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一鬼  〜負け戦専門の先生と僕の物語〜  作者: もちづき裕
第二章  西に行こう!
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第一話

本日より第二章が始まります。物語の関係上、前後の歴史的背景の説明がちょっとだけ続きますが、最後までお付き合い頂けたら幸いです!よろしくお願いします。

「なんてことだ〜!」

 先生は力尽きたように膝を土につけると、両手で地面を叩きながら、

「なんてことだ!この俺が遅れを取るなんて〜!」

 と、絶叫したんだよね。


 家を焼かれ、家族を殺されて絶望しきっていた人々も、先生の悲嘆ぶりを見てポロポロと涙をこぼし始めているよ。


「そうよね・・まさかこんなことになるとは思わなかったわよね」

「そうよ、そうよ、あなたも大事な人を殺されたんでしょう?」


 たまたま通りかかったおばさんたちが、地面を叩き続ける先生の肩を撫でたり、背中を撫でたりしながら言い出したよ。

「本当にこんな酷いことがあるなんて・・」

「ああ・・なんてことかしら・・」

 悔しがっている先生が泣き出しているものだから、先生を励ましていたおばさんたちもつられたように泣いている。


 そうしたら、

「なんだ?なんだ?」

「どうした?どうした?」

 戦で焼け出された人たちが集まってきて、絶望する先生を中心にして大勢が泣き出したんだ。


 ちょっと待って、ちょっと待って。みんなは先生が大切な誰かを失って絶望していると考えて、貰い泣き状態になっているんだろうけど、そうじゃない、そうじゃない。


「チキショウ・・なんで間に合わなかったんだ・・」

 先生は無茶苦茶悔しがっているだけなんだよな。

「なんで間に合わなかったんだよー!」

 先生の魂の叫びは周りの人々の心を揺さぶったのは間違いない。


「きっと自分の家族がお寺に預けられていたのよ」

「もしかしたら出家していたのかもしれないね」

「私たちだって大事な人を失ったわ!」

「こんなことがあるなんて!」


 違う、違う、違う。

 先生は大事な誰かを救い出せなかったことに絶望しているわけではなくて、完全なる負け戦に参加出来なかったことに深く絶望しているんだよ。


 川場の町を出発した僕らは船に乗って木津川を下り、都に入ってからは琵琶湖の方面から回り込む形で比叡山へと向かうことになったんだ。


 比叡山はゆっくり歩いても二日あれば辿り着ける距離にあったんだけど、僕は怪我がまだ治りきったわけじゃないし、無理して歩いて傷が開いても困るって事でゆっくり歩きながら北上を続けたわけだよ。


 そしたらさ、

「織田様たちが遂に火をつけたらしいぞ!」

「大変だぞ!坊さんたちが斬り殺されて山積みとなっているらしい!」

「こんなことが本当に起こるなんて!」

「なんて罰当たりなんだ!」

 と、通りかかった町の人々が驚き慌てて、騒いでいるところに出くわすことになったんだ。


 ここから先生は僕をおんぶして飛ぶようにして走って行ったんだけど、すでに比叡山は真っ黒な煙が山全体を覆っている形で、方々中で炎が燻っているような状態であり、

「あああ!なんてことだ!絶対に間に合うと思ったのに〜!」

 先生はガクリと項垂れて絶望の声を上げることになったんだ。


 比叡山が燃やされた。

 毎日、毎日、戦、戦、戦の世の中だから、何処かしらのお寺が巻き込まれて燃やされるなんてことはしょっちゅう起こっているんだけど、

「比叡山を燃やせ〜!」

 お寺だけを目がけて火を掛けるだなんて、罰当たり過ぎてなかなかやれることじゃないよ。


 比叡山は琵琶湖のすぐ隣にあって、京の都を見下ろす形で寺社坊塔が広がっているんだけど、比叡山が燃やされることになったのには、それなりの経緯というものがあるんだよね。


 そこらへんの説明なんて面倒くさい〜と思うかもしれないけれど、これを知らないと背景がちっともわからないことになっちゃうので、ちょっとだけ簡単に説明をさせてもらうとなんだけれども・・


 一国一城の主たちは天下統一を目指して戦力を掻き集めているような時代、

「なんで寺とか神社とかが兵力を確保しているんだよ〜」

 と、疑問に思った男が居たわけさ。


「そもそも坊さんてのは金を集めすぎ、美味しいもの食べ過ぎ、しかも美人を囲って楽しんでばっかりで、自分たちだけ極楽を味わっているんじゃないのか?なあ?」

 とも考えていたとは思うんだけど、有名なお寺なんかはそりゃあ広大な敷地を確保して、寄進という名の元に集められたお金やお宝を守るために、たくさんの僧兵を確保していたってわけなのさ。


「あいつら(お寺)の力を削いでやりたい・・」

 と、考えた織田さまは比叡山延暦寺の領地を無理やり奪って自分の荘園としてしまったんだけど、これが後の騒動へと繋がっていくことになるんだよね。


 織田さまに知らぬ間に領地をぶんどられて困っていた比叡山は朝廷にお願いして、

「横領した土地は返しなさい!」

 ということを言って貰うことにしたわけさ。要するに、寺領回復を求める論旨を送って貰ったんだけど、要求はあっさり拒否された。この時、

「なにアイツ、マジでムカつくんだけど〜!」

 と、比叡山側は思ったってわけ。


 領を返して貰えないまま日々が過ぎる中、毎日のようにあちこちで戦をしているし、皆んなが、皆んな、京の都を我がものにしようと企んでいたんです。


 織田さまの義理の弟であり同盟関係にあった浅井さまは、足利義輝さまの暗殺後に織田さまの力で足利義昭さまが将軍位に就いたため、

「あ!本当に天下を統一するつもりなんだ!」

 と、思ったんですね。それまで織田さまったら気に入らない武将の首とか平気で飛ばしているところがあったので、浅井さまは、

「あの人、このまま上手くいったら、浅井家なんて簡単に切り捨てそうじゃない?」

 という風に思いこんじゃったわけなんです。


 こちらが切り捨てられる前に、こっちから切り捨ててやるわいと考えた浅井さまは朋友朝倉義景さまに声をかけて、織田さまが摂津に釘付け状態だから今のうちに京まで上洛しちゃおうよって声をかけた。ちなみに朝倉さまも織田さまと同盟関係にあったんだけど、

「俺はお前について行くよ!」

 ということで、友の手を取ることにしたってわけ。


 え?お前の先生と浅井さま、朝倉さまと何の関係があるだって?

 それに話が長すぎるって?

 待って!待って!もうちょっとで説明は終わるはずなんだからさ!


第二章が始まり、比叡山の焼き討ち前後の歴史はものすごく複雑で・・端から説明したら大変なことになるのは間違いない状態となるため、考えに考えた末、軽く説明を入れる形になっています。

ゴリゴリの時代小説をライトに描いておりますが、これから有名人とか、悪い奴とか、どんどん出てくる予定でおりますので、懲りずに最後までお付き合い頂ければ幸いです!!

もし宜しければ

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