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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第二章  西に行こう!
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第二十話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 着ている物からして高級!の吉見兼房さまという方なんだけど、それなりに歴史がある家の三男に生まれ、物心ついた時から剣術の腕が冴え渡り、みんなの注目を浴びることになった為、成人してからは武者修行の旅に出ることになったんだって。


 吉見さまはその旅の途中で運命的な出会いを果たし、かの塚原卜伝さまが遠征に出るとなればお付きの者として参加したそうです。お付きの者といっても、卜伝さまから師事を受けているお弟子さんが吉見さまのお師匠さまだったので、卜伝様の弟子の弟子、つまりは孫弟子ということになるみたい。先生曰く、実家は金持ちだから資金源として利用されていたんじゃないのかなっていうわけさ。


 良くあることらしいんだけど、

「「「お前の剣術の筋は良い!」」」

「「「お前には才能がある!」」」

 と、持て囃しながら(金蔓として)育てらたんじゃないのかなあって先生は言うんだよね。


 多くの弟子を育てていく中で、場所と金と権力が必要になるのは当たり前のことで、もちろん頂点に君臨する先生をお支えするために一番必要となるのが『お金』なんだって。世知辛い世の中だよね!


 知らぬ間に僕の後ろに回って剣を突きつけてきた吉見さまだけど、卑怯も卑怯、武士の風上にも置けないとは思うけど、こういう狡賢いところが僕の先生は大好きだったりするんだよ。ここから更にどんな狡賢いことをするのだろうかと、先生のワクワク顔が炎に照らされて良く見える。


「子供がどうなっても良いのか!剣を捨てろー!」


 吉見さまは大声で怒鳴ったんだけど、先生も角兵衛さんも、キョトンとした様子で剣を手放すようなことをしないんだよ!

「子供を殺しても良いのかー!」

 そんなことを言われて二人は肩をすくめているんだけど、刀から手を離さない。酷くない?本当の本当に酷くない?


 道場がぼおぼお燃えているし、母屋の方もぼおぼお燃え出しているし、燃える家の前で僕は剣を突きつけられているわけだけど、明らかに動揺を隠せない様子の吉見さまの門徒衆が、困惑を隠しきれない様子で僕の方を見ている。


 今日、試合に出る予定だった先鋒、次鋒、副将、大将は、あらかた先生と角兵衛さんにやられて失神しているみたいだし、残っているのはへっぴり腰状態の新米門徒の方々みたい。


 お偉いさんの家の師弟がたくさん通う吉見さまの道場だけど、かの!塚原卜伝に直接師事を受けた方が先生となって教えてくださる!なんてことを表明しているらしいけど、

「新當流って言ってもピンからキリまであるから」

 と、角兵衛さんや先生は言うんだよね。


 間違いなく実戦となったら即死んじゃいそうな門徒ばかりが残っているんだけど、弱いだけに、彼らには良心というものが残っているらしい。だって、僕みたいな子供相手に卑怯な手を使って捕まえるっていうのはどうなの?って顔をしている人も多いもの。


 吉見さまとしては、僕が人質に取られたんだから、角兵衛さんや僕の先生は刀を手放すだろうし、武器を手放したところで門徒に拘束をさせて、あとは煮るなり、焼くなり殺すなりしても良いだろうって考えていたんでしょう。


 小早川本家の後ろ盾がある吉見さまとしては、下賎な者ども(先生と角兵衛さんと僕)が死んだとしても、

「そういう輩だったから仕方がなくない?」

 と、言い切って終わりにしちゃうつもりなんだろう。


「イチ〜」


 先生がそれは嬉しそうな顔で僕の方を見た。

 それは何故かというのなら、馬の蹄の音が無数に、こちらの方に向かって来るのが分かったからだね。


 これだけボオボオ燃えているから、隣近所の人たちが慌てて飛び出して来てはいるんだけど、角兵衛さんの家の敷地内に集まる胡乱な輩(完全なる武装をしている者もいる異常事態)を前にして、身動きが取れない状態になっている。


 遠巻きの人々も馬の蹄の音には気が付いている様子で、ザワザワ騒ぎ出しているんだけど、今、この状況で騎馬兵がやって来るって、吉見さまのお仲間の方々になるんじゃないかなあ。


 角兵衛さんを追い落とす為には、どんな罪でも平気ででっち上げることは出来ちゃうもん。実は敵(残党として暴れまくっている大内氏とか)と内通していたとか、隆景さまのお命を狙っていたとか、いくらでも罪なんか作れちゃうもんね。


 先生と角兵衛さんは、胴巻を締め直したり、足の拵えを確認したりしていて、やる気だよ、やる気満々で出迎えるつもりだよ。先生なんかニコニコしながら剣を握りしめた手の上から帯紐を巻き始めちゃっているもん。


「お前ら!何をやっている!こいつらを殺してしまえー!」


 僕を掴んだまま吉見さまは大声を上げたんだけど、吉見さまの意識は先生と角兵衛さんに向いている。掴まれたまま喉に剣先を突き付けられていた僕は、吉見さまの腹に頭を押し付けるようにして顎を上げ、滑り落ちるように尻を地面に着地させる。


 意識を僕から離した吉見さまは隙を突かれる形で僕から手を離すことになったんだけど、僕は地面に手を付き、吉見さまの急所(股間)に向かって、まるで馬みたいに後ろ足で蹴り上げた。流石は師範だけあって、片足を引いて僕の蹴りを避けた吉見さまだけど、その吉見さまの膝に向かって、手に掴んだ木の棒の先端を突き刺した。


 豪華な袴に木の棒では穴を開けることなんか出来ないんだけど、衝撃を与えることは可能だ。三歩、地を滑るようにして吉見さまから離れた僕は、腰帯に差した剣の柄に手をかけたんだけど、その時、馬が本当に僕の近くまで迫って来ていたんだよね!


 馬に乗っているんだから子供の僕なんかじゃなく、まずは先生や角兵衛さんの方に向かって行くものと思うじゃない?だから僕はこの混乱のどさくさに紛れて逃げればいいと思っていたんだよ。だというのに、

「ひゃあっ!」

 僕は腰を掴まれる形で宙に浮かぶことになったんだ。


先頭を一騎駆けしてきたその人は、馬から上半身を乗り出すようにして僕の腰帯を掴んで抱え込むと、そのまま馬首を回らせて角兵衛さんの家の前から離脱してしまったんだ。


この一騎を追いかけて来た形の複数の騎馬が、勢いをつけて突入して行ったみたいに見えたけど、先生がそこで残念そうに刀を鞘に戻している姿がチラリと見えた。


「イチ、怪我はないか?うちの者が悪かったな」

 僕の腰帯を掴んだままの状態で馬を走らせるその人は、心底申し訳なさそうに言って来たんだけど、

「ぐえぇえええ」

 荷物みたいに抱えられている僕は帯が締まりすぎて、臓腑が口から出てきそうになっていたんだ。こんな状態で返事なんか出来る訳がないよね!


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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