第十五話
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吹き矢というのは三尺(約90センチ)から五尺(約150センチ)くらいの長さの中空の筒に、針が付いた特殊な矢を入れて吹き飛ばすものになる。これから試合を行うという伝馬船に、竹の束が載せられていることに疑問を持ったんだけど、吹き矢に使う筒を目立たなくさせるために置いておいたということになるのだろう。
草の者とか影の者とか言われる人々を、大概のお偉いさんたちは雇っているわけなんだけど、大内氏の残党の人たちも結構、雇っていたんです。毛利に奇襲をかけるのに情報を集める人員は絶対に必要になるだろうし、この人達のおかげで残党狩りに苦戦をすることになったんだ。
船に乗り込んだ時点で、船頭の身のこなしの軽さから、
「あっ、この人、あっち系の人かも」
と、思っていたんだけど、警戒しておいて良かったよ。
又四郎さまと船頭のおじさんは完全にグルだ。おじさんの吹き矢を僕が喰らったところで又四郎さまは僕を打ち負かすつもりでいたんだろうけど、子供相手に大人二人で襲いかかってくるのかよ!本当の本当にどうかと思うよ!
こういった時って、全てがゆっくりと時間が流れているように僕には感じるんだ。
筒の中から発射された針が付いた特殊な矢羽は、走羽に白鷺の羽が使用されていた。純白な羽を靡かせながら畳針ほどの太さに見える針の先が僕の方へと向かってくる。これを木刀で弾き返した僕は、船底に這いつくばるようにして頭を低くすると船底に転がっている竹の束を掴んで又四郎様と船頭に叩きつけるようにして持ち上げたんだ。
投げつけたといっても竹の長さもあったし、威力はないから威嚇程度にしかならないんだけど、転がっていた竹が宙を浮いたことで、意識がそっちの方に一瞬でも向けばそれで良い。
角兵衛さんが言うところの丹田に力を込めてガニ股に足を開くと、右手に掴んだ木刀を又四郎さまの腰から上に向かって叩きつける。体制を崩した又四郎さまが慌てて手を泳がせたんだけど、僕が両手を船底について足で蹴り上げれば、船縁から海の方向へと又四郎さまは落ちて行ったんだ。
顔色一つ変えずに船頭は懐から匕首を引き抜いたんだけど、僕も一応、何かあったらということで小刀を持たされていたんだ。船頭が持つ匕首が一尺八寸(54・3cm)だとするのなら、僕が持っている小刀は五寸(15cm)!圧倒的に長さが違うよね!
船の上で匕首を閃かせた船頭は、船の上で体勢を崩すこともなく、又四郎様みたいに船上で均衡を保とうと変に力を入れ過ぎることもなく、流れるような速さで刃を振りおろしてくる。
僕は船の上で無茶苦茶鍛錬をしたんだよ。
そりゃあもう、何度、海に落ちたか分からないってほど海に落ちたし、何度、海水を飲み込んだか、吐き出したか分からないほどだよ?
僕を切りつけるために船頭の男は匕首を振るって来たんだけど、とにかく伝馬船は早船と比べると段違いに狭いんだよ。向こうは僕が逃げ場を失ったところで刺し殺すつもりなんだろうけど、僕は何度も船底を踏みつけて思いっきり船を揺らしたところで、船端から跳躍をした。
揺れる船の上で体勢を整えるために男が姿勢を低くした一瞬の隙をついて、僕は男の頭を踏みつけにして男の向こう側へと移動する。そこで振り返れば再び船頭の男と向かい合う形となったんだ。
狭い伝馬船の上で左右に分かれた僕と男が睨み合いをしたんだけど、それも一瞬のことだよ。男は特徴のないその顔に残忍な、舌なめずりするような笑みを浮かべたんだけど、僕はそんな男向かってに小刀を一直線に投げつけた。
男は僕が投げつけた小刀を匕首で弾き飛ばしたんだけど、その一瞬の隙があればいい。床に転がっていた木刀を拾い上げた僕は高々と跳躍して男の頭をかち割る勢いで振り下ろしたんだ。
木刀は男の頭にめり込んだように感じたけれど、子供の威力だからどれくらい効果があったかは分からない。着地したところで、男の腹に木刀を突き込むまでが一瞬のことで、船頭の男はそのままひっくりかえるようにして海の中へと落ちていった。
男が海に落ちたことで船は揺れた、無茶苦茶揺れたけど、僕は船縁にしがみついて船から落ちるのを何とか免れた。子供の僕の力では、木刀で相手に致命傷を与えることは出来ないだろう。
ここで海に落ちたら僕はやられる。だからこそ必死になって船縁にしがみついたし、船が落ち着いたところですぐさま櫓を漕いで、浜辺の方へと向かったわけさ。
僕もさあ、一応、お偉いさんの方々がどれだけ誇り高い生き物かっていうことは知っているよ?角兵衛さんなんていう良く分からない男をお抱えの剣術師範として招き入れるだなんて、
「「「なんだよそれ!」」」
と思っただろうし、絶対に邪魔してやろうと考えて、まずは角兵衛さんの門徒が多い近くの漁村から襲撃をかけようとした。漁村を潰すことで角兵衛さんに圧力をかけようとしたのだろうけど、それを防いだのが僕でしょう?
「子供のくせに生意気だー!」
「目にもの見せてやるー!」
ということで、僕が先鋒として試合に出るように差し向けたってことなんだろう。先鋒で出場の僕はまだいたいけな子供だっていうのに、吹き矢で身動き出来なくなったところを木刀で強かに打って海に落として殺してしまおうと考えたんでしょう?それはどういうつもりなの?汚ねえよなあって思っちゃうよね?
見物に来ていた町民たちは大騒ぎしているけど、そりゃそうだよね?
又四郎さまは船から落っこちて明らかに負けになったというのに、船頭の男が匕首を振り回して僕に襲いかかって来たわけだもん。
陣幕を張って試合の様子を見物していたお偉いさん達も動揺を隠せていない様子だったけれど、とりわけ立派な陣幕の中でわざわざ御簾まで用意して見物をしているお方様の方を見て思っちゃったんだよね。
歴史ある桓武平氏流小早川本家の血筋のお姫様は毛利家の三男を婿入りさせた訳だけれど、権勢を誇る毛利家と比べて小早川本家は落目の状態だし、家自体に暗い影が差し込んでいるのは間違いない事実。自分がきっちり後継者を産んで育てていれば良かったんだろうけど、肝心の子供が出来ないもんだから直系はここで終わっちゃう。
毛利元就さまのお葬式があって、再びお世継ぎ問題が浮上して、側女候補の美しき女人達が大勢送り込まれることになってさ、内心、落ち着いてなんかいられないところで、
「「「旧家臣の奴らはどうなっているんだ〜!」」」
「「「奴らは新しい城を築城するのが気に食わないからといって、働きに出ている我々の村を襲っているらしいぞ〜!」」」
「「「あいつらの言うことなんか聞いていられるか〜!」」」
漁村の襲撃がきっかけとなって、民衆は敵意と反感を毛利家ではなく小早川本家に向けて来たんだものね。
問田大方さまは子供が喉から手が出るほど欲しかっただろうし、周囲からの圧は凄かっただろうし、今はもう年齢的に諦めなくちゃいけないだろうし、子供(特に男児)なんか大嫌いなんだろうな。
ここで僕が船の上で殺されても、試合上のことだから仕方がないってことになるしね。その後も船の上で船頭さんが吹き矢で応戦すれば試合に勝てるだろうし、矢口角兵衛とやらの門徒が全員負ければ、
「所詮は血の卑しき者など、何ほどのことでもないわ!」
と、豪語出来ることになるんだもの!やっぱり血筋こそ尊いとか言い出す人達って嫌な奴が多いよね!
ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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