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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第三章  これぞ完璧なる負け戦
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第十二話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 僕らみたいな庶民が粥を煮る時に入れる物なんて、大根とか食べられる雑草とか、そんな程度のものだと思うんだけど、

「一緒に煮ているのが小豆って・・」

 お上品にも程がある選択だと思うんだよね。


 小豆に栄養があるのは間違いないけど、栄養があるお上品な食べ物だからこそ問答無用で持って行かれちゃう物だし、僕ら庶民の手元には残らない代物だよ。


「やっぱりあのおばあさんは、妖狐の類なのかもしれない」

 僕が馬の背を撫でながら、明らかにお偉いさんにしか見えない武将の方々に粥を配っているお婆さんの姿を眺めていると、

「ヒィイイイイイッ」

 僕の後ろでおじいさんがひきつけを起こしたような声をあげている。


「おじいさん!こんばんは!」

 雑木林の中にある一軒家には、明らかに怪し過ぎるおばあさんとおじいさんが二人で住んでいるんだけど、どうやらそのおじいさんの方が帰って来たらしい。


「なっ・・なっ・・なっ・・」

 立派な鎧姿の武将たちが自分の家の敷地内に招き入れられている姿を見て、おじいさんが一人でアワアワしていたんだけど、

「あら!あなた!おかえりなさい!」

 目ざとくおじいさんの姿を見つけたおばあさんが、明るい声を上げながらこちらの方に向かって手を振っている。


 僕みたいな庶民には、おばあさんが粥を与えているのが誰なのかなんて分かるわけがないんだけど、多分、僕を追いかけて来たであろう騎馬武者の方々はとっても偉い人に違いない。誰が誰なのかなんて分からないけれど、鎧兜を見れば一目で分かる。


 流石に泥まみれ、血まみれの状態で家(小屋)の中に入るのを憚った様子で、外に置かれた丸太に腰をかけているんだけど、そんなお偉いさんの方々にニコニコ笑いで粥を配っているお婆さんの気が知れないよ。


 随分と浮世離れした人だな〜と僕なんかは思っていたわけだけど、

「実は妻は・・金刺氏の末裔なんです・・」

 おじいさんはお偉いさんたちの前で土下座をしながら言い出したんだ。


「神職の血筋ゆえ、この世の摂理に染まりきることが出来ぬ女なのです!・・どうか・・どうかお許しくださいませ!」

「ええ〜!あなたったら!お腹を空かせているのだからお粥をさしあげただけなのに、何の問題があるっていうのかしら〜!」


 土下座をする夫を見下ろしながら、お盆片手におばあさんは驚きの声をあげているんだけど、確かに、この世の摂理に染まりきっていないのは間違いない。


「金刺氏といえば、諏訪の下社の神職の家であるな」

「諏訪頼満に攻め滅ぼされた一族ですな」

「逃げ出す時に小豆の種を持ち出しこの地で育て続けていたのですけれど、このような場で振る舞うことが出来て嬉しゅうございます」


 真っ青になっているおじいさんなんか気にもせずに、はんなりとおばあさんは答えているんだけど、なんかあれだな、決して村に染まりきれなかった僕の母さまと同じ匂いがする人だな。


 これは後から知ったんだけど、金刺氏ってとんでもなく昔から信濃の地で活躍し続けていた豪族なんだって。おばあさんが子供の時に一族が滅ぼされて、護衛だったおじいさんと一緒に三河の国まで逃げてきて二人は夫婦になったって言うんだけどさ。


「ああ〜、同じような匂いがすると思った〜」

 僕の母さまも、結構大きな家に生まれたんだけど、母方の血筋が良くなかったとか何とかで、年頃になってからとんでもない家に嫁がれそうになったんだって。結局、当時護衛についていた僕の父さまと逃げ出して笠置の山に居着いたんだけど、

「お偉いさんの家で育つと、どんなに年取っても変わらないんだな〜」

 典雅な雰囲気っていうの?普通の人にはない何かが、おばあさんから溢れ出ている感じだもんね。


「うまい小豆粥を馳走になった」

 すぐそこまで武田軍が迫っているというような状況で、のんびり粥を啜っている場合ではない武将の方々は、

「其方に褒美を与えたいのだが・・」

 そう言って自分の懐に手を入れて、ハッと何かに気が付いた様子で互いに目線を交わし出す。


 見た感じ、誰も彼もが手持ちのお金がないみたい。

 いつもだったらお付きの者がさっとお金を出しているんだろうけど、戦場で逸れたまま置いて来ちゃったものだから、誰も彼もがお金を持っていないみたい。


 ここで武士が取る行動で思い付くのが、

①褒美を与えられなかったという不都合を隠すために、おじいさんおばあさんを殺す。

②武田軍に自分たちの情報を売る可能性もあるため殺す。

③自分たちの痕跡を残すのは危険なので、おじいさんおばあさんを殺す。

殺す一択だと思うんだけど・・


「そこの小童、手持ちの金はあるか?」

 と、中央の丸太に座っていた武将さまが言い出したんだよね。

「あるにはありますけど〜」

「後で金は返してやるから、今、お前が持っている手持ちの金を全てこの夫婦に渡してやってくれないか」

 中央に座る武将さまは殺す一択の人ではなかったらしい。


「いやいや!そんな!お金なんてとんでもない!」

 今まで一人で土下座していたおじいさんが飛び上がって言い出したんだけど、

「駄目だよ、おじいさん」

 僕はおじいさんに飛び付きながら、耳元で囁いたんだ。


「殺す一択だったお偉いさんたちが生き残る選択肢を示してくれたんだよ?とりあえず僕が有り金を置いていくから、武将さまに感謝、感謝で送り出した方が良いって!」


 僕たちの命なんて沼で泳いでいるカエルと同じ程度のものだもん!簡単に殺しちゃっても問題ないというのに、せっかく生き残れる選択肢を残してくれたんだから、ここは何が何でも生き残ろう!


 僕が腹巻きに入れたお金と、荷物に入れて預けておいたお金を合わせておじいさんに渡していると、後ろの方で一頭の馬がばたりと音を立てて倒れちゃったんだ。


 敵の矢が随分刺さっているなあとは思っていたんだけど、浜松城までは持たなかったらしい・・そんなことを僕がぼんやりと考えていると、

「すまぬが坊主、お主が乗っていた馬なのだが家臣に貸してやってはくれぬだろうか?」 

 と、中央の丸太に座っている武将が言い出したんだよね!


 お金だけでなく、僕がせっかく手に入れた馬まで奪っていくなんて!酷いよ!酷い!酷過ぎるよ!と、思ったけど、

「どうぞ!どうぞ〜!お役に立てて光栄です〜!」

 僕は笑顔で返事をした。命あっての物種だもの、ここで逆らっても何も良いことなんかないもんね!


「それではお武家様たち!お気をつけて〜!」

 粥を流し込んだ騎馬武者、武将の方々が出発の準備を始めたため、僕はおじいさんとおばあさんと並んでお見送りをすることにした。


 戦に敗れた時に誰が狙われるって、目の前に居るようなお偉いさんたちがまずは狙われることになるんだもの。一緒に居たら大変なことになるのは目に見えているので僕は馬に乗って出発しようとしている方々に手を振って見送ることにしたんだけど、

「小童、お前は私の馬に乗るが良い」

 と、この中では一番位が低そうに見える若武者が僕に向かって言い出したんだよね!


「お前は敵から上手く逃れる術に長けているように見えるからな」

 若武者は僕に向かって、

「城までの道案内を頼みたい、出来るよな?」

 と、脅迫するように言い出したんだ!


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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