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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第二章  西に行こう!
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第三十話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 角兵衛さんの家が燃やされてから二十日以上が経過したと思うんだけど、僕はその間、母さまが住む瀟洒な庵に滞在し続けていたんだよね。

 今現在、隆景さまは新しいお城を建てているんだけど、お城が出来上がったら僕の母さまと住むつもりみたいなんだ。


 隆景さまは御正室がきちんと居るんだけど、

「内室は先祖代々守り続けている城に住めればそれで良いだろうからな」

 ということで、高山城や新高山城と言われる二つの城を問田大方さまに明け渡して、自分は三原城という新しいお城に住むつもり満々みたいなんだよね。


 三原城は海に突き出る形で作られた出城であり、水軍を束ねる上ではちょうど良いように設計しているんだってさ。建設途中のお城は庵からも近いことから、山の上にあるお城にも帰らずに母さまが居る庵で寝起きをすることが多いんだ。


 そんな訳で、今日は山の向かい側にある新高山城と呼ばれるお城に僕は来ていたんだけど、ずぶ濡れ状態の角兵衛さんは僕を小脇に抱えながら、

「イチ、確かに俺も悪かったが、あの場で御城主さまに向かってクソ野郎なんて言い出したら俺まで殺されることになるぞ!」

 と、言い出した。


「だって角兵衛さん!クソ野郎にはクソ野郎って言ってやらなくちゃ!」

「親子のように仲良くやっていると話に聞いていたんだが、あれは嘘だったのか?」

「親子のように仲良くやっているだって〜!」

 僕の頭の中の何かがブチンと音を立てて切れちゃったよ?

「何が親子?何処が親子?いつでも僕の母さまにデレデレしやがって!立派な大人のやることじゃないよ!」

「シーッ!イチ!シーッ!お前はちょっと黙れ!」

 茂みに隠れたところでようやっと僕を下に降ろした角兵衛さんは、冷や汗をかきながら言い出した。

「お前!ここが何処だか分かった上で言っているんだよな?」

「えーっと・・お城の中?」

「そうだよ!俺はまだ死にたくないんだっての!」

 角兵衛さんが言うには、隆景さまのことを悪く言って、たとえ本人が気にしなかったとしても周りの人間がどう思うか分からないっていうんだよね?


「ただでさえお前は微妙な立場なんだから!言動にはくれぐれも注意しろ!」

「でもさあ、こういった場合なら先生だったらもっと言えって言うと思うんだけど?」

「弥五郎は頭がおかしいんだ!」


 確かに先生の頭がおかしいのは間違いない。

 自分の状況がどんどんと悪くなって危機が迫るほど、喜び浮かれるような変態だもの。 


「隆景様はイチ、お前のことを自分の養子にしようと考えている」

「血筋も正しくない僕を養子にしようとしているから!さっきみたいに襲われるようなことになったんじゃないか!」


 問田大方さまは小早川の血を引く正当なる人物に小早川家を継がせたいと考えているし、さっき僕に襲いかかってきた男の人は血筋も正しい人なのでしょうよ。

「角兵衛さんだって見ていたんでしょう?なんで助けてくれなかったの?はっきり言って僕、池の中で死にかけていたよねえ?」

「いや、イチ、お前は俺の教えを守って立派に敵を倒していたではないか?」

「あのね!こういうことがあるなら先に言ってくれなくちゃ困るよ!お城に居るんだから隆景さまの家臣の方だと思うし、僕だってそれなりに忖度とかしちゃうんだよ!」


 僕は首を絞められた跡を角兵衛さんの方に見せながら言ってやったよ。

「殺しちゃまずいかなって忖度したから殺されかけたし!見てよ!見て!首を絞められた跡が残っているでしょう!角兵衛さんは僕が死んじゃっても良かったの?ああ!そうか!角兵衛さんは僕が死んだ方が良かったんだ!」


 実際問題、僕が死んだ方が良いと思う人間は山ほど居るに違いない。御城主さまが溺愛する女人の連れ子で、その父親は素性もしれない山の中の集落に住む木こりだったって言うんだからさ!


「毛利の人たちが望むのは隆景さまの子供だもん!幸いにも隆景さまは僕の母さまを溺愛しているし、子供をすでに一人産んでいるんだから、そのうちもう一人くらい出来るだろうって思っているんでしょうよ!だったら僕なんか邪魔だもんね!みんなが僕のことをいらないって思っちゃう理由は僕にだって分かるよ!」


 顔を真っ赤にしたり、真っ青にさせたりしていた角兵衛さんが、片方だけ残った手をブンブン振りながら何かを言おうとしたんだけど、

「小童よ、其方は自分がここに居てはならぬ者であるということを十分に理解しておるのだな」

 と言う女性の声が後からかかって来たんだ。


 滅茶苦茶嫌な予感がしたんだけど、僕と角兵衛さんはゆっくりと後ろを振り返ったんだ。そしたら居たよ、居た、居た、滝のように滑らかな漆黒の髪を後ろに束ねた典雅な顔立ちの女性がさ、お付きの者をぞろぞろと揃えて立っていたんだけど、

「殿の元へ参る予定だったのだが、その前に一杯、茶を飲んで喉でも潤そう。そこなずぶ濡れの小童にも慈悲をやろう」

 なんてことを言い出したんだ。


 どうやら先ほどの騒動で問田大方さまは隆景さまに呼び出されることになったみたいなんだけど、その途中で僕を発見。とりあえず夫の元に向かうのは中断をして、僕とお茶を飲むつもりになったみたい。


「えーっと・・えーっと・・」

 ずぶ濡れの哀れな小童は、とりあえず池の水で濡れて生臭いという理由で湯殿まで連行されることになったんだよね!


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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