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お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
応仁の乱以降、数限りないほどの戦が繰り広げられ続けていたんです。
それがどれほどの長さかって?
約百二十余年あまりが過ぎることになったそうですよ?
長っ!と思っちゃうけれど、それも末期ともなれば世情はグチャグチャになったのは言うまでもないことです。
三好一族の御家騒動や岐阜での織田信長さまの台頭により、近江から山城にかけての情勢は一日、一日でがらりと変わる。
織田信長さまに担ぎ上げられた将軍足利義昭さまは京の都へ降り立つことに成功したものの、自分を傀儡扱いする信長に対して我慢がならなかったんですね。
将軍様は周辺の諸将に声をかけて反信長勢力を作る事に腐心するんですけど、信長さまと足利さまとの間で心を決められぬ人が多かったんですよ。
「やっぱり・・血統正しき足利さまに私は付くことにするぞ!」
と、心を決めた松永久秀さまは軍を率いて辰市城へ攻め入ったわけですが、
「「「「この外道野郎〜!死に腐れ!裏切り者野郎どもが〜!」」」」
城攻めの前に八歳の人質目的で預かったお嬢様を見せしめに殺したのは松永さまの驕りから出た行動だろうし、それで負けちゃうんだからダサくね?と、諸将から思われたのは間違い無いですね。
この戦いで筒井さまに献上された首級は五百を数えることになったと言いますけれど、その中に松永さまの首級は入っていないんですよ。そうです!そうです!彼は逃げました!無事に負け戦から逃げ出しております!
死んじゃったら終わりなので、しぶとく生き残った者勝ちとも言いますし、
「やっぱり織田様についた方が良かったわ〜」
と、後から松永さまは激しく後悔することにもなるし、コロッと信長様に寝返ることにもなるのですが、信長さまにはそれだけの時世に乗った勢いというものがあったのは間違いないです。
世の中が混沌、混沌、混沌の状態の中、一匹の龍が地上に現れたような感覚を多くの人々が感じたのは間違いないです。織田信長さまとはそれだけの存在感と威圧感を周囲に与えていたのは間違いないのですが、
「この田舎者が〜!我に対してあまりに不敬ぞ〜!」
と、怒りを露わにしたのが将軍足利義満さまだったのは間違いないです。
まあ、そんなことどうでも良いですし。
と、思っているのが僕の先生です。
僕の先生の頭の中には、勝ち馬に乗って出世してやろうとか、一国の主にいずれはなってやろうとか、そういう出世欲みたいなものが全然ないんですよね。
ただ、ただ、『己の剣をどこまで高められるか?』ということしか考えていない剣術バカなのは間違いないです。
辰市城の戦いで巌勝さまを助け出した先生は、
「「「どうか我らと一緒に柳生の里まで行きましょう!」」」
と、柳生家の人々から懇願されることになったのだけれど、
「いや、ここからだと山の中に住み暮らす兄弟子の家のほうに行った方が近いから。そちらに寄ってから、いずれは柳生の里へも顔を出させて頂こう」
と言って木津川の船の渡守が持つ船にあっという間に乗ってしまったそうなのです。
山城国と大和の国の国境には淀川水系の支流となる木津川が流れているのですが、伊賀の国から流れくるこの川の名は、奈良や平城京の時代に都城建設の木材の陸揚げをした木津の陸揚げ港の名前が由来となっているそうです。
この木津の港と笠置の山城との間には山村や集落が形成されているし、なんならその集落のうちの一つが、僕が住んでいる場所だったりするわけです。ここら辺りでは河畔で作物を作ったり、山で炭を作ったものを木津や笠置の燃料とする為に運んでいたりするものだから、この近辺での生活は渡し船なしでは成り立たないものといっても良いでしょう。
僕が住んでいる村がある笠置山はその昔、後醍醐天皇が三種の神器を保持して挙兵した場所でもあり、籠城して元弘の乱の発端となった地にもなるそうです。
昔からの信仰の山でもあり、修験道の行道にもなっています。そんな山の中の集落で唯一生き残った僕は、先生に手当てを受けながら虫の息の状態となっておりました。
先生の兄弟子というのが僕の父親になり、僕はそんな父親から剣術の手解きを受けていたわけなのですが、そんなある日、暴漢どもが徒党を組んで集落を襲いにかかって来たわけです。
こういうことはこの時代、そりゃあもう良くあることだとは思うんだけど、僕の父が馬鹿みたいに強いので、こういう襲撃は今までは難なく撃退出来たわけなのですが、
「なっ!」
その日は闇夜だというのに、僕らの集落を襲撃しにやって来た奴らは毒を含んだ矢を大量に使うようなことをやってのけたのです。
矢というのは作るのに手間暇かかるので、無造作に、しかも大量に使うなんて小さな集落を襲う際には選ばない手段です。
素人ではなく玄人の攻撃だと判断した父さまは母さまと僕を即座に逃がそうとしたのですが、どうやらこいつら、僕の母さまが目当てだったみたいです。
暗い森の中、僕と母さまは手を繋いで必死に逃げたのですが、あっという間に六人の男たちに捕まってしまったんです。奴らは母さまが目当てなので、あっという間に母さまを担ぎ上げてしまった。その後の僕の記憶が途切れてなくなっているし、次に目を覚ましたのは朝日が差し込む森の中だったというわけで。
僕はもう、至る所傷だらけだったんだけど、僕の周囲には四人の男の遺体が転がっているような状態だったんだよね?
もう、訳わからんとも思ったけれど、僕は父さまから貰った小太刀を掴んだまま集落の方へ戻ることにしたわけです。そうしたら、集落は全滅。皆殺しにされた遺体の中には僕の父さまの無惨な遺体も転がっていたんだよ。
あまりの衝撃にそのまま気を失ってしまった僕を見つけたのが僕の先生というわけで、先生は唯一の生き残りである僕を、僕の家へと連れて行くと、僕の看病をしながら先の戦、辰市城の合戦の話をしてくれたってわけです。
「先生・・」
高熱を発する僕の額の上に、水で濡らした手拭いを置いてくれた先生に向かって言いましたとも。
「その話って今するべきことだと思います?」
僕は母さまを連れ去られ、父さまを殺され、仲間も全員殺された状態なんですけど?今、そんな話を僕にする必要ある?
「ええ〜?だってさ〜?」
囲炉裏に火を入れた先生は、鍋に作った雑炊をかき混ぜながら言ったんだよ。
「この世には地獄ってものが沢山あるんだし、どんまいっていう気持ちを込めて、励ましのつもりで話したんだけど、ダメだったかな?」
本当に僕の先生、本当の本当に、変わっているんだよな〜。
ここからどんどん、お話は進んでいきます!
もし宜しければ
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