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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第二章  西に行こう!
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第三話

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 毎日、毎日、色々なところで戦は起こっているし、色々なところで裏切ったり、裏切られたり。あんな名門が没落?嘘でしょう?みたいなことが多い世の中なんだけど、

「我らは滅びぬぞ!絶対に!絶対に滅びて堪るかー!」

 と、叫んでいる人たちがいました。


 推古朝の時代に百済の第三王子が我が国までやって来て、聖徳太子より多々良姓を賜ったのが始まりだとされている一族。大内氏という名家なんですが、内紛、内紛、最終的には世渡りに失敗したのは間違いないです。


 『大内という姓は大内裏を示す大変名誉なる姓と言わなければならない』と言われる程の家で、かつては北九州、中国地方の覇権を確立していたんです。放浪将軍と呼ばれる足利義稙さまを保護して京の都まで上洛したこともあるんだけど、豪族たちがちっとも協力的じゃないどころか主人不在の領地を我が物にしようと企てたため、泣く泣く京の都から引き返したという過去があるんです。


 最近では織田さまが足利義昭さまと一緒に京都に上洛されましたが、そうなると周囲が驚くほど騒ぎ出すっていうのはいつの時代でも同じこと。


 大内氏といえばそれは長い歴史がある家だったんだけど、戦に負けたご主人さまが職務放棄をした挙句に遊興にのめり込んじゃったり、その結果、家臣に謀反を起こされて自害をしちゃったりして、急速に衰退していくことになっちゃったんだよね。


 今の時代、己の領土をどんどん広げて自分の地位と権力を確立させていこうとみんなが考えちゃっている中で、策略家として有名な毛利元就さまが安芸、備後、周防、長門、石見、出雲6カ国を支配する中国地方の大大名になったこともあり、最終的に毛利に大内氏は滅ぼされちゃった形になるんだよ。


 その滅ぼされちゃった大内氏の残党があちこちで決起をしているので、この人たちを制圧するために臨時で雇われることになった僕と先生なんだけど、現在絶賛、弓矢の練習中なんだ。


 どうして弓矢なんだ?

 お前の先生は剣士なんじゃないのか?

 確かに先生は、二尺七寸の太刀を腰から太刀緒でぶら下げて歩く剣士ではあるんです。この古い刀は『甕割刀』という名前がついているんだけど、小豆の入った甕を一刀のもとに真っ二つとしたことがある、備前国の名工一文字の作だといわれているんだって。


 騎馬での戦闘には有利と言われる太刀は地上戦では不向きとされているのにも関わらず、腰に吊るし続けているのが僕の先生です。


「イチ!敵の大将が出てきたぞ!今だ!今だ!」

「わかっています!わかっていますから落ち着いて!」

 木の上に登って敵が突き進んでくるのを待ち構えていた僕は大将に向かって矢を射ったんだけど、カーンと兜に当たって弾かれた。

「クソーッ!」


 僕が木の枝から乗り出してつがえた矢を速射していくと、馬に跨った武将に命中することになったんだ。

「イチ、見事に命中したじゃないか!」

 僕のことを褒めてくれた先生は、一気に矢を五本もつがえて発射しているよ。


 負け戦専門で戦っている先生なんだけど、弓矢は最大七本まで同時に射ることが出来るんだって。多勢に無勢の時には命中なんて考えずに一気に矢を放った方が助かる確率が増えるらしく、僕は現在、三本同時の速射を練習しているところなんだ。


 笠置の山から誘拐されることになった僕の母さまなんだけど、木津川を下って移動をした末に、堺の町から船に乗って安芸の地まで連れ去られてしまったんだ。


 僕の母さまは天女と見紛うばかりに美しい人だったんだけど、やっぱり何処かの(北の方にある)有名な家の出身だったらしくって、

「側女として潜り込ませることが出来ればこれほど重畳なことはなし」

 ということで、政略のために連れて行かれちゃったみたいなんだよ。


 丸焦げになった比叡山を後にした僕らは、母さまが連れて行かれたという安芸まで追いかけて行くことになったんだけど、あちらの方ではかの大大名毛利元就さまの大々的な葬儀が行われていたみたいなんだ。


 この葬儀をとりまとめたのが毛利元就さまの三男、小早川隆景さまという方なんだって。養子に出された末に婿養子となって今は安芸を治めている人なんだけど、この人、奥さんとの間に子供が一人もいないんだよ。


 多忙を理由に側女や愛妾も置かない人なんだけど、葬儀のためにしばらくの間は安芸に居るだろうし、子孫を残していくためには誰かしら女性は必要になると考えた方々が、

「うちの娘はどうか?」

「いやいや、うちの娘はどうか?」

 と言い出しているような状況だよ。


 母さまの実家も、

「大大名が亡くなったのだから、弔問のために人を送らねばならぬな」

 と、考えたし、

「そういえばあそこの三男、子供がまだ居なかったよな?」

 とも考えた。

「そういえば逃げ出したあの娘は笠置の山に居たんじゃなかったかな・・」

 ということまで思い付くことになって、美人の母さまは側女候補として連れて行かれることになったみたいなんだ。


 そこら辺の事情を守護代さまから聞いていた先生は、

「ということだから、無体な目にも遭ってはいないであろう」

 と、言い出した。そんなわけで、負け戦専門で戦う先生は比叡山に向かって出発したわけなんだけど、到着してみればすでに戦いは終わったような状態だったんだ。


 それじゃあ、何で今僕らが大内氏の残党と戦っているのかというと、それには理由があるんだよ。


 なにしろ僕ら庶民が突然お城まで行って、

「母さまに会わせてください!」

 と言ったところで会わせてくれるわけがない。


 お世継ぎ問題については頭を抱えている家臣団は、側女候補としてやってきた女性たちをお城に滞在させているらしいんだけど、その中には天女と見紛うばかりに美しい僕の母さまもいるっていうんだよね。


 僕の母さまがお城に居るってことは分かったけれど、一般庶民が簡単にお城に上がることなど叶う訳がない。

 だからこそ戦いで活躍をして、少しでも名を上げる必要があるんだけど・・

「イチ!下に降りるぞ!」

 先生に抱えられた僕は木から飛び降りることになったんだけど、そこには主人を失った馬が走り抜けようとしていたところだったらしく、

「先生、後ろは任されました!」

先生の背中に僕の背中を合わせる形で馬の上を移動した僕は、物凄い形相で追いかけてくる男たちに矢を放つ。


 先生は腰にぶら下げていた甕割刀を引き抜いたんだけど、馬上でこそ有利に使えるという剣だもの。

「うぉおおおおおっ!」

 物凄い形相で向かってくる騎兵を撫で斬りに斬り捨てると、馬を即座に反転させるのが先生の癖みたいなものだよ。


 多勢に無勢が大好きな先生は、敵に突っ込んでいくことに生きがいを感じているところがあるんだよなあ。


ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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