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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第一章  僕と先生のはじめの物語
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5)

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 僕らの住んでいる地域は守護代さまが統治を任されているのだけれど、周辺の地域一帯が現在、混乱状態に陥っている。


 昇り龍の如き存在感で京都に将軍足利義満さまを連れて来た織田信長さまだけど、

「お主の傀儡などになって堪るか〜!」

 と、将軍さまは激怒。将軍さまは反織田派の勢力をまとめ上げようと腐心しているんだけど、そちらはなかなかうまくいっていない様子です。


 結局、今回の戦でも将軍様についた松永さまは大敗を喫することになりましたしね。やっぱり織田さまについた方が良いのかな〜と考える人が増えて来ているような状況です。織田さま有利で情勢は動いているようにも見えるのですが、そんな信長さまの背後を護る徳川さまのその後ろには、信玄公の姿が垣間見える。


 百戦錬磨といわれる武田さまが徳川さまを捻り上げた後に上洛を目指すこととなれば、織田さまに信玄公を迎え撃つべき力が備わっているのかどうなんでしょうね?


 織田さまが迎え撃つのは信玄公だけにとどまらず、南からは毛利輝元さまや長曾我部氏もやってくる。確かに近江を統治する織田信長は天子様のおわす地へと他の誰よりも早く到達する事が出来たわけですが、ここで北と南から挟撃を受けることとなった暁には、天下を収めることなど即座に夢散することとなるでしょう。


 そういうことを僕に教えてくれた先生は、負け戦専門で戦っている人です。

 勝ち戦よりも負け戦の方が腕を磨くことになるといって、あらゆるところから情報を入手し、情勢を分析し、どっちが負けるか〜・・で、負ける方に足軽として参戦するのが先生のやり方なのですが、本当に、本当に、どうかしていると思います。


 そんな先生が僕の母さまを探して出かけている間も、川場の町は混乱状態に陥っておりました。川場には自分の父と母を集落に残して働きに来ている人も多いですし、集落の人間と川場の人間同士は何処かしらで血縁が続いていたりするものです。


 僕の住んでいた集落、皆殺し状態で全滅ですからね。

「これは守護代様も分かっておられることなのか?」

「たかだか山の中にある一つの集落が潰れただけで、守護代様が気にかけるわけもない」

「だがな、どうにも怪しいじゃないか」

「本当に、なんでこんなことになったんだ?」

 一つの集落を落とすために大量の矢を惜しげもなく使用されたのは間違いない事実であり、山の上に登って行った人々は心底ゾッとすることになったんだ。


 人って棍棒一つあれば案外簡単に殺せるし、集落程度の規模だったら松明一つあれば燃やすのも簡単だというのに、わざわざ矢を大量に投じているのだもの。なんで?どうして?と、みんなが大きな疑問を持ったんだ。


 凄腕の父さまを殺すために『弁慶方式』を利用したって?

 だったら父様だけを狙えば良いのに、父さま以外にも何十本という矢で集落の人間が射殺されているような状況だもの。

「頭のおかしな人間がやったのか?」

 確かにそうなのかもしれない、そうじゃなきゃ説明がつかない恐ろしさが滅ぼされた集落には残されていたわけなんだ。


 残された遺体は家族、親族が荼毘に伏したそうなんだけど、豪傑として名高い父さまの死亡は川場の人々に衝撃を与えたのは間違いない。

 だって、そりゃそうだよ。


「オラ!オラ!ここまでオレたちが来たとなりゃあ、お前らがここでもう終わりだっていうのは十分に理解してんだろうな!なあ!なあ!なあ!」


 僕が先生に抱えられて川場に降りて来て七日目のことだった。

 今日は集落で律宗のお坊様がお経を唱えてくれるということで、川場の人間の多くが供養のために集落に移動をしているという中で、

「女を探せ〜!熊野郎の息子は何処だ〜!」

 柄の悪い男たちが徒党を組んで集まり、川場の町までやって来たんだ。


 僕の父、徳一という名前なんだけど、背が五尺八寸(約175センチ)と見上げるように高く、顔中が黒々とした髭に覆われていることから『熊一』と呼ばれていたんだ。大木だってあっという間に切り落としてしまうほどの膂力の持ち主だし、有名な剣の師匠から剣術を学んでいるし、過去には所司代様の護衛も務めたこともあるほどの有名人だったんだよね。


 方々中で戦が巻き起こっているような状態だから、食客として囲い込みたいと望む人も多かったんだけど、頑なに山を降りようとしなかったのは僕や母さまを残していくことを良しとはしなかったから。


 川場の用心棒のような役目も担っていた僕の父さまは、そりゃ悪い奴らからしたら天敵のようなものだもの。豪傑過ぎる父さまが目を光らせているから近寄ることが出来なかった川場の町に、供養に出かけて人の数も減っていると耳にすれば、

「「「今から川場の方へ行ってやろうぜ!」」」

 ということにもなるだろう。

「イチ、大丈夫だよ。かろうじて生き残った兄さんを先生が川場まで運んで来たという噂を周辺に流しておいたから。軽傷だからすぐにも傷は治るだろうと周りには言いふらしておいたからね。きっと大丈夫、きっと大丈夫だよ」

 と、ミツおばさんが言っていたけど、かろうじて生き残ったのは僕だし、あんなに目立つ父さまが本当に怪我の養生をしているのかどうかなんてことは、人をやって調べればすぐに分かることだもの。


「ああ・・先生・・何処に行っちゃったの?先生、先生、早く母さまを助けて川場まで帰ってき来て!お願い!お願い!お願い!」

 僕は毎晩、寝る前に神様仏さまにお願いし続けたんだけど、僕の祈りが届くことはなかったらしい。


 家の外では男たちが騒ぐ声と何かを打ち壊すような音が轟くように響き渡っているし、

「イチ!イチ!」

 僕は傷の養生をするために奥の部屋に寝かされていたんだけど、ミチおばさんの息子である幸太がやって来て言い出したんだ。

「土蜘蛛の奴らがやって来た!今すぐイチは逃げるんだ!」

「土蜘蛛の奴らだって?」


 近江から山城にかけて毎日、毎日、何処かしらで戦が起こっているような時代だよ。

 自分こそが主権を取るために、主人を守るために、いざ出兵だ〜!なんてことになるのは分かるんだけど、戦には必ず兵糧というものが必要になってくる。


 大軍を用意して移動させるのにまずは第一に用意する手筈を整えなければならないのが、弓矢、槍、刀の数々よりも、まずは兵糧だと言われるような世の中だよ?なんで武器よりも食料を用意しなければならないのかというと、方々中で戦が起こっている関係で、在庫が品薄状態になっているから。


 こうなってくると農民は自分たちの食料すらも強奪するようにして奪われていくことになるため、老いた父母が死んでいるような家なんかは、土地を捨てて逃げていく。


 そこら中で毎日戦が行われている関係で、負けて逃げ出した落武者が徒党を組んで野盗の集団になるのは当たり前のこと。野党の中には流民を吸収して大きくなっていくのもいるし、残虐な奴らだけが残って少数精鋭となる場合もあるんだけど、土蜘蛛と言われる奴らは、この辺りでは一番残虐な集まりだと言われる最悪な集団だと言われているんだ。


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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