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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第三章  これぞ完璧なる負け戦
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第九話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ちょっと想像して欲しいんだけど。

 鶴翼の陣というのは、鳥の翼が左右にグアーッと開いて、敵を包み込むように攻撃をしていく形になるんだよ。

 右翼と左翼が同時に動くこともあるし、状況に応じてどちらかが先に動くことだってあるんだけど、真ん中はないよ、真ん中は。


 真ん中ってあれだよ、頭の部分、いや、胴体?どっちでも良いんだけど、真ん中は前進する敵を押し留める役目を担っているんだから、率先して動いちゃ駄目なんだって!


 だというのに、

「全軍!突撃―!」

 誰なの?中央を指揮しているのは誰なの?

 馬鹿なの?完全なる馬鹿が指揮官として配置されているの?


 左右の翼がグアーッと動いて敵を包囲していく形になるはずだったのに(それだって層が薄くなり過ぎて、信玄公側からしたら『プッ』って笑っちゃうレベルだよ)そこで胴体が突進して行っちゃったらどうなると思う?


「「「おい!おい!本気かよ!」」」

「「「どうする?どうする?」」」

「「「行くの?行かないの?え?行っちゃうんだよね?」」」


 僕が見ても分かるほど、左翼、右翼に動揺が走っているんだけど、

「「「「ウォーーーーッ!」」」」

 中央から突撃して粉砕状態になっちゃっているものだから、つられるようにして左右も突撃を開始したんだ。


 慌てた家康さまは馬で走り回って混乱の中で陣頭指揮を取り始めたんだけど、時すでに遅し。中央に配置された石川の部隊を助ける為に左右の翼がすでに動き出しちゃっているような状態だから、魚鱗の陣を組む二万二千の武田軍を崩せるわけがない。


 今までじっと魚鱗で構えていた武田軍が鉦を鳴らし、太鼓を打ち鳴らしながら孫子の旗を押し立てたんだよね。僕もこの時、旗が次々と立てられる姿を眺めたけど、武田軍がゆっくりと進み始めた恐ろしさったらないよ。


 この時、信玄公のご子息である武田勝頼さまが率いる騎馬軍団が動き出したんだ。この騎馬軍団の動きは凄まじいもので、捨て身の突進で追いまくる家康の旗本である本多忠勝、大須賀康高に対して二段構えで横槍を入れて、こちらの動きを崩しに崩す。馬が走りまわり、そこここで叫び声があがり、戦場は阿鼻叫喚の坩堝と化した。


 僕らだって戦ったよ、そりゃもう戦ったよ。

 これは歴史に残る負け戦になるのは間違いない。

 そもそも圧倒的に数で劣っているっていうのに、鶴翼の陣で中央から突撃って、え?何をやっているのと誰も彼もがツッコミを入れたくなるような事態だよ。


 僕と先生は足軽雑兵として参加をしていたので、地べたを這いずり回るようにして戦っていた訳だけど、他勢に無勢が過ぎて本当にヤバイ!本当にヤバイ!

「イチーッ!」

 かえり血を浴びて全身血塗れ状態の先生が、味方の骸から上下鎌十文字槍を奪い取りながら僕を呼んだ。手柄を求めて一騎駆けして来た敵方の武将がこちらの方へと向かって来る。

「先生!今です!」

「わかってる!」

 大振りな動作で先生は槍を投げたんだけど、その槍は放物線を描いて一騎駆けをしてきた若武者の胸に吸い込まれるようにして突き刺さる。


 負け戦が大好きな先生だけど、今まで生き残って来たのには理由がある。

 僕の先生、とにかく馬を相手にするのが得意中の得意で、馬の下に潜り込んで腹を切り割ることも出来るし、馬の足をスパッと切り落とすことも出来る。


 馬に乗っているのはお偉いさんなので、馬を潰して上に乗っている武将を捕まえて、首級を切り落とせば出世の第一歩となるのは間違いないんだけど、僕の先生って出世については全く興味がない人なんだ。


 そもそも参加しているのが負け戦だし、首級を取ったところで褒賞を与えてくれるはずの人が死んじゃっている場合も多いしね!


 大概の場合、先生が馬を殺すようなことはしない。

 戦場で活躍する馬ってお金になるんだもの、殺したらもったいないもんね!

「先生―!轡はとらえましたー!」

「イチ!良くやった!」

 距離を置いた場所から先生が槍を投げ、その間に距離を縮めた僕が馬の轡をとらえる。


 駆け寄って来た先生が馬の上から若武者の死体を引きずり下ろすと、先生は馬に飛び乗った。若武者が乗っていた馬は胸繋を付けたそれは良い馬で、漆塗りされた鐙に先生は足をかけると、仰け反るようにして横から突き込んで来る敵の槍を避けた。


 僕は先生が奪い取った馬と、敵の武将が乗ってきた馬に挟まれそうになったんだけど、脇差を引き抜いて鞍を固定する革紐を斬りつけたものだから、馬は驚くし、鞍が外れて馬上の年取った武将は体勢を崩すし、

 ビュッ

 馬から乗り出した先生が剣を一閃させたため、老いた武将の首が後方に血飛沫を上げながら倒れていく。


「イチ!」

 僕の腕を掴んだ先生は放り投げるようにして馬の尻に僕を乗せると、手綱を握り締め、転がる死骸を踏み付けにしながら走りだす。


 祝田の坂を攻め下って武田軍を殲滅するつもりが、逆に祝田の坂を自らが走り下って散り散りに逃げる事となった徳川軍は総崩れの状態となり、もはや味方が何処にいるかが良く分からない状況になっていた。


 (くら)(ぼね)に弓矢が括り付けられていたので、これを使って追いかけて来る敵の騎馬部隊めがけて矢を射っていく。こういった場合を想定して、大内氏の残党狩りの時には弓矢の特訓をしているのだもの。


 僕は馬上の揺れなんて何のその、後方から追いかけて来る馬めがけて矢を放つ。練習の成果もあって僕の矢は結構当たる。追いかけて来る敵の姿も後方へと遠のいて行く中で、

「イチーーーーーーッ!」

 絶叫する子供の声が轟くように響き渡ったんだ。


僕らが通り過ぎようとしていた死体の山の下から飛び出してきた半平太が、

「イチーッ!待ってよーー!」

と、泣きながら追いかけて来る。


 僕らを走って追いかけて来た半平太は転び、起き上がっては走って追いかけて来る。そんな半平太の背後から迫って来た騎馬武者が、半平太を斬り殺すために馬上で刀を振り上げている。


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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