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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第一章  僕と先生のはじめの物語
2/74

2)

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 この合戦は辰市城を守る筒井順慶っていう人と、城を落としてやるぜ〜!と気炎を吐いている松永久秀という人の戦いだよ。

「松永!てめえ!やっぱりお前は殺す〜!」

 と、怒りの声を吐き出しているのが筒井さまだよ!


 戦国の世は毎日誰かが裏切り、誰かが裏切られているような状態だったんだけど、今回の裏切りは、

「うわっ!すっごい裏切りだ〜!」

 というような裏切りだったんだ!


 城を守る筒井さまにも城を攻め落とそうとする松永さまの下にも数々の武将が名を連ねているわけだけれど、今回、柳生巌勝さまの実父柳生宗矩さまが判断を誤っちゃったのは間違いないよね。清廉潔白を好む柳生様だけど、今回に限っては裏切り者の松永さまの方に付いちゃった。その結果、息子を死地に送り出す形となってしまったわけですね。


 そんなご子息を守るために先生は合戦に(喜び勇んで)参加したわけですが、さてさて、目の前には黒馬にまたがる敵将沼木蔵重が馬を走らせて先生の元へと向かってきます。


 馬ってこちらが想像しているよりも数倍足が速い生き物だと思うし、訓練した馬は死体だって、生きている人間だって踏みつけながら走ります。


 搦め手門前は敵味方を入り乱れての混戦状態となっているが為に、城壁からの弓鉄砲の攻撃はやんではいるけれど、敵将までの距離二間。あえて距離を縮めるようにして走り出すのが先生であり、疾風のごとき速さで立ち向かった先生は、一度長剣を鞘へと差し戻しました。頭がおかしいに違いありません。


「ハッ」

 腹の底から息を吐き出すと、先生は、血が滴る地面に膝をつき、敵将が跨る馬の下へ、弓なり状に状態を反らしながら滑り込む。そこでようやく鞘から剣を引き抜くと、縦一文字に馬の腹を斬り割いていったわけ。

 馬は臓物をぶちまけたまま横倒しとなって倒れ込んだわけですけれど、臓物を食らった先生の頭は血まみれ状態になっております。


 馬の下敷きとなったまま先生を見上げることになった敵の武将は、死神を見たような心持ちとなったことでしょう。

 馬の腸を頭からかぶることになった先生は確かに死神です!間違いありません!

 容赦無く敵将の喉に剣先を突き込んで絶命させた先生は、その首級には興味もない様子で周囲をぐるりと見回しました。


 現在、裏切り者の代表格となっている松永さまですが、約一万の兵をもって辰市城での合戦を始めております。かつての主である筒井順慶へ弓を引いた松永久秀は多勢によっての攻撃で戦を優位に運ぼうとしていたのは間違いない。


「むっ」

 先生は自分が殺した馬の上に乗って戦況を確認していたわけですが、この時、福住順弘、山田順政率いる軍勢が筒井さまへ味方するために到着する前だったにも関わらず、絡め手門前の戦況を見回した先生は、

「この戦!負ける!」 

 と、長年の経験と勘で判断を下すこととなりました。


 先生は負け戦が好きなんですけど、負け戦に参加をし過ぎて、勝つか負けるかは序盤で分かるのだそうです。

 しかも、しかも、前の主君を裏切って勝つつもり満々だった松永久秀さまは、

「筒井方のアホ共が!これを見よ!お前らもこんな風にしてやるからな〜!」

 人質目的で預かっていた八歳となる井戸良弘様のまだ八歳にしかならない娘を、高々と掲げながらこれみよがしに殺してしまったっていたわけですよ。


 ちなみに井戸良弘さまは辰市城を急拵えで造り上げた人であり、裏切り者の松永様を迎え撃つために指揮を任された方ということになりますから、城に立て篭もる兵士たちの悲憤たるや凄まじいもので、ただでさえ難しい城攻めが、これがきっかけとなって難攻不落になったのは間違いない。


 そんな訳で絡め手門の前までやってきた先生は、筒井方の軍勢と戦っていたんですけど、

「ああ、これ負けるわ」

 と思ったのだそうです。


 敗走するならば、まだこの場では自軍が数の上で優位にたっている今しかないと判断をした先生は、自分に襲いかかる敵兵を撫で斬りに斬り落とすと、前方にいる馬上の柳生巌勝の姿がぐらりと揺れるのを見たわけです。

 周囲を敵に取り囲まれ、何処かを負傷したみたい。

 かなりまずい状況だと言えるでしょう。


 見境のない先生は、敵を薙ぎ払いながら巌勝さまの元まで追いつくと、巌勝さまが乗る馬の足を斬り払ったんですね。酷いです。

 指揮を出す馬上の武将は標的にもなりやすいので、仕方がないとも言えるのですが、いやいや、そこで斬りつけた馬を敵方に蹴り倒していくあたりが先生らしいとも言えるでしょう。


 馬が敵兵を巻き込みながら倒れ込んでいる間に、巌勝さまを自分の肩の上に担ぎ上げた先生は、

「馬上にあっては恰好の敵の的、某がお運びいたす。お味方方々には周囲の守りを願いたい」

 凛とした声音で一声上げるや、なりふり構わぬ様子でその場から走りだしたそうです。


「「「若をお守りしろ!」」」

 柳生家の跡取り息子ですからね!

「「「後に続け!」」」

 柳生家の人々も、この城攻め、そんなに簡単にはいかなそうだなと理解しておりますし、若様も怪我をしたし、ここはもう我らは手を引いた方が良いかもしれないと早急に判断することになった訳です。


 裏切り者の松永さまですが、この方、大層優秀だったことから将軍様と三好家の仲介を行うまでに出世をした方でした。織田家との和睦の目的で自らの娘を養女として差し出してもいるのですが、やっぱり織田さまを田舎者と侮ってもいたんでしょうかね?


 途中まで織田様につこうか・・いやいや将軍様につこうかしら?と、両天秤にかけ続けたみたいなのですが、やっぱりエリートの血筋を尊ぶのなら将軍様でしょうと心に決めて、織田様を支持する主筋である筒井様を裏切って、

「下郎共よ!我が刃の元に滅びてしまえ〜!」

 と、軍討伐に舵切りをした訳だけれど、

「「「裏切り者を殺せー!」」」

「「「裏切り者を斬り殺せーっ!」」」

 城に攻め入る前に八歳のお嬢様を殺していますからね。

 ただの裏切りではないのです。


「「「この外道野郎!ふざけるな〜!」」」

 城の中の兵士たちは激怒することになったのは言うまでもないでしょう。

 多門院日記にも『大和で、これほど討ち取られたのははじめてのことだ』というようにも記されている通り、城攻めに失敗をし、大敗を喫することになった松永さまは首級を500も敵方に献上した形となったそうです。


 先生が、

「ああ、これ負けるわ」

 と、いち早く思わなければ、柳生巌勝さまの首級も筒井様へ献上されることとなったでしょう。


本日、先生との出会いまでの三話を掲載、次は18時に更新します!懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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