第三十一話
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僕の父さまが時々、護衛をしていた先代の守護代さまなんだけど、お茶にドハマりしていたんだよね。何でも堺の商人である武野紹鴎という人に教えを乞うたとかで、唐物の陶器を買い漁るのではなく、日常の身近にある器から茶道具を選んでいたんだよね。
守護代さま曰く、唐物一色で揃えている奴は、
「侘び寂びも分からぬダサい奴!」
ということになるらしい。問田大方さまが用意した茶室って本当に、権威主義の塊みたいなものだったんだよね〜。
これぞ貴族趣味と言えるような六畳の空間に、高そうな器がズラーッと並べられていて、
「茶室は三畳や二畳半程度で丁度良い。四畳半を超える大きさを茶室と呼ぶ者がいれば、そいつの頭の中は大昔のまま止まっていると考えた方が良い」
とまで守護代さまは言っていたんだけど、
「お前のような小童は茶を呑むのも初めてであろう?」
上座にドカンと座った問田大方さまは、
「光栄に思えよ」
と言いながらお付きの者にお茶をたてさせている。
僕が着替えを済ませて移動をした先には、角兵衛さんは居なかった。殺されていなければ良いけれど・・と、思いながらも、僕自身も殺されるようなことにはならないと良いんだけど・・と考える。
そうして僕の目の前にお茶が置かれたんだけど、驚くべきことに、茶器の中で光を放っている液体は紫色だったんだよね。紫色、何故?何故、紫色なんだ?山暮らしの小童にはお茶の色が何色かなんて分からないとでも思ったのかな?
酔狂な守護代さまが僕にお茶を飲ませてくれたこともあった為、僕はお茶ってどういうものなのかを知っている。飲み方の作法もその時に守護代さまから教わっている。
「さあ、飲め」
問田大方さまはぎらぎら光るような目で僕を見る。
「せっかくの茶だ、飲めよ小童」
「あの〜」
僕は思わず問いかけちゃったよね?
「こちらは何処の流派のお茶なのですか?」
みんなに笑顔を向けながら問いかけちゃったよね?
「紫色のお茶なんて初めて見ました〜!一体どこの流派が紫色のお茶を推奨しているのか興味があるんですけど〜」
「小早川流だよ」
問田大方様は、だらしなく脇息にもたれながら、
「我が家の流派だ、何か問題でもあるのか?」
と、言い出したんだ。
ああ〜、やっぱりこれって、毒ですよね〜?
やっぱりあれですか、妾憎けりゃ子供まで憎いって奴で、こんな僕を養子にするなんて話まで出て来ちゃっているし、だったらここで殺しちゃおうって考えているんですよね?
僕、さっきまで池泉で死闘を繰り広げていましたし、今、僕がここで毒を飲んで死んだとしても、田坂家が毒で傷つけたからその毒が回って死んだみたいだって言えば、全部田坂家の所為に出来るもんねえ?
主流から外れてしまった田坂家だけど、僕の暗殺に成功をすれば元の役職に復帰させるとか、若様を養子にして小早川の跡取りにするとか、そんなことを問田大方さまは囁いたんだろうなあ。
僕の背後に気付かれることなくあそこまで近付けたってことは、田坂の人間は暗部とか、草の者とか、隠密とか、そういった役割を与えられていたんじゃないのかな?
小早川の家臣団と毛利の家臣団の間に軋轢が走るようになったのも、昨年、毛利の英雄と言われる元就さまが亡くなってからだっていうし、元就さまが亡くなった後に驚くほど変わったことって、隆景さまが側妾として僕の母さまを側近くに置くようになったことでしょう?
僕が安芸の国に来てからというもの、お偉いさんの息子たちがならず者を連れて漁村に襲撃をかけてきたり、既存の家臣団と角兵衛さんの門徒との試合が設けられたり、挙句の果てには角兵衛さんの家が焼き討ちされちゃったけど、もしかしてこれって夫婦喧嘩の延長戦みたいなものだったのかな?
僕が安芸まで来たのをかなり早い段階から隆景さまはご存知のようだったし、だったら問田大方さまだって知っているかもしれないし?
僕が先生と一緒に残党狩りをしていた時に、時々、僕たちの邪魔をしてくる奴らが居たんだよね?あれって、やたらと強い先生を排除しようとしてのことだと思っていたんだけど、もしかして、先生じゃなくて僕を排除しようとしていたのかな?
僕は紫色のお茶を見つめながら考える。
「あの、これを僕が呑んだとして、僕の母さまが見逃されるわけではなさそうですよね?」
「何故、そう思う?」
「だって、御正室さまは僕の母さまに嫉妬をしているのでしょう?」
そこで問田大方さまは大笑いをしだしたんだよね。
「あははっはははっ!妾が嫉妬?妾が嫉妬だって?」
問田大方さまは目尻の涙を拭いながら言い出した。
「たかだか家臣の一人が女に夢中になったとして、何故ゆえ妾が嫉妬などせねばならぬのだ?」
「家臣?それって隆景さまのことを言っています?」
「さよう」
あんまりにも大笑いをしたもんだから、よれた化粧をお付きの侍女がさっと直しにかかっている。
「妾の夫は我が家臣よ。でなければ肩衣、袴姿で妾に会いになど来ぬであろう?」
火照った顔を冷ますように、侍女に扇子で風を送らせながら言い出した。
「その家臣がな、お前をこの小早川家の跡取りにしようと企んでいるのだ。これはもう造反行為に他ならぬ、断じて許せぬことなのだ」
家臣、家臣ねえ〜・・と思っちゃったんだよねえ。
僕も隆景さまとはそんなに長い付き合いじゃないんだけど、あの人が自分の妻に対して主人に仕えるような心構えでいるからこそ、わざわざ会う時に正装をしているわけじゃないと思うんだよなあ。
この茶室からも分かる通り、問田大方さまはものすごい権威主義だろうし、自分の正当なる血筋というものにものすごい誇りを持っているのは間違いない。
まだ幼い時に父親を戦で亡くし、お兄様が排除された後は、大きな家門だけが問田大方さまには残された。そんな問田大方さまの正当なる血筋を尊重しながらも、大きな一線を引き続けて来たのが隆景さまなんじゃないのかなあ。
家を乗っ取る形となったからこそ、お前の血筋は何処までも尊重しよう。そういった意味を込めての正装だろうけど、その血筋に媚びへつらうつもりは欠片ほどもないと思うんだけどね。
ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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