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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第三章  これぞ完璧なる負け戦
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第二十話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 柳生様の手配もあって浜松城内に難なく入ることが出来た僕と先生は、助っ人の足軽雑兵として地べたに這いつくばりながら戦うことが決定していたわけ。

「徳川家康、絶対負けるでしょ」

 と、柳生さまも言っていたし、周りも負けると思っている。お城の中に居る人たちが、

「どれくらいの籠城になるのだろうか・・」

「織田様が援軍を早急に送ってくだされば良いのだが・・」

 と、言っている通り、完全に援軍頼みの状態だったんだよね!


 みんなの心はお城に籠城一択状態だったんだけど、そんな浜松城を無視する形で武田軍は浜名湖の畔にある堀江城目指して軍を進め出したんだよね。


「「「ああ〜・・信玄公、こっちは無視して行っちゃったよ〜」」」

「「「これも神様、仏様のお陰か〜!有り難う!武田様〜!」」」


 堀江城を押さえられたら物資の輸送が完全に滞ることになっちゃうから、有り難う!武田さま〜!ではないんだけど、下々の者には細かいことなんて良く分からないんだから仕方がないよ。


 とにかく朝から雪が降っているし、このまま戻って来なくて良いから武田様は織田様を潰しに行ってください。と、みんながみんな、思っていたわけなんだけど、

「これから出陣じゃ〜!」

 と、叫んだのかどうかは知らないけれど、家康さまは信玄公を追いかける形で出陣しちゃったんだよね?


 三方ヶ原に移動してからは滅茶苦茶の連続だったんだけど、その滅茶苦茶ぶりをあえて演出していたっていうんだから呆れ返っちゃうよね!


「ああああ〜!ぶぶ漬け!ぶぶ漬け俺も食べたいー〜!」


 僕と半平太がまだ半分も食べ終わっていないうちに、一椀をお腹の中におさめてしまった家康様は、ゴロリと寝転がってぐうぐうイビキをたて始めたんだけど、そんなお殿様も寝っ転がっている座敷に子供の武士がやってきた。


 子供と言っても十三歳くらいかな・・鎧のあちこちに血が飛んでいるから、あの激戦地を潜り抜けて来たんだろうけど、

「兄者!殿がこんなところで寝こけておりまする〜!」

 イビキをたてている家康さまを見下ろして、体をブルブル震わせながら言い出した。


 大久保忠員の八男である彦左衛門くんはお兄さんたちと一緒に今回の戦いに参戦をしたわけだけど、彦左衛門くんの後ろから現れた大久保家の長男、忠世さまが、

「殿―!敵がすぐそこまで迫って来ておりますぞー!」

 至極ごもっともなことを言い出したんだよね!


 ここまで逃げて帰って来た人の話を聞いていると、武田軍に途中で追い越されたとか、待ち伏せされたとか、逃げ道を見失ったとか、命からがらにも程がある状態で戻って来ているわけなんだけど、門扉は全開状態だし、篝火は煌々と焚かれちゃっているしで、

「「「「何?何?一体なんなの?」」」」

 状態になっちゃっているんだよね!


「「「もしかして・・織田様の援軍が追加で到着したのか?」」」

 と、門を潜り抜けた人たちは期待で胸を膨らませることになったんだけど、織田さまの援軍は城内に到着していないので、

「「「ど・・ど・・どういうことなの〜?」」」

 と、みんながみんな、訳が分からない状態に陥っているんだ。


 武田軍は敗走する徳川軍を追いかけて来ているし、お城のすぐそこまで迫って来ている状況なんだけど、相変わらず門扉は全開状態でしょう?


「殿―!起きてくだされー!」

 大久保家の長男である忠世さまは躊躇なく大声を上げたので、

「うるさいの〜」

 遂にずんぐりむっくりの御城主さまが起き上がったんだ。

 一緒に寝っ転がっていた先生も目を覚まして起き上がったんだけど、ぼんやりとしてまだ寝ぼけているみたい。


「殿―!敵がすぐそこまで迫っているというのに!門扉を全開にして篝火を焚くとはどういった了見でございますか!」

 どういったも何も、二万の軍勢が遂に浜松城に到着したと見せかけるためにやっているだけのことなんだけど、

「空城の計」

 先生が助け舟を出すように言い出したんだ。


 空城の計っていうのは兵法三十六計のうちの一つで、敵に惨敗した兵士が城へと逃げ帰って行くことになるんだけど、その敗走する兵士を出迎える城を空っぽに見せることで、追いかけて来た敵軍に強い警戒心を抱かせるという計略のことで、

「そう!空城の計!まさにそれじゃ!」

 家康さまは手を叩いて先生の助言を喜ばれました。


 そこで先生に目を留めた大久保忠世さまは、

「誰だ!お前は!」

 と言って腰の刀を引き抜いたんだけど、

「待て、待て、こやつは弥五郎、伊藤弥五郎じゃ」

 と、家康さまが言い出したんだ。


「噂も流したし、門扉も開けて篝火を煌々と焚いておるから、武田の奴らは我が方に二万の軍勢が加勢したものと思い込むであろう」

「殿!織田様の加勢は僅かなものだったではありませんか!」

「ふむ、確かに援軍は僅かなものであったが、敵方が追加の援軍が来たと信じ込むように忍びの者どもを使っておる」


 そこであぐらをかいた家康さまは忠世さまを見上げて、

「忠世、私の話が信じられぬか?」

 と、自分よりも十歳も年上の家臣に向かって言い出したんだよね!


 忠世さまの顔を見ていて分かるけど、全然、信じられてはいないよね!

 そりゃあ武田軍の猛攻が凄かったし、あのままの勢いで門扉が全開の浜松城に飛び込んでこられたら、皆殺し確実の状態だもんね!


「殿が言いたいことは分かり申した」

 全然、納得いかない様子だけど、忠世さまは言い切った。

「ですが敗走に敗走を重ねて城へと逃げ戻って来た者どもの士気が下がっているのは間違いない事実!今から戦場に戻って味方を励まして参ります!」


 要するに、お城へと突撃してくる武田軍を自分が迎え撃つと言っている訳なんだけど、

「忠世よ、しばしの間は門内で待機せよ」

 家康さまは炯々と光る瞳を細めながら言い出したんだ。

「門内で敵の動きをつぶさに良く見よ、そうして敵に先ずる形で密かに軍を動かすのだ」

 武田軍が開き切った城門に向かって突っ込んでくるのを迎え撃つ。それしかないと考えていた忠世さまは、本当の本当に納得出来ない様子だったんだけど、しばらくの間は外には出て行かずに中で待機するようにということをなん度も言われて、ようやっと納得されたみたいです。


 長兄である忠世さまは八男彦左衛門さまに向かって、

「其方は殿をお守りしろ!」

 と言った後に、

「伊藤弥五郎!」

 忠世さまは、

「殿のことを頼む!」

 と言って颯爽と行ってしまったんだ。


 これは後から知ったことなんだけど、負け戦専門と自負する先生はどんな負け戦であっても五体満足で生き残る。だからこそ、負け戦で先生を見つけたら、

「金はやるから同道させてくれ!」

 と、言ってくるお偉いさんがとってもとっても多いんだ。


「そうだ!そうだ!何かがあれば弥五郎と逃げるから!何の心配もないわ!」

 そう嘯きながら家康さまはゴロリと寝転がったんだけど、僕の先生、負け戦専門で戦っている割には、お偉いさんたちからの信頼度がずば抜けて高いんだよね!

 


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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