第十四話
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角兵衛さんを師範代として採用するかどうかを決めるための試合の日は、あっという間にやって来ることになっちゃったよ。
相手は全員大人なんだから、こっちだって大人で揃えれば良いと言うのに、
「ねえ〜!角兵衛さん〜!本当の本当に!僕が試合に出なくちゃいけないわけ〜?」
何で子供の僕が出なくちゃならないんだよ!
「イチ〜!隆景様の御正室となる問田大方様が、側女候補の方々を連れて試合を観覧に来るということだからな!きっとお前の母さまも一緒にやって来るんじゃないのかな〜?」
「ええ!僕の母様も観覧に来るの?」
試合の観覧については当初、試合に参加する道場の関係者だけとか、参加をする門徒の一族だけとか、制限が付けられるって話が出ていたんだけど、
「お方様がお許しになられたようで、沖町の浜で試合が行われることになったんだ。あそこの浜だったら町の者も大勢、見物にやって来るだろうさ」
隆景様の御正室ということは、歴史ある桓武平氏流小早川本家の血筋の方だもん。発言力があるってことなんだろうな〜。
「イチ、お前は先鋒で出ることになる」
「ああ〜、そうなんだ〜」
「お前が負けても後の奴らが勝てば良いだけなんだから、気負わず試合をしたらいい」
「気負わず試合をしたらいいって言うけどさあ」
僕以外全員大人が集められている状態で気負わずなんて無理があるでしょう!
試合が行われる早朝から沖町の浜辺には陣幕が張られ、御当主夫妻が試合を観覧する席の他にもお偉いさん用の席が設けられていたみたい。
側女候補の方々の席も用意されてはいるんだけど、陣幕からは少し離れた場所に用意されているみたい。男性の目に触れさせないという観点からだそうで、試合に参加する予定の僕でもどんな女性がどれだけ見学に来ているのか分からずじまい。だからこそ、誘拐された僕の母さまもそこに居るのかどうなのかは分からないままだったんだ。
角兵衛さんの門徒は体が横に広がっているように見える筋肉隆々の人が多いんだけど、その中に立つ僕は間違いなく場違いな存在だ。
対する新當流の門徒さんたちは、皆んなスラリと背が高くって人品も良いし、無駄な筋肉が一切ついていないっていう風に見えるね。僕の先生もそんな感じ、角兵衛さんがドデンとした感じなら、先生はスラリって感じだもの。
「きゃあ〜!秀治さま〜!」
「信勝さま〜!」
「又四郎さま〜!」
特に顔立ちが整って見える三人衆が向こうには居て、女性たちからの応援の声が凄いことになっている。しかもだよ、この三人衆のうちの一人がこの前漁村までやって来てまんまと逃げ帰った竹原なんとか様じゃないか!
「ねえ〜角兵衛さん〜、こっちに乙女の応援ってないの?」
「乙女の応援はないが、応援の声だけはこっちの方が大きいと思うぞ!」
僕らは沖町の浜辺で試合を行うことになったんだけど、その話を聞きつけた大勢の町民が物見にやって来ているんだよね。入江となった浜辺は陸側に向かうほど高台になっているから、見下ろす形で見学が出来るってことになるんだろうね。
「イチ、船がやって来たみたいだぞ〜」
先生が僕に声をかけて来たんだけど、ギョッとしちゃったよ。
海戦で敗れることになった隆景様は毛利海軍のテコ入れをするために、新たに剣術の師範を招き入れようと考えて角兵衛さんに白羽の矢が立ったわけなんだけど、それを不服に思った小早川家の旧家臣団の方々が文句を言ったわけ。とりあえず試合形式にして角兵衛さんが師範として相応しいかどうかを確認するってことになったわけ。
一応、海軍のテコ入れの為に師範を招き入れるわけだから、試合形式も船上で行うってことになったんだけど、
「それって相手にとって不利なるんじゃないの?」
と、僕は思ったわけ。普段、道場で鍛錬をしている人たちが急に船に乗ったって上手に戦えるわけがないもんね。
「俺も確かにそう思ったんだが、あちらは船上で問題ないと言っている。早船を用意するからそのつもりでいて欲しいとのことだよ」
そういうことで早船でしつこい程特訓していたわけだよ?
だけど、だけどだよ?
到着したのは一丁櫓の伝馬船だったんだよ。早船よりもかなり小さい船なんだけど、
「へー、伝馬船を用意したのか〜」
と言って、周りの皆んなは、全く驚いていないみたい。
「僕、早船でしか鍛錬していないんですけど?」
足場はグーッと狭くなるし、落ちずに戦うことなんて出来るのか?
「イチ!並行を保つんだ!自分の中の並行をな!」
「イチ!丹田だ!丹田に力をグーッと入れて、グワーッと力を出せば大丈夫だ!」
そしたら先生と角兵衛さんがお馴染みの言葉を言い出したんだよね。
「いや、僕には無理だって〜!」
大男の門徒たちは余裕そのものの様子で、
「とりあえず海に落とせば良いんだろう!」
と言っているけど、僕には無理そうだよ〜。
とにかくいざ試合となったら驚くことばっかりで、
「船上だけの試合では互いの実力を測るのに齟齬が出ることは間違いない!故に、試合は船と陸!両方で行う形とする!」
と、白髭の頭領みたいなヨボヨボのお爺さんが言い出したんだよ。
聞いてない、聞いてない。
伝馬船も聞いてなければ、陸(砂浜)での試合も聞いてない。
どうやらヨボヨボのお爺ちゃんが安芸では有名な剣術師範だったらしくって、
「若輩者の我々が何を言っても聞き入れてはくれないから、お前は黙っておけ」
と、僕は角兵衛さんに言われることになったんだ。
まずは浜辺で先鋒、次鋒、中堅、副将、大将が並ぶことになったんだけど、竹原なんとか様は副将の位置にいるみたい。先鋒の僕の相手は『又四郎さま〜!』と呼ばれていた色男、色白で肌がツルツルしていて、まつ毛がやたらと長くて目が大きな人だった。これは確かに乙女に人気がある人だろうなあ。
「「イチ〜!がんばれ〜!」」
先生と角兵衛さんが、
「「とにかく相手を殺すなよ〜!」」
と言っているものだから、又四郎さま、額に青筋が浮かんじゃっているよ!
「バカ!バカ!角兵衛さんと先生のバカ!」
幾ら僕が先鋒で、他の人が勝てばそれで良いんだから負けても良いよって言ってるけどさ、僕が試合の最中に半殺しの目に遭ったらどうするつもりでいるんだろう!
とにかく、僕の身長は又四郎さまの肩の高さ位しかないし、子供と大人の体格差なものだから、
「「「子供が出て来たぞ!」」」
「「「どうなっているんだ!」」」
という驚きの声がたくさん降ってくる。
僕と又四郎さまが船に乗ると、船頭のおじさんが櫓を漕いで船を陸から少し離れた場所へと移動をさせる。
幸いにも今日は波も穏やかだから、大波で転覆するという恐れはないだろうけど、船の上だから立っているだけでそりゃ揺れちゃうよね。
狭い船の中で僕らは左右に分かれて場所取りをした。浜辺にいるお爺さんが旗を振ったら試合開始となるんだけど、お爺さんが旗を振ったのと同時に、船頭の男の人が僕に向かって吹き矢を飛ばして来たんだ!
ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
もし宜しければ
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