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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第二章  西に行こう!
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第十三話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 豊かな生活を送る人々の生活を下支えしているのは、多くの庶民の努力と献身があってこそだと思うのだが、

「あんな奴らが何だっていうんだ!」

 と、言い出す輩はかなりいる。


 生意気な片腕の男が剣術の師範として城で雇われることになると聞いて、

「なんだその流派は?聞いたこともないぞ!」

 と、怒り出したお歴々が居たし、

「生意気な人間など殺してしまえば良いだろう!」

 と言い出した輩も沢山いたのだが、

「殺せませんでした」

「失敗しました」

「全く歯が立ちませんでした」

 という報告ばかりを受けることになったのだった。


 矢口角兵衛は妻も子も居ないのだが、最近、子供連れの男を居候として家に置いているのだという。この男は角兵衛と同じ師の元で学んだ同門の徒ということになるのだが、

「最近、残党狩りでやたらと活躍する親子が居るという話があったではないですか?どうやらその親子が角兵衛の家に居候している者だというのです」

 殺せないと言うのなら、奴らの貧相な道場だけでも汚泥に塗れさせてやろうと考えたのだが、

「「「まさにこれは!毛利家だけでなく!隆景様の顔に泥を塗るような行いだ!」」」

 そんな話になろうとは思いもしない。


 片腕男の父親が今は滅びた安芸武田氏に仕えていたとは知りもしないし、武田氏との戦いで今は亡き毛利元就の腹心の部下の命を助けたなどと知るわけもない。

 その腹心の部下が毛利の家紋入りの短刀を授け、のちに毛利家に仕官するきっかけとなったなどとは知る由もないのだ。


 大友方の奇襲によって父親の方が命を落としたとも知らないし、その時は輸送警護に当たっていたというのだから、下っ端も下っ端の人間になるのだろう。だって、古くから小早川に仕えていたわけではないのだもの。


 片腕の道場主が何だと言うのだ?

 それも町の外れにあるそれは小さな間取りの道場だというのだろう?

 その道場が、わざわざ報奨として御当主様が授けたものだと?

 知ったことではない、今でも汚物を塗りつけられたままだ?多くの民が毎日のように汚された道場を見学に行っている?


 うるさい!うるさい!うるさい!

 だったらそんな道場、燃やしてしまえば良かろうが!

 何?燃やすために向かわせた者どもが捕えられた?

 道場の敷地外にわざわざ縄に括られた状態で置かれている?

 その者どもの後ろには看板が置かれているだって?


「真の悪は小早川の旧臣と言われる方々に他ならない?ここまで守られて来たのも毛利家のお陰であるというのに後ろ足で砂をかけ、毛利家の顔に泥を塗り、挙句の果てには火付を行い、城下町を焼き払おうと企んだ?悪いのは上からの圧力で無理やり火付を命じられたこの者どもではなく、上からただただ命令した者どもこそが真の悪人であるだと?」


 野火のようにあっという間に広がっていった噂は『旧家臣団』と言われる人々に対する憎悪を増幅させるきっかけとなったのは間違いない。

 搾取するだけ搾取して贅沢を楽しんで来た者たちは、外もまともに歩けないような状態になり、城に出仕したとて蔑んだ視線を向けられる。


 小早川唯一の直系である隆景の正室、問田大方は懐妊することはなく、隆景の後継を望む声が日に日に大きくなっているのは間違いない。

 英雄毛利元就の死をきっかけに、側女候補となる女性が沢山城を訪れることになったのだが、隆景が唯一心を許した女性は小早川の血を一滴持たない女人だったのだ。


「こんなくだらないことで心患っている場合ではないというのに、ああ、なんだってここまで大ごとになってしまったのか・・」

 古くから小早川家に仕える家臣団の一人が思い悩んでいると、

「何をそれほど悩むことがあるのだ?」

 と、女人の声が背後より聞こえて来たのだった。


「これは、これは!」

 男はすぐさま形を正すと、

「お方様にはご健勝のことお喜び申し上げまする」

 すぐに頭を下げたのだが、くつくつくつと、頭の上の方から笑う声が響いてくる。


 今より二十九年ほど前、出雲遠征に従軍をしたお方様の父、小早川正平が僅か二十一歳で討死したため、兄の繁平が家督を継ぐこととなったのだが、まだ年も若く眼病も患っていたことから策に踊らされ、結局、強制的に隠居、出家をすることになってしまったのだった。


 婿入りする形で竹原小早川家に養子として入っていた毛利家の三男がお方様の夫となったのだが、夫婦となって二十年経っても二人の間に子はなく、以前から隆景に対して側女を娶るようにという話はひっきりなしに来てはいたのだ。


 ただ、多忙な隆景は戦に出かけることが多かった為、妾や側女を置かずにここまで来てしまったのだが、そんな隆景に転機が訪れたのは父の葬儀がきっかけとなる。


「隆景さまがあの女を愛するようになれば、我ら桓武平氏流小早川本家の立場が揺らぐことになるかも知れない。そのことを恐れているのは十分に理解出来るがな、我らが体裁を悪くするようなことばかりをするでない」

「ですが・・お方様・・くやしゅうございます!」


 問田大方こそが尊き血を引く最後の人であったのだが、この年齢となってしまえば子を望むことなど出来るわけもない。であるのなら、せめて、庶流、傍流の家から女人を連れて来て妾、側女としてもらえればと願ったのだが、結局、全く関わりのない女が今は溺愛されているのだ。


「まあ良い、妾に考えがあるのだ」

 問田大方はそう言って、

「元々、片腕を剣術師範として招き入れるのに試合形式での成果を見る予定であったのだろう?しかもその試合には、最近残党狩りで話題となっている子供が先鋒となって出るらしい」

 その口元にニンマリと笑みを浮かべた。


「試合をすぐに開催出来るように手配せよ、場合によってはあの女の弱みを見つけられるかも知れぬぞ?」

「はっ、かしこまりました」

「それからな、竹原新三郎秀治も試合に出るように手配せよ」

 問田大方の意図がさっぱり男には理解出来なかったのだが、

「お方様の思う通りに、ことを運ばさせて頂きまする!」

 と、男は言って、慌てて部屋から飛び出して行ったのだった。


またまた値上げラッシュ!光熱費アップ!何処かの誰かが戦国時代並みに搾取されているようだと言っておりましたが、本当に!本当に!血筋も正しき方々というものは、いつの時代でも搾取は当たり前だし、自分たちが楽して贅沢出来るのが当たり前だと思っているんですかね?腹立たしいですが、こちらのお話、週末ちょっとお休みして月曜からまた再開します!次の回ではようやっと試合となりますのでお待ち頂ければ幸いです!


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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