第二十二話
ようやっと復帰しました! 間が空いてしまいましたが懲りずにお付き合い頂ければ幸いです!!
隆景さまが僕を連れて行ったのは海辺の近くにある瀟洒な造りの庵だったのだけれど、馬の蹄の音を聞きつけたのか、飛び出して来た母さまが僕を見つけるなり、
「イチ! イチ! 」
と、泣きながら僕の方に手を伸ばして来たんだ。
僕は馬の背から母様の胸の中に飛び込むようにして飛び降りようとしたんだけど、
「危ない、おふうが潰れでもしたらどうする?」
と言って、上からギューッと肩を押さえつけられることになったんだ。
「「酷い! 感動の親子の再会なのに!」」
僕と母さまがほぼ同時に文句を言ったので、大きなため息を吐き出した隆景さまは先に馬から降りると、その後に僕を下ろしてくれたんだ。この人、随分と意地悪な人みたいだから、ここまで連れて来たっていうのに僕を馬の背の上に放置したまま母さまと一緒に戻って行くのかと思ったよ。
「イチ! ようやく会えた! 私の大事なイチ!」
馬から降ろされた僕を母さまはすぐさま抱き締めてきたんだけど、僕を抱き締める母さまを隆景様から抱き締めている。一番中央にいるのが僕で、その外側が母さま、その母さまの外側を包み込むように隆景さまが抱き締めているのだけれど、なんでだよ?
「くっ・・苦しい!」
思わず僕が声を上げると、母様が涙を拭いながら、
「ごめんね、会えたのが嬉しすぎたから、ごめんね」
と、言い出したんだ。
月光を浴びる僕の母さまは天女の化身と言われるほど美しい人で、その漆黒の瞳からこぼれ落ちる涙の一粒さえ、真珠のように輝いて見えた。
「母さま・・母さまが悪いんじゃないんだよ?」
悪いのは僕をここまで連れて来た男、子供の僕を嫉妬心丸出しとなって見つめている御城主様にあると思うんだよ?
「明らかに悪いのは・・」
「おふう、イチも夜中に移動をしてきて疲れているだろう」
隆景さまは僕の母さまの背中を優しく撫でながら言い出した。
「子供はとっくに寝ている時間だろう? 今は名残惜しくても早く床に入れて、イチが目を覚ましてからゆっくりと話をすれば良いだろう?」
大人の時間を子供に邪魔をされたくない男の常套手段、早く寝る子は良く育つのだから早く寝せろと言い出すんだよね!
「母さま! 僕、母さまと一緒に寝たい!」
僕が母さまに飛びつきながら言うと、
「それじゃあ、三人で寝るとするか」
と、隆景さまが言い出したんだ。
隆景さま、貴方には遠慮とか、配慮とか、そういう発想がないのだろうか?
笠置の山から母さまを誘拐されてからというもの、負け戦大好きな先生に振り回されながら、苦労に苦労を重ねて安芸まで僕はやって来たんだよ?
安芸に到着して、母さまが隆景さまの側妾候補として城に上がっていると知ってから、名を上げてお城に呼ばれるようにするために、大内氏の残党狩りを僕がしていたことだって知っていただろうに、今の今まで僕を母さまから遠ざけ続けていたのは隆景さまでしょうに。
そもそも子供は早く寝るべきだと言いながらだよ?
子供の僕が早寝を出来なかったのは、お城でお抱えの剣術指南役である吉見さまを隆景さまが放置していたからだよね?
吉見さまが角兵衛さんの家に放火なんて暴挙に出るから、僕はぐっすり眠っていられなかったんだよね?
「まあ!三人並んで川の字となって寝られるのですね!」
天女と言わんばかりの美しさを兼ね備える母さまが身に纏っているのは薄桃色に染めた絹製の絽に松皮菱をあしらったものであり、山の中で生活をしていた僕の母さまが本物の天女に変化してしまったような、不思議な輝きを放っている。
元々佇まいからして集落の人間とは明らかに違う母さまだから、何処かの偉い人の落としだねなのかもしれないと想像をしてはいたけれど、僕の母さまはとっても偉い御方の血を引いているだろう。
そんな母さまがはしゃぎながら、
「もちろん!イチが真ん中よね!」
と、言い出したので、
「もちろんおふうが真ん中だろう!」
「母さまが真ん中に決まっているだろう!」
と、僕と隆景さまはほぼ同時に同じようなことを言い出した。
母さまはちっとも分かっていないけれど、僕の父さまは、無頼者なら誰でも彼でも倒して回った笠置の山の徳一で、無遠慮に僕の帯を掴んで馬で攫った御城主さまが僕の父さまでは決してない。
側妾候補として安芸まで無理やり連れて来られた母さまは多くの苦労を経験しただろうし、紆余曲折あって、隆景さまの寵愛を得ることになったというのは子供ながらに想像も出来るけれど、僕の中の母さまは山林の中で無理やり暴漢どもに連れ去れることになった母さまが最後だったので、心の整理が出来るわけもないんだよ。
母さまが幸せそうなのは大変ありがたいことだけれど、その方、由緒正しき血筋を引くご正室さまがいらっしゃる方だし、かの毛利家の三男なのでしょう?
その辺の足軽身分の人と結婚ということだったら、まだ、何とか、無理やりにでも納得出来るとは思うんだけど、いきなり城主さま!前途多難にも程があるでしょうに!
「母さま・・僕は・・」
父さまは百本に近い矢に射られて殺されてしまったんだ。最後まで僕らを守ろうとした父さまは死んでしまったんだよ。
骸が腐る前にと先生が山桜の木の下に父さまの遺体を葬ってしまったのだけれど、その死に様は壮絶なものだったって、生き残った集落の人から聞いたよ。
母さまが幸せなのは嬉しい、だけど、僕は、寂しくて仕方がないよ。
「隆景さま」
母さまは僕の肩を優しく撫でながら言い出したんだ。
「今日はイチと二人で寝ます、この子の気持ちに寄り添ってあげたいのです」
僕も泣きそうだったんだけど僕の母様も半分泣いているような状態で、夜の帳を下ろしたような漆黒の瞳が潤み、月光を浴びてキラキラと輝いていたんだ。
そんな母さまを見下ろした隆景さまは、
「今日だけだ」
と、非常に大人気ないことを言い出したんだ。
「子供におふうを貸すのは今日だけだ」
「まあ! 隆景さまったら!」
母さまは隆景さまの発言を冗談だと捉えているみたいだけれど、決して冗談ではないと僕は思うんだけどなあ。
活動報告にも書いているのですが、とにかく酷い目にあいました。
ようやっと活動再開となりましたが、懲りずに最後までお付き合い頂けたら嬉しいです!
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