第五話
お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。
「まあ、まあ、腹が減ったら戦は出来ぬと言うだろう?夕餉にしようではないか」
角兵衛さんは竈に鍋をかけて干魚と芋の雑炊を作っていたんだけど、
「だから!戦はしたくないの!戦はしたくない!」
僕はぴょんぴょん飛びながら癇癪を起こしちゃったんだよね。
「イチ、お前が今まで参加したのは戦じゃないぞ」
そこで先生が真面目な顔で言い出したんだ。
「戦なんて規模でも何でも無い、ただの残党狩りだ」
「クーーーッ!」
あまりの怒りに頭がくらくらしちゃったよ!
ちなみに、雑炊を作ってくれた角兵衛さんのお父さんは安芸武田氏に仕えていたんだけど、毛利元就さまによって滅ぼされちゃったものだから、その後、毛利家へと仕官することになったんだって。
天文二十四年の厳島の戦いで、そのお父さんが川ノ内の警固衆に加わって陶氏への奇襲に参加することになったんだ。その後、関門橋を封鎖して大村氏の滅亡へ貢献することになったそうです。
この時に沼田警固衆へ陣借りをしたのが縁で、小早川家へ召し抱えられることになったんだけど、諸国への武者修行の旅をして良いと言って支援金を用意してくれたくらいだから、角兵衛さん親子は有名な猛者だったみたいだよ。
先生と一緒に修行をしていた角兵衛さんなんだけど、毛利氏が尼子氏への攻勢を強める為に日本海への出陣を決めたってところで、お父さんに呼び戻されることになったんだって。
沼田警固の船上で隠岐水軍と戦う事となったし、その後も数々の水上戦に参加することになったんだけど、永禄十年に行われた伊予国への支援の時に、輸送警固にあたった時に大友方の奇襲に遭遇して、角兵衛さんのお父さんは死亡。角兵衛さん自身も左腕を切断するという大きな怪我をすることになったんだ。
その後、道場付きの小さな屋敷を賜った上で後人の育成を頼まれているというのだから、すごい人っていうことになるのだろう。角兵衛さん自身が、関船に乗り込む組頭身分だったことからか、道場に通う門人には足軽身分や土民の者が多いんだ。
「ねえ!角兵衛さん!角兵衛さんの伝手を使ってお城に上がることって出来ないのかな?」
「俺の伝手を使ってだって?」
角兵衛さんは呆れた様子で僕を見ながら言い出した。
「俺が藩の道場の剣術指南役だったらイチを城に連れて行くことも出来たんだろうがなあ」
「今から藩の道場の剣術指南役になってよ!お願い!」
「無理むり!」
角兵衛さんはガハハハッと笑いながら言い出した。
「今の剣術指南役は新當流を教えているから、俺とは畑が違いすぎるよ」
「でも!先生と!角兵衛さんは!同じ剣術の先生から学んだんでしょう!二人の先生は僕の父さまも教わったすっごい先生なんでしょう!」
先生と角兵衛さんは顔と顔を見合わせるとガハハハッと笑い出したんだ。
「「確かに凄い先生なんだが、一般ウケしないんだよ」」
同じ言葉を同時に言っているものだから二人は驚いたように顔を見合わせると、先生がエヘン、エヘンと咳払いをしながら、
「身分も高い方々が好むようなものではないんだよ」
と、言い出したんだ。
角兵衛さんがせっかく僕のために雑炊をよそってくれたのに、僕は怒りが頂点に達したあまり角兵衛さんの家を飛び出してしまったんだ。
僕は今まで山の中の集落に住んでいたんだけど、角兵衛さんの家は町からちょっと外れた場所にある漁村のすぐ近くにあったんだ。
海へと繋がる沼田川の支流に、関船よりも小さい小早と呼ばれる船が浮かんでいたんだけど、
「イチー!」
僕より一つ年下の次郎が声をかけてきたんだ。
次郎の家は漁師をしているんだけど、戦となったら小早川さまの水軍へと加勢することになるため、日々、船の上での鍛錬を欠かしていないんだ。
「次郎!」
僕は川に飛び込むなり、一生懸命泳いだよ。
そうして、次郎のお父さんが操る小早船に乗り込むと、
「僕・・僕・・もう角兵衛さんの家に帰りたくない!」
と、言い出したんだ。
「ええ?なんで帰りたくないんだよ!」
次郎は驚きの声をあげたんだけど、次郎のお父さんは訳知り顔となって、
「角兵衛さんの稽古が辛いんだろう?」
と、言い出したんだ。
先生とは同門のお友達である角兵衛さんは、とにかく稽古が厳しいんだ。
「水軍で活躍したいという奴は体幹を鍛えるべし!」
なんてことを常々言っていて、大人は筋肉をつけるために過酷な特訓を受けることになるんだよ。
子供の場合は今の次郎みたいに船に乗って体幹を鍛えるんだけど、大人に対しては鬼師範となる角兵衛さんがきっちりかっちり教えるおかげで雑兵足軽(徴兵されることになる漁師とか船乗り)の死亡率がガクンと減ることになったんだって。
「角兵衛さん!良い人じゃん!全然厳しくないって!」
「子供相手だったらな」
次郎のお父さんは暗い眼差しとなって、
「大人は別なんだよ」
と、言い出したんだ。
僕は先生の横暴ぶりに嫌気がさして逃げ出したんだけど、次郎のお父さんは角兵衛さんの稽古が嫌で逃げ出したものと考えてくれたみたいで、
「今日は泊まって行きなさい」
と、僕に言ってくれたんだ。
角兵衛さんの家でご厄介になって一年近く。ちっとも母さまに会えなくて、ムカムカが最高潮に達していたんだよ。そこで家を飛び出した僕は次郎の家へと行くことになったんだけど、次の日の朝、先生も呆れ返るほどのことをやらかしちゃうんだよ!
ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!
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