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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第二章  西に行こう!
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第四話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

「おかえり〜!今日も無事に帰って来たな〜!」

 竈に火を入れてフーフー竹筒を吹いていた矢口角兵衛さんが顔をあげて僕らを出迎えてくれたんだけど、

「おやおや、今日もイチは不貞腐れた顔をしておるな」

 と、筋肉質で大きな体格の角兵衛さんは竹筒片手に立ち上がって言い出した。


「だって!だって!角兵衛さん聞いてよ!」

 僕は必死になって訴えたよ!

「先生ったらね!今回もまた敵に突っ込んで行っちゃったんだよ!」


 結局、途中で敵の槍を避け損ねて馬から転げ落ちた僕は、その後、頭の打ちどころが悪かったのか記憶が途切れちゃったんだよね?


 敵に囲まれてああ、もう、死んじゃうよ!と、思っていたはずなんだけど、気が付いた時には血まみれ状態で先生に踏んづけられていたんだよ。

 先生が敵の戦力を粗方削り取ってくれたみたいだから何とか生き残れたけれど、本当に今回は肝を冷やすことになったんだ!


「角兵衛さん!僕!馬から落っこちて!生きるか死ぬかの瀬戸際だったんだ!先生の所為で敵に囲まれちゃって!」

 角兵衛さんは傷だらけの顔に苦笑を浮かべると言い出した。

「また気を失ったんだな!」


「そうなんだ、こいつは正気を失ってしまったんだ」

 先生は顔をくちゃくちゃにしながら肩をすくめて言い出したものだから、カチーンと来ちゃったよね。

「酷くいよ!言い方があまりに酷いよ!僕は子供なんだよ?だったらもうちょっと気を遣ってくれたって良いと思うんだけど!」


「イチ、俺はお前に相当気を遣っていると思うんだがな?」

「確かに!コイツにしては気を遣っている方だと思うぞ!」

 角兵衛さんはうん、うんと頷きながら言い出した。


「コイツはな、基本的には一人で行動をするのが好きなんだ。だというのにお前をここまで連れ歩いているのはなんでだと思う?それだけお前の母さんに会わせてやろうという配慮の現れだと思うんだがな」


「でも・・僕・・これじゃあ母さまに会う前に死んじゃうよ!」

 それだけ戦場の先生は無茶苦茶なんだもの。

 僕の頬をポロポロと涙が流れていったんだけど、

「いや、お前は死なないよ」

 と、先生は何故だか胸を張って言い出したんだ。

「流石は徳一の息子だな、キレた後がそっくりだもの」

 すると角兵衛さんが心底嫌そうに、

「うわ〜、キレたところがそっくりなんだ〜」

 と、言い出したんだ。


 どうやら僕は、死にそうな目に遭うと我を忘れて戦い出しちゃうようなところがあるらしい。これは父さまもそうだったと言うから遺伝なのかもしれないけれど、父さまは集落にいた時にコレで大人十二人をやっつけたとかで、天狗憑きだとか鬼が憑いているとか言われて火炙りになりそうになったんだって。


 そこで助けてくれたのが修験者さまということになるんだけど、僕の聞いていた話と先生が知っている話とで隔たりがあるように感じるよ。


「とにかくイチ、キレるのは良いんだが、お前は自分の意識をしっかり持った上でキレなければいけない。徳一はこれが出来るようになるまでに相当の苦労をしたと聞いている」

 先生は僕の肩を両手で掴みながら言い出した。

「キレても良いから意識を失うな、これからの戦いでも窮地に陥るようにしていくから、その中でお前は自分の意識を最後まで保つように努力をしろ」

「窮地に陥らなくても修行は出来るものなんじゃないの?」

「いや無理だ」

 先生は断言するように、

「それは出来ない」

 と、言うんだけど、先生は負け戦が大好きな人なんだよね?


「ねえ、角兵衛さん。先生ったら窮地に陥るのが大好きだから、あえてそっちの道に進んで行っちゃってるように思えるんだけど、僕の修行とか何とか言いながら、ただ、ただ、自分の好きなことをしているだけのように思えるんだけど?」


「う・・う〜ん」

 そこで返答に困った角兵衛さんは唸り声をあげ出したんだけど、

「まあ!何にせよ死ぬことはないんだから良いじゃないか!なあ!イチ!」

 先生が脳天気にそんなことを言い出したため、角兵衛さんの拳骨が先生の頭の上に落下することになったんだ。


 現在、道場を構えている角兵衛さんなんだけど、先生とは同門の、同じ時期に修行をしていた仲なんだってさ。


 現在、左腕が肘から先がスッパリと無くなっている角兵衛さんなんだけど、現在は足軽身分の人や船乗りさん、漁師さんなんかに剣術を教えているんだって。そんな角兵衛さんのところへ僕らは居候をさせて貰ってもうすぐ一年になるところ。


 焼き討ちにあった比叡山から西へ、西へと移動をした僕たちが、母さまがいる安芸に到着したのが昨年の10月の中頃だったんだ。そこから冬を迎えて春となり、夏を迎えて秋となってしまったんだけど、僕らは相変わらずお城には上がることが出来ずに燻り続けているような状態だったんだ。


 子供が居ない城主さまのために女性が集められているような状態なんだけど、今のところこう着状態になっているらしい。

 誰かが寵愛されているらしいという噂もチラホラ聞こえるんだけど、嘘か本当かは分からない。


 とにかく、母さまが無事でいるってことは分かっているものの、僕は会いに行くことが出来ないような状態で、

「とにかく食客として招かれるほど名を上げないことには仕方がない」

 ということで、残党狩りを続けているような状態なんだけど、

「いつになったら、母さまに会えるんだよー!」

 僕は泣きながら大声をあげちゃったよね。


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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