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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第二章  西に行こう!
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第六話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 僕の母さまは、子供がいない小早川隆景さまという方の側女候補としてお城に上がっているそうなんだけど、標高190メートルの山上にある高山城ではなくて、沼田川を挟んだほぼ同じ高さの山の上にある新高山城の方に居るみたい。


このお城とはまた別に、沼田川の河口付近にお城を建てているところなんだ。三原の中洲や小島も利用をして、城郭兼軍港としての機能も兼ね備える城として築城するみたい。本丸、二の丸、三の丸、舟入なども整備する予定でいるらしい。


 僕が一晩お世話になった次郎の家は漁村にあるんだけど、漁村に住み暮らす若者の多くは三原の方へ働きに出ているんだって。次郎のお兄さんなんかも三原の築城工事の方に駆り出されているんだよね。


 小早川さまが素晴らしいなって思うところは、労働力や戦力が必要だからって、働き手になる男衆を全員すべからく徴集しないところ。漁村に残った年嵩となる男衆は、漁を続けて生計を立てることを許されているんだよ。


 そんなこんなでまだ朝日も昇る前から船に乗り込んで、延縄を仕掛けて魚を捕まえることになったんだ。その日は豊漁だったので一旦、市場に持っていくための魚を陸揚げすることになったんだけど、

「大変だー!大変だー!」

 と、お爺さんが叫びながらこっちの方に駆けつけて来たんだ。


 このお爺さんも漁師さんなんだけど、最近腰をやっちゃって、今日は漁には出ずに家で寝ていたと言うんだけど、

「竹原さまのご子息がやって来て!我らが家を打ち壊し始めておるわー!」

 お爺さんたら、口から泡を飛ばしながらそんなことを言い出したんだ。



「竹原さまって誰?」

 僕が次郎のお父さんに尋ねると、

「竹原さまっていうのは〜・・」

 次郎のお父さんは苦虫でも噛み潰したような顔で説明をしてくれたんだ。


 竹原家というのは鎌倉から続く由緒正しき武家の家ということになるらしいんだけど、その竹原家のご子息竹原新三郎秀治という人が、猛烈な敵意を角兵衛さんに持っているんだってさ!


 この竹原家のご子息さまは藩の道場に通っているんだけど、

「我らが水軍にテコ入れをするのであれば、矢口角兵衛を指南役として召し抱えても良いかも知れませぬな」

 という話を何処からか聞きつけてしまったみたいなんだ。


 角兵衛さんのお父さんが何処の人だったかという話を前に説明をしたけど、角兵衛さん一家は元々毛利の人間でもなければ小早川の人間でもない。その腕を見込まれて最初は毛利家で受け入れられ、その後、小早川家に移動して来たような人なんだ。


 竹原さまからすると完全なるよそ者になるというのに、角兵衛さん、ご主人さまに気に入られているものだから、武者修行の旅に出る支援金だって貰っちゃっているんだもん。


 主人の恩義に報いるためにと、安芸に帰って来てからは戦い戦いの日々だったし、その結果自分のお父さんは死んじゃっているし、自分の左腕の肘から先がバッサリ斬り落とされているんだけど、

「そんなことは関係ねえ〜!あいつは気に入らね〜!」

 と言い出すのが竹原新三郎秀治という人なんだ。


 今、藩の道場で剣術指南をしているのが新當流の師範なんだけど、新當流というのは塚原卜伝という人が開いた流派で、この卜伝さん、昨年83歳で亡くなっています。


 武者修行に出る時には八十人の門人を連れて歩いたといわれる伝説の人で、お弟子さんが山ほど居たからこそ、新當流は多くの師範を生み出したってわけなのさ。だからこそ高山城の剣術指南役も新當流を教えているわけだけれど、角兵衛さんや先生のお師匠さまってまだご存命だからね?新興流派ってことで馬鹿にされているところがあるんだよなあ。


 角兵衛さんや先生は、

「剣の道を志すのは一緒だが、方針や信条が違い過ぎるんだよな〜」

 と、言うんだよね。つまりは偉大な師匠の剣の型をキッチリカッチリ教えて行こうという方針をあちらの師範が持っているとするのなら、

「臨機応変に手を加えても良いとするのが我らが剣よ」

 っていうことになるらしい。


 道場が近いってことで、次郎の家もある漁村の男たちは角兵衛さんから手解きを受けているんだけど、そこを狙われたのかな?

 見るからに上等の着物を着ている良いところの令息たちが、老人や女子供を集めて抜き身の剣先を突きつけている!


 集められた漁村の人々の中にはもちろん次郎の母さまもいるわけで、

「やめろ!やめろ!母さんを放せー!」

 一気に走り出した次郎が、母親に乱暴を働こうとしている男に体当たりを喰らわしたんだけど、そこで次郎が背中を斬りつけられてしまった。


「角兵衛さんは?角兵衛さんのところには声を掛けに行ったの?」

 僕らは浜から走って戻って来たんだけど、漁村を襲った若い男たちは女性の着物を引き剥いで、悪戯を働こうとしているみたい。


「他の奴が呼びには行ったが・・」

 僕らを呼びに来たお爺さんは真っ青な顔でガタガタ震えながら後ずさる。

 集団の中央にはそれは偉そうな男が一人、樽の上に腰掛けていて、抜き身の刀を片手にこちらの方を見てニヤニヤ笑いながら言い出したんだ。


「おいお前ら!今から互いに向かい合って、腕の骨を一本ずつへし折りあえ!必ず利き腕の方を折るんだぞ!」

 そう言って男は樽から立ち上がると、血を流して倒れ込む次郎の背中を踏みつけながら、

「早くやらないとこの子供の命はない。この子供の命だけでなく、ここに集めた人間全員を殺してやる」

 と、言い出したんだ。


 この時の僕は知らなかったんだけど、お城では角兵衛さんを師範代として招き入れるかどうかで紛糾していたらしいんだ。その結果、ここまで揉めるのだったら、門下生同士で試合を行なった上で決定すれば良いではないかという話が出たらしいんだ。


 角兵衛さんのお弟子が勝利を掴めば師範代として採用し、負ければこの話は見送るということになったんだけど、

「この試合は船上で行うこととする」

 と、皆んなのご主人様である小早川隆景さまが言い出したらしいんだ。


 現在、三原の地に築城している隆景さまだけど、水軍の強化が急務だと考えているのは間違いない。なにしろ、昨年五月に起こった備前児島の戦いで、毛利海軍は惨敗することになっちゃったからね。海軍を安芸まで引いて立て直しを図っているところなのだもの。関船に乗っていた元組頭で、現在は卓越した指導力を見せている角兵衛さんを採用したいし、船の上で活躍できる猛者を直接勧誘しようと考えたのかも知れない。


 昔から仕えている古い家の人間ほど、角兵衛さんが邪魔!と思っちゃうのは十分に理解できるけど、そこで道場破りをするでもなく、道場に通う門人が一番多い漁村に来ちゃうあたりがダサいと僕なんかは思っちゃうんだよね!


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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