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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第一章  僕と先生のはじめの物語
7/74

7)

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 血塗れになったイチが小鬼のような動きで男たちを容赦なく屠っていく姿を、死んだ男の死体の下から伺っていたおミツは、

「ああ、神様!仏様!どうか!どうかお助けください!」

 と言いながら念仏を唱えていたのだった。


 ミツの兄である徳一は、今は皆殺しとなってしまった集落で生まれたのだが、幼い時からカッとすると何をしでかすか分からない激しい気性を持った男だった。

 山の中の集落にも流れ者がやって来ることがあるのだが、

「この盗人が!盗人!盗人は死ね!」

 と、言いながら、徳一は容赦なく殴り続ける。それこそ相手が血塗れとなって気を失ったとしても暴力を振るうのをやめないようなところがあった。


 これが流民相手のことならまだ理解出来るのだが、相手が落武者であっても同じことで、

「この盗人が!盗人落武者が!反省をした上で死ね!」

 と、相手が気を失って血塗れとなっても暴力を振るうのをやめないのだ。


 普段は至っておとなしいというのに、プチリと何かが切れると手に負えなくなる徳一を家族の誰もが、

「鬼や悪霊が取り憑いているのかもしれない」

 と、思ったし、

「お祓いをした方が良いのではないのか?」

 とも考えた。


 幸いにも笠置の山は修行の場としても有名な場所でもあるため、集落を通りかかった修験者に相談をしたところ、

「この子には悪霊が憑いているわけではなく、大きな才があるように思えます」

 と、言い出して、両親との話し合いの末に徳一を連れて、修験者は山を降りて行ってしまったのだった。


 その後、連絡もなく何年も経つことになったのだが、

「おミツ、久しぶりだな?元気にしていたか?」

 徳一は熊のような大男に成長し、天女のような美しい嫁を連れて帰って来たのだ。


 修行に修行を重ねた徳一は理性というものを獲得して帰郷することになったのだが、その子供となるイチは徳一の子供の時と同じようで、タガが外れると何をしでかすか分からないようなところがある。


 イチを川場まで運んで来た兄の弟弟子となる男が、

「母親を攫われそうになったイチは手練の男を四人、見事に屠ったものと思われる」

 ということを言い出した時には、

「いや、無理でしょう?」

 とも思ったし、

「いや、でも、ありうるかも?」

 とも思ったのだ。


 そして今、土蜘蛛の男たちをどんどん殺していくイチの鬼神の如き恐ろしさを死体の下から眺めていたおミツは、

「手練の四人の男を殺したのはイチに間違いない」

 と、確信を持つことになったのだ。


「このガキが!死ねや!」

「やめろ!やめろ!やめろ!」

「助けて!助けて!助けてー!」


 おミツが男の死体の下から抜け出した時には、すでに辺りは死体の山となっていた。一人の男が脇差を片手に持つイチ目掛けて矢を射ったのだが、射られた矢をイチは片手で掴んでしまった。

「ああ・・兄さんと同じことをやっている」

 かつての徳一も射られた矢を片手で掴んだ上で、相手に射返していたものだった。

 一本、二本の矢程度で徳一を殺すことなど出来やしない。それと同じく、遠くから攻撃をするために弓矢を用意したところでイチを殺すことなど出来ないのかもしれない。


 イチは掴んだ矢をポイッと捨てると、そのまま逃げ惑う男たちを追いかけて行ってしまったのだが、

「ああ・・ああ・・神様仏様!どうか!どうかお助けください!」

 死体を押し除け、立ち上がったおミツは死体の横に転がる自分の息子を抱き上げると、幸太は果敢にも薄目を開けて、

「ごめん、母さん、イチがついてきちゃったみたいなんだ」

 と、言い出した。

「いいんだよ、それでいいんだよ」

 凶悪で有名な土蜘蛛の一味が子供一人に殲滅されようとしているのだ。町の人間が殲滅されるよりよっぽどマシなのではないだろうか?


 幸太の足の傷は深く、着物を裂いて傷口を縛り付けていると、

「母さん、まずいよ・・まずい・・」

 と、幸太は半泣きになりながら言い出した。


 今、おミツの心臓が口から飛び出すのではないかというほどに激しく鼓動を打っている。兄の徳一が何故、悪霊憑きだと騒がれたのかといえば、彼は敵味方関係なくどこまでも相手を殴りつけ、暴れ続けるようなところがあったからだ。その子供のイチだって、おそらく同じ状態になっているのに違いない。


「幸太、母さんイチを止めてくるよ」

 大きな傷の止血を終えたおミツは自分の手を握りしめ、自分自身を叱咤しながら足に力を入れて立ち上がった。


 子供一人で、なんでこんなことを・・と、死体の山を見て思うものの、それが出来てしまうのだということをおミツは経験から分かっていた。

「子供にこんなことが出来るわけがない」

 と、大概の大人は言い出すのだが、出来てしまうのだから仕方がない。土蜘蛛の奴らはその凶悪性で近隣住民を恐怖に陥れて来たのだが、そんな輩を殺せる力がイチにはある。


 それは何故かと問われたところでおミツにはその理由なんか分からない。だからこそみんながみんな、

「「「悪霊か悪鬼が取り憑いているに違いない!」」」

 と、言い出すようになってしまうのだ。


「ギャアッ!」

「ワアアアアッ!」


 おミツは神仏に祈り続けながら走っていたのだが、遂に真っ赤な血に染まったイチの後ろ姿を認めると、

「イチ!もう大丈夫だから!正気に戻っておくれ!」

 と、必死の声で訴えた。


 もちろん、おミツの言葉がブチギレたイチの元まで届いているわけがない。

 そこでおミツはその場に立ったまま、天にも届けと大声をあげたのだった。

「みんな!イチがブチギレたよ!家に戻って隠れておしまい!」

 ああ・・こんなことをこの川場でも同じように言って回らなければならないのか。

「イチがブチギレた、巻き込まれたくなければ家の奥深くに隠れておしまい!」


 過去には集落を飛び回りながら、

「徳一がブチギレたから!家から出るんじゃないよ!」

 と、走り回って伝えたおミツなのだ。

「ああ!イチ!いい加減に戻っておくれ!」

 と、言ったところで血塗れのイチが聞くわけもない。


 鬼神の如き強さを誇るイチは敵の刀の下を潜り抜けるようにして避けると、地面についた片手を軸にして円を描くようにして回転をすると、そのままの勢いで男の足を斬って捨ててしまったのだから。


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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