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「とにかくイチは今すぐ逃げるんだ」
「そんな!逃げるなんて出来ないよ!」
父さまが守り続けてきた川場の町は他の町と比べても豊かなまま残っているのは、こういった盗賊どもの襲撃を防ぎ続けて来たことにある。
今日は皆殺しにあった集落で供養が行われるということで、奴らは町が手薄になっているところを狙って襲撃をかけて来たのは間違いないんだけど、
「きゃああああああ!」
表の方でミチおばさんの悲鳴が響いたため、幸太が僕を置いて走り出していく。
「待ってよ!幸太!待って!」
僕は幸太を追いかけて走ったんだ。
土間に降りて表へ幸太を追って走って行ったわけなんだけど、外に出た途端に大男が僕を羽交い締めにするようにして持ち上げたので、僕の足が宙を泳いだんだ。
ミツおばさんは僕の父さまの妹だし、奴らはまず最初にこの家に向かって徒党を組んで集まることにしたのだろう。
家の前に集まったのは四十人近い人相の悪い男たちで、長槍や長太刀を引っ提げた男たちは整然と並んでいるような状態だった。その中心には中肉中背の骸骨みたいな顔をした男が立っており、
「よ〜!イチ!おめえの父ちゃんは元気か〜?」
と、ミツおばさんを後ろ手にして掴みながらニヤニヤ笑いで言い出した。
土蜘蛛は六十人近くいるはずだし、人々の悲鳴や何かを壊すような音が響いていることから、二十人くらいの男たちが町を荒らして回っているのかもしれない。
「何でも大怪我をしてここで養生しているっていうんだろう?わざわざ見舞いに来てやったんだが、父ちゃんの所まで案内してくれねえか?」
土蜘蛛の頭領となる骸骨みたいな男は顔中に刺青を入れているんだけど、奴はニタニタ笑いながら言い出した。
「それとも見舞いじゃなくて墓参りの方が良かったかあ?てめえの父ちゃん、なんでも針山みてえな状態で死んじまったんだろお?あっけねえよなあ、あまりにもあっけねえよお。そうは思わねえか?なあ?なあ?なあ?」
すると、後ろに居る奴らがゲラゲラ笑いながら言い出した。
「ええ、本当に意外なほどにあっけねえものでしたね」
「まあ、死んで当たり前の奴でしたしね?」
「俺は奴に殴られたところが未だに痛えんでさあ」
「恨みは深いし、気晴らしは必要ですよねえ」
家を飛び出した幸太が土蜘蛛の一人に捕まえられており、頭領の近くに居た男が腰から引き抜いた脇差を幸太の足に突き刺していく。
「ぎゃあああああっ」
「やめて!やめておくれよ!やめておくれったら!」
ミチおばさんが泣きながら暴れようとしているけど、がっちりと骸骨みたいな男に捕まえられて身動きが取れない。
「やめられねえよ、やめられるわけがねえんだよぉ」
土蜘蛛の頭領はおばさんの首筋をべろりと舐めながら言い出したんだ。
「お前の兄ちゃんに俺たちが今までどれだけやられて来たと思ってんだ?なあ?恨み骨髄にまで至るって言うだろ?まさにそれの状態なんだなあ」
幸太の足から真っ赤な血が滴り落ちる。
僕は家を出たすぐのところで大男に羽交い締めにされていたんだけど、骸骨男はニタニタ笑いながらおばさんの着物をひき剥いていく。
「熊の奴はちょっと挨拶をしに来ただけなのに、いつだってオレたちを無碍に扱うんだよな?オレたちが何をするって言うんだよ?ただ、ちょっとだけ遊びに来ているだけの話だろう?」
「遊びに来ている?冗談じゃない!お前たちはいつだって町を滅ぼして歩いているじゃないか!」
川向こうの集落が土蜘蛛によって四つも滅ぼされたのは有名な話だし、奴らは最近、強欲な郷士の一人に金を献上することで好き勝手やり過ぎているところがあるんだ。
僕の父さまが守護代様の護衛をしたことがあるということで、奴らも警戒しているところがあったんだけど、肝心の父さまが死んだのだもの。今までの鬱憤を晴らすためにいつかはやって来るとは思っていたんだ。
「ミツおばさんと幸太を放せ!こんなことをやって!僕の父さまが黙ってはいないからな!」
「「「だから!お前の父さまとやらは死んじまったんだって!」」」
ゲラゲラと男たちが大笑いを始めると、
「お前、ナマイキな発言おお過ぎる」
と言って。僕を羽交い締めにしていた男がギュッと力を込めていく。
「女どもを集めて今日はクマ公の家で存分に楽しむことにしよう。表の方の見張りだけはきちんとしておけ。クマ公のお友達とやらが帰って来たら厄介なことになるからな」
「お頭の言う通り見張りは置いておきはしますが、奴は守護代様のところから帰って来ることはないでしょう?」
「そらあそうです、今は代替わりをして我らの味方となる方が上に立っておりやすしね」
「無謀にも一人で乗り込んで行ったみたいですし、今頃死んでいるんじゃないですかね?」
「あああ〜、俺もそっちの方に加わりたかったすわ」
「クマ公の嫁が守護代のところで慰み者になっているんでしょう?」
「有名な美人でしたしね」
「俺も味わえるのならそっちを味わいてえものです」
「仕方ねえから俺たちはクマ公の妹で手を打つしかねえのよ」
「それでも、この集落には美人が多いですしね」
遠ざかる意識の中で、聞き捨てならない言葉がいくつも浮上していく。
首を絞められた僕は目の前が真っ暗になっていく中で、
「おい、おい、殺すなよ?そいつは母親に似て顔は可愛らしいから、高値で売れるだろうからさ。おい、そいつはもう殺してもいいぞ。見た目も悪い子供は置いておいても飯代が嵩むだけだからな」
という骸骨男の言葉と共に、幸太の絶叫が轟いた。
僕の中の何かがプツンと切れることになったんだよね。
本当に、プツンと切れたんだ。
幸太の絶叫は想像を絶する痛みを与えられたからに違いない。
土蜘蛛の奴らはただで殺すようなことはしない。
猫がネズミを弄びながら殺すように、じわじわと最大限の痛みを与えながら殺すようなことを行うんだ。
ガクッと僕の力が抜けたことで羽交い締めにしていた男は僕を離すことにしたんだけど、地面に壊れた人形のように落ちるはずだった僕の体は、大男が腰に差していた刀を引き抜きながら回転をする。
丁度、自分の下腹部を斬りつけられる形となった大男は、
「ぎゃああああああっ!」
悲鳴を上げながら後にひっくり返った。
失神した僕が死んでいやしないかと確認するために骸骨男は覗き込んでいたわけだけれど、大男の下腹部を斬りつけた刀の柄を宙で回転するようにして掴み直した僕は、骸骨男の首筋に、大男の長刀を、弧を描くように振り落とす。
子供の力で重さもある長刀を扱うのは至難の技のように思えるけれど、遠心力を使えば案外思うように操れるものなんだ。痩せこけた剥き出しの頸部に刀を押し付けた僕は、振り上げた右足で刀を踏みつけにする。真っ赤な血が驚くほど飛び散ったけれど知ったことではない。
「ハッ」
頭領の首を切断した長刀を引き上げ肩の上に持ち上げると、そのまま突進するように進んでミツおばさんを組み敷く男に振り下ろす。薪を割るような要領で振り下ろしたので、大男の長刀は頭の半分にまで減り込んだところで停止した。
この時には、骸骨頭領が腰に刺していた脇差を自分の腰に挟み込んでいたので、脇差を鞘から引き抜いて、鞘の方は地面へと投げ捨てた。
ここまでの時間、あんまりにも短いものだから周りの男たちも呆気に取られている状態だったんだけど、弾むように飛んで幸太を痛めつける男の首を斬り割ったところで、
「おい!おい!おい!これはどうなってるんだよ!」
と、叫んだ誰かの言葉で、周囲の男たちは一気に我に返ることになったんだ。
ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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