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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第二章  西に行こう!
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第十六話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 僕が浜辺まで船を寄せると、角兵衛さんの門徒たちが海に入って船を移動させてくれたんだ。僕の力じゃ伝馬船を浜辺の上まで移動させることは出来ないから助かったけど、みんなが、

「「「イチ!良くやったな!」」」

「「「すごかったぞ!」」」

 と、声をかけてくれたんだ。


 お偉いさんたちが居る陣幕の方まで声が届いてしまったら厄介なことになるから、みんな小声で声をかけてくれたんだけど、ああ、勝って良かった〜と、実感することになったんだ。


 船を移動させてくれた門徒の人たちが喜んでくれたのは良かったけれど、陣幕の方は異様なほどにザワザワしていることに気が付いた僕は、頭の中でクルクルと考えを巡らした。


 審判役のお爺さんがつくづく嫌そうな顔で僕の方を見て来たところで、僕の方針はすぐさま決定することになったんだ。


「船頭の男がこのようなものを用意していて!僕のお相手となる剣士の方の命を狙っておりました〜!」


 僕は船から飛び降りながら、船頭が用意していた吹き矢の筒と、一つだけ船の中に落ちていた特殊な矢を掲げながら大きな声を張り上げた。


「僕には全くわかりませんが、お家騒動とか?家督問題とか?そういったものでもあったのでしょうか〜?」


 浜辺に降り立った僕は、集まった民衆にも見えるように、矢筒を高々と掲げながら言ったわけ。

「対戦相手の方のお命が危ないと思った僕は!すぐさま海へと逃しました!何とか吹き矢が刺さることは免れたのですが!邪魔をした僕は暗殺者の逆鱗に触れたらしく、危うく殺されるところでした〜!」


 これで又四郎さまが海に落ちたのは仕方なかったこと、僕は又四郎さまの命を救ったし、悪者である船頭と果敢にも戦ったのだと主張した訳だよ!

「何とか暗殺者を海に突き落とすことが出来ましたが!僕の力では又四郎さまを船の上に引っ張りあげることが出来ません!どうか皆様!あの方を助けに行ってくださいませ〜!」


 海に落ちた又四郎さまなんだけど、海に落ちた時点で大分沖に流されたみたいなんだよね。すると、見物していた人達が、

「「「うしろ!うしろ!」」」

 と、大声をあげているから、泳いでいた又四郎さまが浜辺に到着しちゃったかな?


 振り返って見れば、ずぶ濡れ状態の又四郎さまが鬼のような形相で歩いて来る。船を移動させている角兵衛さんの門徒は子供に負けた又四郎さまのことを見てニヤニヤ笑っているよ!それがまた、又四郎様の誇りを大きく傷つけることになったんだろうね!怒りで男前の顔が赤黒く変色しているもの!


 一応、暗殺者から又四郎さまの命を救ったということにしたけれど、僕の暗殺に失敗した又四郎さまは激怒しているみたい。

 さて、どうしようかな・・と、僕がまた頭の中でくるくる考えていると、

「おお〜い!又四郎!子供に命を救って貰ったというのに、なんで親の仇でも見るような目で見ているんだ〜?」

 大人の人の大きな手が僕の肩に触れ、僕を守るように引き寄せられる。僕のところまでわざわざやって来た男の人が、ニヤニヤ笑いでずぶ濡れ状態の又四郎様を出迎えたんだ。


 この方、隆景さまの家臣で飯田尊継さまという方で、公家出身ということもあって顔立ちは典雅な方なのだけれど、毛利の家臣団の一人ということで歴戦の猛者というのにぴったりな雰囲気が滲み出ているよね。


「お前、家督争いで命を狙われて、この子供に助けられたらしいじゃないか!」

 尊継さまは僕が持っていた吹き矢の筒を取り上げると、ためつすがめつ見ながら言い出したんだ。

「命を救われたんだから、感謝しなくちゃいけないよな!」

 尊継さまは、本当は僕の命が狙われたっていうことに気が付いている。船頭と又四郎さまがグルで、二人がかりで子供の僕を殺そうとしたダサい奴らだって思っているのに違いない。


 ニヤーッと笑った尊継さまの顔を見たらだよ、又四郎さま、あっという間に意気消沈してガタガタ震え出したんだ。明らかに戦意を喪失した又四郎さまの様子に気が付いたお爺さんの師範は、

「先鋒、矢口角兵衛方の勝利とする!」

 と、大声をあげたんだ。


 ハーッ、良かった、良かった。これで僕の役目は終わったということだよね?

 それにしても吹き矢なんか用意しやがって、そこまで角兵衛さんを師範代にさせたくないのかね?酷いことをするな〜って、思わず呆れ返っちゃったんだけど、あえて船上で試合をする形でも良いと言った時点で、敵は卑怯な手に出るつもりだったのだろう。


「船に問題があったため!以降は船上ではなく陸上で試合をする!」

 はあ、そうですか。船に問題じゃなくて、船頭に問題があったんだけど、それはまあ別に良いや。

「それでは次の試合、矢口角兵衛が門徒イチと吉見兼房が門徒内藤信勝の試合とする!両名!前へ出よ!」

「はあ?」

 僕は尊継さまと並んで立っていたんだけど、最初、何を言われているのか理解出来なかったんだ。

僕は先鋒として又四郎さまと戦って、見事に勝利を勝ち取ったんだから試合はこれで終わりで良いでしょう!


「この度の試合は勝ち抜き戦とする!両名は前へ出よ!」

「なっ・・」

 嘘でしょう!なんなんだよ!勝ち抜き戦って!

「ちなみに、この試合は矢口角兵衛が我が藩お抱えの師範として相応しいかどうかを判断するための試合である!よって、試合は戦場と同じく真剣で行うこととする!」

 ジジイ〜、てめえは一体、何をほざき始めているのだろうか〜?


「「なに〜?」」


 この様子を黙って見ていた角兵衛さんも、僕の先生も、さすがに驚きの声を上げている。そんな先生たちの方を振り返っている間に、内藤信勝さまという人が威風堂々たる様子で前へと進み出て来ちゃったよ。


「おおお、信勝の奴、やる気満々みたいだな!」

 と、隣で尊継さまが呑気な様子で言っているんだけど、対戦相手となる信勝さま、腰に差した真剣をスラリと抜き払って太陽の光に当てて、ピカピカ光る己の剣先をじっくりと見た後に、納得した様子で鞘に戻しちゃっているよ。確かこの信勝さまとやらは新當流の男前三人衆のうちの一人じゃなかったかな?


「やる気満々だな!じゃないですよ〜!」

 なんで子供相手に真剣を引き抜いてやる気満々になるんだよ!バカか!アホか!冗談じゃないよ!無茶苦茶だ!


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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