは間違いない。
郷士の兼蔵という奴は汚れ仕事なんかを専門にやっていたということなんだけど、無頼漢たちの影の親玉みたいな役割を担っていたみたいなんだ。この兼蔵にとって僕の父さまは目の上のたん瘤状態だったのは間違いないみたい。
母さまを誘拐したいというお偉いさんたちは、母さまさえ手に入ればそれで良いというし、後は好きにしろと言って金子をたんまり兼蔵に与えたので、山の中の集落を襲撃するためにそれは大量の弓矢を兼蔵は購入することにしたそうなんだ。
「そんな訳で、守護代様の許可も得て、兄者の仇討ちということで兼蔵を殺して来たんだが、その兼蔵のところには山の集落の娘たちが監禁されているような状態だったのでな。ついでだから助けて来たのだが、その移動の手配に時間を食うことになってしまったのだ」
ボロボロの僕はおばさんの家の奥の部屋で寝たきり状態になっていたんだけど、そんな僕に先生は今までの説明をしてくれたわけなんだけど、
「先生、僕の母さまを誘拐した奴らってなんなわけ?」
と、尋ねないわけにはいかないよね?
「僕の母さま、いったい何処に連れて行かれちゃったのかな?」
先生に問いかけている間にも、ポロポロと涙が僕の頬を流れていく。
母様は近隣でも有名な美人であり、今まで、美人な母さま狙いで極悪人なんかがやって来ることも多かったんだ。
「母さま、あまりに美人だからそれで狙われちゃったとは思うんだけど、今度はどんなお偉いさんに目をつけられたんだろう?」
「お偉いさんというか・・おそらく・・お前の母さんの親族が婚姻政策に利用しようと考えて奪って行ったのだと思うんだが」
あぐらをかいた先生は、胸の前で腕を組み、難しげな表情を浮かべながら言い出した。
「お前の母さんだが、おそらく良いところの家の出なんだと俺は思う」
確かに、母さまは人品は良いし、動き一つ見ても優雅で、山の中の集落でも母さまの存在自体が浮いているようなところがあったもの。
「どうやら風魔一族が絡んでいるようなのだ」
「はあ?ふうま?」
「お前は母親が誘拐されるのを防ごうとして、山の中で男四人を殺していたと思うんだが、その四人の男のうちの一人が、風魔一族の者だったんだ」
「え?ふうま?」
「風魔は特徴的な刺青を体の何処かしらに入れているところがあるんだよ」
「先生、その風魔って何?」
「あああん?」
そんなことも知らないのか、みたいな表情を先生は浮かべると、
「北条家に仕える忍びの一族を風魔一族って言うんだよ」
と、言い出した。
「え?北条ってなに?」
「ここから北に移動した先に大きな家を構えている一族だよ」
「それじゃあ、母様は北に移動したの?」
「いや、そうじゃない。西に移動したみたいだ」
「北条はここから北にあるのに?」
「あ〜ん・・だから・・」
先生はそこで自分の首筋をボリボリと掻くと、
「あわよくば婚姻政策で利用出来るんじゃないかってことで、お前の母さんを西に移動させることになったみたいなんだ」
と、言い出したんだ。
「母さまは父さまと夫婦なのに?」
「その兄者が死んだだろ?」
「それじゃあ、未亡人となった母さまは、誰かと夫婦になるために連れて行かれたということなの?」
「あの美貌を見込まれてということなんだろうが、上の者の考えることはちっとも分からん・・というか、イチ、泣くな、泣くな。良い方に考えれば、お前の母さんは政略のために連れて行かれたってことになるんだから、とりあえず無数の男どもの餌食となることはないだろうしな」
「で・・でも・・母さま泣いてるよ・・きっと泣いてる・・」
僕はポロポロと涙をこぼしていると、先生は僕の目の上に片手を置いて言い出したんだ。
「面白そうだからお前の母さんを俺も一緒になって追いかけて行っても良いかと考えているんだが、兎にも角にもお前の怪我が酷すぎる。母さんを早く追いかけたいのなら、早急にその怪我を治さなくちゃならないな」
「うん・・先生・・僕・・怪我を治すよ・・」
横暴すぎる土蜘蛛の連中を前にして、僕はプチンとキレてしまったわけなんだけど、気が付いた時には満身創痍の状態で、二日間、意識が戻ることもなかったらしい。器用な先生は僕の傷を針と糸でグイグイ縫ってくれたらしいんだけど、全身が痛過ぎて、今は起き上がることも出来ないんだ。
ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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